第16話 デッドヘッズ【08:08】②



 部隊の中では俺が一番最初に部屋に到着したが、部屋を覗くとすでにケイカが待機していた。



「SAVマルイチ到着しました」


 俺の上官にあたるケイカへ敬礼して入室した。娘とは言えそこは規律が大切だ。


「ご苦労様、先に言っておくけど連日の緊急出動になるので気を引き締めておいてください」


「了解……」


 ビジネスライクな会話。ケイカと砕けた会話をしたのはいつくらい前だったのか……。


 部隊の連中全員が揃い、最後にアキが入ってきたところでブリーフィングが始まった。今回もアキが参加するのか。



「みなさん、ご苦労様。これからミッションを説明します。今回は2チーム編成で作戦に当たってもらいます。これは事前から決まっていた北海道での監視対象U-6に関するものよ。本来ならみなさんの同行予定はなかったのだけど、本部からの指示で私以下SAVの数名同行で状況確認が必要となりました」


 そういえば昨日ケイカから「明日は出張があるからお弁当は弁当箱じゃなく食べたら捨てられる物にして」と聞いていたのでおにぎりと水気の出ないおかずにしていたのを思い出した。実際U-6というのはまだ帰還していない対象のはずだ。現場に赴く必要があるが、危険があるから俺たち部隊を連れて行くという事か。



「ここからがもう一つのミッション、本日発生する帰還者のデータよ」


 そう言ってケイカはSAVの隊員にデータ送付する、俺も確認した。


 対象は四五口宗助【しごぐちそうすけ】消失時2071年4月25日 当時25歳 男

 発生予想場所は武藤ビル8F現在は本組織が所有

 発生予想時刻は10:55


 あと2時間後だ。場所はここから車でちょうど2時間くらいかかる。これは空での移動になりそうだ。


 気になる点は発生場所が会社のビルだという事だ。今まで自宅の寝室で発生してきていたので初めてのパターンだ。


 あとは……消失時から3年で帰還するという事。これは前例からしても短い帰還となっている。こういう場合、大体ミッション失敗になる強敵が多い。こういう時にメンバーが分断されるのは少々痛い事だ。



「はい。軽く目を通してもらったところで説明を続けます。今回のチーム編成はこちらで決めさせてもらっているわ。送ったデータをスライドしてください」



【U-0085→K0022四五口宗助処理チーム】

 ◎オギツキアツシ兵曹長

 ロジャー・ボーン一等兵曹

 ジャンカルロ・ロランディ二等兵曹


【U-6 オギツキケイカ護衛チーム】

 ◎トミコ・シャンボン一等兵曹

 ソーニャ・エレメイ・ヴォロビエフ二等兵曹

 タルザキ シマコ二等兵曹


 オギツキアキ


 ※ ◎は現場指揮官とする



「は?なにこれ。処理チームが3人って危険じゃない。あたしが処理チームにいる方が普通でしょ?」


 アキがメンバー配置を見て、まくし立てる。



「オギツキアキ。まだ説明は終わっていない。意見は最後まで説明を聞いてからよ」


 ケイカが厳しく答えて現場の空気が一層引き締まる。アキはイラつきの表情を隠さずに押し黙った。俺はアキに落ち着くようにと言う意味も含めて視線を送った。



「本来U-6の調査は私と数名の技術者で行う予定だったのだけど、オギツキセイカからの報告で情報漏洩が確認されている。現場はすでに警戒体制だけど、ここからの移動に関しても護衛が必要になったと言う訳です。K-0022四五口に関しては異世界滞在期間が短い事から3名での対応で十分との本部から回答を出している。今から上告して回答を待つ時間はないわ。つまりオギツキアキ、あなたの意見を聞いてあげられる時間がないという事よ。わかった?」


「…………おとーさんが死んでもいいって事なの?」


 アキの声が低くなっている。かなり怒っているな。



「はーい!小官に30秒時間をくださーい!」


 これはまずい。姉妹でケンカなんて良くない。俺もこのミッションについては言いたいことがあるけど、そんなことよりこの場を収めることが先決だ。



「なんですか?時間がないって言ってるでしょ?」


 ケイカもちょっとキレてるな。余裕がなくなってる感じがする。



「ちょっとだけ!お願い!」


 手を合わせてお願いした。面倒なので許可を貰う前にアキを連れて部屋から出た。



「なによ!ケイカ姉さん!死にに行けって言ってるのと一緒だよ!ひどいよあんなの!北海道なんて一人で行って海鮮丼とか食って太ればいいんだよ!」


「アキ北海道は海鮮丼だけじゃないんだぞ……いやそんな事は今はどうでもいい。俺はこのメンバー分けで良いと思っている。ケイカにアキがついているから俺は安心して仕事ができるよ」


「おとーさんは良くてもとっても危険なのは変わりないよ」


「そうかもしれない。でもケイカが危険だとわかっているところに一人で行かれて俺が心配しないわけがないだろう?そうなったら俺のパフォーマンスが落ちるし、そもそも俺が帰還者に負けると限ったわけじゃない。だからそんなに怒らないで俺の言う事を聞いて――」


「じゃあ言う事聞いたらデートしてくれる?」


 いつも一緒にいるじゃないか。と野暮なセリフが出かかったが今はそうじゃない。親子デート位、時間があるときはいつでもしてやれるのに、俺が目覚めてからアキはあまり我が儘言わなかった。


 おそらく俺に気を使ってくれていたのだろう。


 いや多分気を遣わなかったのは俺の方だ。



「ああ、わかったアキが行きたいところに行こう。だからケイカ姉ちゃんを守ってくれよ?」


 ――俺は死亡フラグを立てることでアキを宥(なだ)めることができた。



「お待たせしました。オギツキ所長説明は以上でしょうか?細かい話はHQから説明ありますよね?」


 アキを連れて部屋に戻った。全員こっちを向いているけど白い目で見られている。お前ら露骨だな。



「はい。時間がないので各々状況を開始してください!」


 ケイカの掛け声で全員で返事をしてロジャー、Jと現場へ向かった。

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