第20話 デッドヘッズ【14:35】
「――いた!ライドルトくーん!」
ライドルト君は消防の人に救助されていた。
救助してくれた人に事情を聴くとジェット機の下に隠れていたらしく、助け出したと。
飛行機の下でヒートレイからうまく生き延びたようだ。
今は救助の人からもらった毛布をかぶり、三角座りしている。髪、服びしょびしょだ。
多分、消火活動で水を思いっきり浴びたのだと思う。
「ぐふぇ……ごべんなざーい、ぼく全然役にだでなくで~~~うえええ~~」
ぐしゃぐしゃに泣いているが生きていた。
「ほら。怪我がないならライドルト君はここに居るんじゃなくてあっちでしょ。早く行こう」
「ごじ
……面倒くさいなこいつ。
「もう、男の子でしょ?男ならあたしのおとーさんみたいにしなさい!」
「うええ~~ん、ぼぐたいちょうみたいにカッコよくありませ~~ん」
おっとわかってるじゃないかこいつ。しょうがない、連れて行ってやるか。
ひょいと抱えてライドルト君を拠点まで運んだ。
・・・・・・・
「ただいま~ライドルト君無事だった~」
「……なんでビショビショの男の子をお姫様抱っこしているんですかー?」
しまこにツッコまれてしまった。
おとーさんとケイカ姉さんの応急処置はしたが緊急搬送されてもうこの場所には富子さん、ソゥ、しまこしかいない。
あたしは万が一、再攻撃があった際の対応要員として残業中である。
「だっておんぶとかしたらあたしも濡れちゃうじゃん……」
本音が漏れてた。
濡れた腕に感じる違和感を感じていた。
なんというか、触れた感じ女の子みたいな柔らかさだったのだ。まさかとは思うが、その辺はあまり考えないようにしよう。
「アキさん、わかってて聞いたボクも悪かったですが正直すぎです、もうちょっと気を使ってあげてください。それはそうとライドルト君よく生きていましたねー」
あたしに対してのツッコミもわかるけど、ライドルト君への言葉の暴力はやめようね!
「飛行機の下の隠れていたんだって。よく火傷とかしなかったよね」
ライドルト君を床に置くと、べちゃっと濡れ雑巾のように……音はしていないが、しなしなと崩れていった。
まだしくしく泣いている。
「ライドルト君、そのままだと風邪ひいちゃうから着替えなよ。あたしたちは外に出ているから」
ここにはライドルト君以外女しかいないので、さぞかし脱ぎ辛いだろうと気を利かせて全員で出ていく。
「アキさん、たいちょーとケイカさんの怪我治せなかったのでしょうか?」
しまこが酷なことを聞いてくる。
「あたしのヒールについてしまこに話したことあったっけ?」
「いえ、ボクが知っているのは世界を――もごぉっ!」
しまこは一緒に居た富子さんとソゥに口を塞がれてこれから誘拐される子供の図が完成した。しまこは息苦しいのかじたばたしている。
「バカ!どこで誰が聞いているのかわからないのにこんなところでペラペラ機密情報を話したり聞いたりしてるんじゃない!アキさんも気を付けてくださいね」
「危ない危ない。バカのしまこに乗せられるところでした。富子さん、ソゥ、ごめんね、ありがと!」
富子、ソゥ二人でサムズアップして返答してくれた。
さっきしまこが言ったヒールについてだけど、あたしの魔法は万能ではない。
みんなの想像ではゲームや物語で知っているような魔法を唱えると簡単に怪我が回復するようなものを思ったのかもしれない。
あたしが居た異世界ではヒールとは名ばかりで本質はヒーリング(癒す)でなはく、“ある一定の未来まで対象部位の時間を進める”と言う、なんとも使いにくい魔法である。
擦り傷程度なら魔法で代謝を超速にして治った状態にすることができる。
仮に体の切断など――ちぎられた腕を接合した状態であればヒールで治る。
だが、今回のおとーさんの腕のように爆破してしまって完全に欠損した腕は元には戻らない。
あたしのヒールを使ってしまうと無くなった腕の断面が塞がって腕が生えてくることはない。
元に戻せないおとーさんの腕の事で落ち込んでいたら、セイカ姉さんに『任せておいて!ちょうどいい腕があるのよ!』なんて鼻息荒く言われて余計に心配になったのだけど……大丈夫かな、おとーさん。
ケイカ姉さんは切られた指をおとーさんが持っていたので、手術して接合してもらった後であたしがヒールを使うと明日にはちゃんと治るだろう。
あともう一点気を付けなければいけない点がある。
“ある一定の未来まで対象の時間を進める”という事は進めた分、老化するという事だ。
この怪我の回復まで3年くらいかかるだろうと思って3年時間を進めたら、その部分は3年老化する。
この老化に関して、あたしたち家族には相性がいい。
うちの家族は加齢しないのでいくら使っても老化しない。
その原理を利用して幼くなったセイカ姉さんにヒールをして元の年齢に戻そうとしたけど、逆に若返る時間を進めてしまうかもしれないと懸念されたので使っていない。
このヒールの仕組みに関して、他の帰還者と接触した感じた事だけど同じ認識だったと思う。
このヒールの特性に関しての知識は対帰還者と戦闘するにあたって絶対に把握しておく必要がある。
余談だがあたしのいた異世界で“ある一定の過去まで対象の時間を戻す”という未来と過去を反転した回復魔法を使える魔法使いが一人いると聞いている。
実際に会った事はない。
なぜなら遠い昔の魔法使いで誰も会った事が無い、魔導書で伝承されているレベルのお話だ。
「アキさん、隊長…お父さんはお姉さんがなんとかしてくれるよ。きっと大丈夫だから」
「……ありがとう富子さん」
心配していたことが顔に出ていたのだろうか、優しい富子さんが励ましてくれる。
富子さん、戦っている時は鬼の形相でめちゃくちゃ怖いのだけど普段はおっとりとした雰囲気の優しいお姉さんだ。過去に何があったのか興味がある。
まあわかっているのは、あたしより年下って事なんだけどね……。
直視できない現実だ。もっと彼女のように落ち着きたい。
「ぐすっ。あのぉ~」
ライドルト君が軍用トラックから顔をのぞかせた。髪はまだ濡れているが、着替えは終わったみたいだ。
ライドルト君にはおとーさんの着替えを渡したのだけど、いささかサイズが大きかったみたいで、ぶかぶかの彼シャツみたいなことになっている。濡れた髪に彼シャツ、ちょっと胸元が大きく開いて鎖骨とか見えてなんかエッチだ……これ大丈夫?
そういえばおとーさんの替えのパンツも渡していたのを思い出した。これはライドルト君にあげよう。返却されたパンツをおとーさんが履くのは汚いとかそういうのではなく、なんかヤダ。
「どうしたの?あら、肌着だけしか着ていないけど寒くない?」
富子さんが答える、あたしはじろじろとライドルト君を見ている。
「いえ、とりあえずこれで大丈夫です。あの~イズライール・ブルースはあの後どうなったのでしょうか?」
ライドルト君、腰も細いしおしりも小さいなぁ。
あたしは「ケツがでかい」とおとーさんに言われているがあたし知っている。おとーさんは大きいおしりが好きだということを。ソースはおかーさん。
――などと考えながら、あたしはあごに手を当てライドルト君の全身を見回していた。
「あの……アキさん?僕どこか変な所でもありますか?」
ライドルト君は恥ずかしそうに手でおしりを隠したりしている。こういうところなんだよな~男のくせにずるい、けしからん。
「あいたっ!」
「こら、男の子相手でもそうジロジロ見ちゃダメよ」
富子さんにチョップされてしまった。
『それについては言えることと言えないことがあるから私が答えるわね』
デバイスからセイカ姉さんが会話に入ってきた。
『現在、イズライール・ブルースは大きな負傷等ない為、身柄をD号車で拘束中よ』
怪我がなかった事に対して安堵したように見受けられる。
あたしから言わせればおとーさんとケイカ姉さんがケガさせられているので全然そんな気持ちにはなれないけどね。
「あのっ!ドクターオギツキ、彼と面会とかできないでしょうか?」
『それはダメよ。彼は重要参考人でこれから手厚い警護で搬送される予定となっているわ。――そうそう、話のついでで申し訳ないのだけど、富子、ソーニャとしまこは搬送用の航空機が到着次第、警護任務にあたってもらうので、そのつもりで』
「「了解」」
「わかりましたです~」
『その他質問等あれば聞くけど?』
「いえ……もう大丈夫……です」
『そう……ライドルト二等兵曹。イズライール・ブルースとの繋がりへの疑惑は晴れたけど、先ほどの戦闘に置いて任務の放棄、逃亡を図ったことから現在あなたの処遇について審議を行っている。このままB号車にて指示を待て』
「はい……了解」
今度は明らかに元気がなくなった。そりゃそうか。
『それとオギツキアキ』
「は~い?」
回線が秘匿回線に切り替わった。
『約15分後に到着する搬送用の航空機の離陸を見届けた後、ここから10km先にある病院へ移動。今晩は病院でオギツキケイカ所長並びにオギツキアツシの警護、明日本部へ帰還の予定としているのでそのつもりで』
「おとーさんの容体は?」
『今処置中よ。
……心配しないで。ちゃんと元通りに治すから、だから慌てて病院に来たりしないで。また高速移動しているところをSNSでアップされることは避けてちょうだい』
「わかった。ちゃんとするからおとーさんとケイカ姉さんをお願いね」
――大きな任務は終わったけど、各々の残務処理が始まった。
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