飼い人ポチは帰りたい
米鐘数奇
第1話 魔物娘たちと命の危機
気がつくと、僕は女の子たちに囲まれていた。
ああ、いや、これじゃなんにも伝わらないな。
もう少し詳しく説明しよう。
目が覚めると、座り込んだ姿勢の僕は異形の女の子達に見下ろされていた。
ええ、これでも何も伝わらないって?
まあ待ってくれ、状況の整理をしよう。
まずは僕を取り囲んでいるどこか奇妙な女の子達からだ。
一人目は金髪碧眼の女の子。
好奇心の強そうな娘、と言えば良いのだろうか。
白衣を羽織った彼女は丸いメガネ越しに大きな瞳を精一杯に動かし、コチラの様子を隅から隅まで観察しながら紙に何かを書き殴っている。
オマケに何かを口走っているが、その内容は今まで聞いたことのあるどの言語とも違っていた。
まあソレだけならただの外国人に聞こえるかもしれないけれども、よく観察すると彼女の腰まである長髪から飛び出した耳が長く尖っているのがわかる。。
オマケに今までテレビの中で見た事もないくらい美人だ。パンツスタイルの上からその優れたプロポーションが見てとれ、白衣の内側のシャツは可哀想に、暴れん坊な主人の身体によって虐められているのに、健気にも彼女を護ろうと耐えている。
その献身に対し、僕は祈りを捧げることしかできない。
おお神よ、彼らを解き放ちたまえ。
思わず拝んでしまったが、コレは何も僕が敬虔なる信徒だからというわけではない。
何というか、彼女の雰囲気が僕をそんな気分にさせるのだ。
気のせいか彼女の周りの空気が揺らいでいるようにも見えるし。
彼女はそう、僕のゲーム知識に照らし合わせるとエルフというやつだろうか?
彼女の纏う何処か神聖な雰囲気は森の妖精という言葉がピッタリだろう。
二人女の子は緑の髪に茶色の短髪のおっとりとした感じの女の子。
感情の分かりずらい表情をした彼女は、ゆらゆらと揺られている。
頭に花を着けた彼女は、エルフの女の子が早口に捲し立てているのをのほほんと聞き流しているように見える。まあ内容はさっぱり分からないんだけど。
そんな彼女だが、人間と明確に違う点が一つある。
ソレは彼女の身体、上半身が巨大な花冠から生えていたことだ。
他にも彼女の周りを植物の鶴の様なものが動き回っていたりと不思議な部分はない事もないけれども、やはりその下半身からは眼を離せない。
ああ、コレはそういった意味ではないよ。
だって花に呑み込まれて見えない下半身よりも、その慎ましやかな胸を最低限の葉っぱで隠した上半身の方がゲフンゲフン。
いやまあ中身がどうなっているかは気になるのだけれどね。
そんな彼女もまた独特の雰囲気を纏っている。
何というか、僕らとは流れている時間が違う感じ。
彼女の周囲だけ、まるで時間がゆったりと進んでいるような、そんな感覚に陥る。
彼女はそうだな、アルラウネ、と言うやつだろうか。
花と一体化した女性というその特徴は、彼女にそのまま当て嵌まる。
三人目は黒いフワフワな髪を背中に伸ばした、金色の瞳を持つ女の子。
その身長は高く、恐らく立ったときの僕よりも大きい。
どこか交戦的な意思を感じるその瞳は今、コチラをまるで獲物を見るかのように鋭い目つきで見ている。
た、食べられてしまう……。
そんな彼女だが、最大の特徴はその頭上に生えた二つの耳。
恐らく狼の耳だろうか?
あまり詳しいわけではないが、彼女の目の動きに連動するかのようにピコピコと動くその耳は恐らくコスプレカチューシャなんかじゃないんだろう。
彼女はワーウルフ、というやつだろうか。
満月に変身すると言われている狼男とは違うかもしれないが、狼の特徴を持った獣人という意味ではそう表現するのが適切ではないだろうか。
そんなことを考えていると、コチラをじっと眺めていた金色の瞳がキラリと輝く。
もうダメかもしれない。
舌なめずりした彼女がコチラを見る瞳がギラギラと輝いている。
ゆっくりと近づいてくる彼女はおそらくコチラを食糧としか見ていない。
思わず僕は後ずさるものの、すぐ壁にぶち当たる。
しかし後ろを見ても物理的な壁までは距離がある。
まさか光の壁によって動きが制限されている⁈
というか何だここ。
彼女たちの姿に気を取られていたが僕のいるここもなかなかに様子がおかしい。
床に刻まれた光り輝く幾何学的紋様、魔法陣と言えばいいだろうか。
そもそもこれがなぜ光っているかも分からないし、どうしてここから出ることができないかも分からない。
まあそんなことを言ったらそもそも目が覚めたら突然こんな場所にいたのも意味がわからない。
今流行りの異世界召喚ってやつか?
異世界にきてなんかチートとかを貰って無双しちゃうやつなのか?
いやでもそうしたら僕が今感じているこの危機感はいったい何なんだ?
見るとワーウルフの彼女が光の壁をガツガツ殴っている。
この壁、一応彼女にも効くのか。
一瞬気を抜きかけたものの、ミシリという音と共に光の壁にヒビが入る。
やっぱりもうダメかも。
全て諦め神に祈りを捧げようとしたその時、今まさに光の壁を破らんと振りかぶった彼女の腕を植物の蔦が絡めとる。
動きを邪魔された彼女は何やら大声でがなり立てているが、エルフの少女がソレを嗜めている、ように見える。
というのもやっぱり話している言葉がわからないからだ。まあ雰囲気でわかると言えばわかるのだが。
しかし神はいたのか。
僕を救ってくれた蔦の主人を、感謝の念を込めて見つめる。
ダメだ、伝わっていないっぽい。
見るとアルラウネの少女はやはりぼーっとしたような表情で首を傾げている。
まあいい、感謝の念を込めて拝んでおこう。
小さきものには福が詰まっているんだ。
眼を瞑って小さな膨らみに想いを馳せていると、後頭部にむにゅりと柔らかな感覚。
ああ、とうとう僕の妄想力も触覚を感じるまできたか、と思ったのも束の間、肩を掴まれグイッと強引に身体が後ろを向けさせられた。
血のように紅い瞳と目が合う。
と、そのまま硬い床に押し倒される。
え?
女の子?
なんで?
この光の壁の中には入って来れないんじゃ?
というかどこにいたんだ?
混乱する僕をよそに、突然現れた彼女は僕の上に跨った。
小柄な彼女の力は強く、抜け出すことができない。
ペロリと舌で唇を舐める様子が蠱惑的だ。
サラリと彼女から垂れる銀色の髪からは脳を溶かすような甘い香りを感じる。
押し返して抵抗しようとした僕の手は彼女の豊満な胸に触れ、抵抗なくズブリと指が沈み込む。
あ、柔らかい。
なんてぼんやり考える間に、事態は進行していく。
肩を抑えられ、もはや起き上がる事もできない。
全身で彼女の身体を感じてしまっている。
思わず下半身に意識が集中する。
彼女もソレを感じたのか、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
耐えきれず顔が熱くなる。
惚けたように蕩けた瞳からはもう眼を離せない。
た、食べられてしまうのか僕は⁈
近づいてくる彼女の顔に、瞳に、唇に僕はその時を覚悟し目を閉じた。
ああ、初めてはどんな味なんだろうか。
ぐるぐる回る思考と肺いっぱいを満たす甘い空気。
しかし待ち望んだ瞬間は、ゴツンという鈍い衝撃と共に訪れた。
目の前を火花が散る。
チカチカとする目を瞬かせている間に、体の上に乗っていた暖かな重みが去っていく。
見ると彼女はエルフの少女にその首根っこを掴まれ、持ち上げられていた。
そしてガミガミとエルフの少女に怒られるまま、銀髪の少女はソレをなんて事のないふうに聞き流している。
紅い瞳の彼女を改めて見ると、彼女は黒く細い布によって胸元と局部を最低限覆うだけの格好で、その豊かなボディを惜しげなく晒している。
そして、背中には蝙蝠のような黒い羽が生え、お尻からは先端の尖った黒く細長い尻尾が伸びている。
ああ、彼女はサキュバスだったのか。
その小悪魔然とした小柄な少女に、まさしく僕は食べられようとしていたのだ。
ほっとしたような、残念なような気持ちが僕の心を過ぎる。
僕の初めては、僕自身の血の味だった。
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