第45話 社蓄、服を選ぶ

 リードを買った俺達は早速リーゼントにつけて、次の場所に向かった。


 次は俺達の服を買いに行くことになった。


「ふん、生粋のツッパリはスクーターが一番だぜぇ」


「そんなこと言ってマリリンちゃんが女の子だと思っていたのは、どこの誰だっけ?」


「なっ、オラはエレガントって言っただけだぞ!」


 リーゼントが必死にアピールしようと思っていたアフガン・ハウンドはなんとオスだった。


 そんなことも気づかずに、振られたと思ったリーゼントは落ち込んでいた。


 それを見ていた飼い主の女性は、申し訳なさそうに心菜に伝えていた。


 リーゼントの初恋は綺麗なオス犬で、何も始まらずに終わったようだ。


 しばらくは恋よりスクーターで遊んでいる方が楽しいだろう。


 そもそも犬がスクーターで遊ぶ方がおかしいし、健全じゃないからな。


 俺達は衣料品コーナーに着くと、早速ゴボタの服を探す。


 俺は適当に選べば良いが、ゴボタの服はサイズ感がわからないからな。


「これが良いか?」


「んーん」


 ゴボタに似合いそうな白いシャツを渡すが、あまり興味がないようだ。


 一通り服やズボンを見せても、やはり興味がなさそうだ。


「とーたん、あっち!」


 ゴボタは俺の手を持つとどこかに引っ張っていく。


 気になった服があったのだろうか。


 ただ、着いたところは紳士服コーナーだった。


 俺の服を先に選んでくれるのだろうか。


「どれが……」


「こりゃがいい!」


 一緒に服を選ぼうとしたら、ゴボタはボタン付きの服を二枚持ってきた。


 服の裾がズルズルと床を擦っているため、両方買わないといけないだろう。


 ただ、なぜ二枚も持ってきたのだろうか。


「とーたんとゴボタ!」


「ゴボタもこれを着るのか?」


「うん!」


 どうやらゴボタは俺と同じ服が着たいらしい。


 たしかに元はジャケットを上手く巻いて、オムツのようになっていたため、その着方が気に入っているのかもしれない。


「お兄ちゃん決まった?」


 遅れて心菜がカートを押してやってきた。


「俺と一緒のやつが着たいらしいぞ」


「それならファミリールックで揃えたら良いんじゃないかしら?」


「ファミリールック?」


 そのまま服をカートに入れると、心菜が案内してくれた。


 マネキンを見たら、すぐに何を言っているのかわかった。


「うぉー、すごいな」


「なっ!」


 ゴボタもマネキンの服を見て目を輝かせていた。


 親子で同じ服が着れるようにデザインが統一されているお店だった。


 ゴボタは単に俺と同じ服が着たかったようだ。


 俺とゴボタの服はこれで問題はないだろう。


 ただ、肝心のホワイトの服をどうするかが一番の悩みだ。


 女の子だから、せっかくならオシャレな服を買ってあげた方が喜ぶだろう。


 ただ、俺がオシャレな服をわかるはずがない。


「あの子も同じで良いんじゃないかしら? このシャツとかなら問題ないでしょ」


 少し大きめの子ども用シャツも売っていたため、ホワイトはそれにすることにした。


 これで見た目もだいぶ気にならないだろう。


 ゴボタをジロジロと見る人達もいたからな。


 ただ、俺も薄着のため子どもが嘔吐して、服を汚したと思っているのだろう。


 実際にゴボタの体調をショップ店員も気にしていた。


 少し色黒なのもあり、顔色が悪いのもわかりにくいからな。


 久しぶりの買い物に満足した俺達は車に戻ることにした。


 ただ、20年前にはなかったお店に俺は目が惹かれる。


――〝探索者ショップ〟


 明らかに心菜達のような探索者に向けてのお店だった。


 まさか普通にショッピングモールに入っているとは思わなかった。


 それだけ探索者の存在がメジャーになってきているのだろう。


 みんなが心菜のことを知っているぐらいだもんな。


 俺が店の中に入ろうとしたら、心菜が急いで俺の前に来て視線を遮った。


「ん? 心菜邪魔だぞ?」


「あれ? 車に戻るんじゃなかったのか?」


「いや、せっかくなら気になるから見てみようかと……いい加減邪魔だぞ?」


 俺が後ろを見ようとするたびに、心菜が見せないように邪魔をしていた。


 これは何かあるはずだ。


「ならまた今度にするわ」


「はぁー、よかった」


 俺は後ろに向きを変える瞬間、心菜の背後にある何かを隙間から見た。


――〝あなたの命、私がお守りします〟


 そこにはデカデカと書かれた文字と心菜の等身大ポスターがあった。


 どうやら探索者ショップは、探索者のグッズ売り場だったようだ。

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