Vol:2 虚無ルーティーン



昼食を共にする、友人もいない。



かといって、教室で、ランチを楽しむ

グループに囲まれた中、一人で食べる度胸もない。



チャイムが鳴る度に、ひっそりと、姿を消す、

ティーン時代の竜司の日課であった。



大学は、偏差値50以下、



いわゆる、Fランの大学に進学。



苦い思い出しかない、地元から離れた、

誰も、彼を知らない土地へ逃げる様に、

引っ越した。



「ムリだ...。」



入学式の当日、キャンパスでは、新入生を迎える

ムードで、様々なサークルやクラブが勧誘する中、



竜司は、その華々しさある大人数に、圧倒され、

心機一転しようとする、その心は、挫折した。



大学デビュー、というキャンパスライフは、幻。



部活はもちろん、サークルという集団に

溶け込むのに抵抗があり、参加できなかった。



講義は、学生が固まっていない所の机を探し、

教授にさえ存在を知られない様に、片隅の方で

座って、過ごしていた。



なるべく、人が少ないであろう講座を選んでいた。



昼食も相変わらず、一人きり、



学生食堂では、時間をズラし、ご飯を食べていた。



唯一、食堂のおばちゃんの笑顔や

元気なかけ声が、竜司にとっての、癒し。



便所飯から、解放されただけでも、救いであった。



帰宅しても、何かする事はない。



ただ、大学に行って、食って、寝るだけ。



これといった、趣味もない。



強いていうならば、発売前のゲームのバグを見つける

アルバイトを始め、社会との接点を持った位である。



しかし、一人黙々と作業をする仕事の為、

誰とも、会話をする機会を持たなかった。



単位は、テスト前の対策してくれる学友がいない為、

いつも、赤点ギリギリの苦痛の期間を過ごした。



就職活動も、悪戦苦闘。



人材不足と言われている中、



面接では、いつも、緊張してしまい、

言葉が喉に詰まって、声が出ない。



面接官から、質問される度、頭の中は、真っ白。



連戦連敗のお祈りメールは当たり前。



内定をもらったのは、卒業ギリギリの3ヶ月前、



就職先は、コンピューター関連の仕事で、

ひたすら、パソコンの画面と向き合って、

ソフト開発やプログラミングの作業、



とにかく、周囲と関係を持たない様に努めてきた。



社会人でも、変わり映えない、生活の繰り返しだ。



ーーもう、こんな時間かよ。



ーーあぁ、外に出たくねぇ。



ーーずっと、横になっていたい。



朝の7時半に起床、



目覚めは悪く、いつも、体は重い。



心の声は、ネガティブワードに、埋め尽くされている。



次に、スマホを手に取り、お気に入りの

アプリのゲームにログインし、その日の

ログインボーナスを手に入れる、



それが、竜司の、数少ない一瞬の幸福である。



ベッドでウダウダしながら、くだらない

ネットニュースの界隈を見ながら、

出勤ギリギリまで、時間を潰す。



そして、やっと、重い腰を上げると、

8時半に、到着すべく、着替えを済ませる。



出勤途中にコンビニに寄り、空きっ腹を

満たす為に、おにぎりと、缶コーヒーを購入、



それを無心に食べながら、通勤。



美味しさや香り等の、五感で味わう事はない。



ただ、胃袋に、入れているだけ。



会社のデスクに着いてからは、ひたすら

パソコンと、睨めっこの時間を過ごす。



ランチタイムも、わざと、時間をずらす。



なるべく、人と顔を合わせない為に、

コッソリと、昼食を摂りたいからだ。



食事をしている姿すら、誰にも見られたくない。



その為、ゼリー系の栄養ドリンクや

プロテインバーなど、短時間で済むモノだ。



定時になっても、「お疲れ」の別れの言葉を

交わすのさえ恐れ、必要のない残業をしては、

タイミングを図り、帰宅するのである。



給料の手取りは、およそ18万円、



これは、入社して5年間、ほぼ横ばい。



これといった、贅沢もできない収入なので、

1Rのマンションの住まいだ。



夕食は、コンビニのカップ麺が、メインだ。



それから、シャワーを浴びて、寝るまでの間、



某アダルトサイトであるBornTabで、

お気に入りのチャンネルを観ては自家発電して、

ストレス発散..



ーーなんでこんな事をしているんだ...?



自己嫌悪に陥る、賢者モード。



そして、明日が訪れる不安や虚しさを

抱えながら、眠りにつき、翌朝を迎える。



ただ食って、眠って、働く。



社会人から繰り返される、虚無ルーティーンなのだ。


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