第二章 社畜、現実を知る

第31話 社畜、宇宙人に襲われる

 朝日が俺の瞼を刺激する。


 目を覚ました俺は体を伸ばそうとしたが、全く動けないでいた。


 唯一動かせられる首を持ち上げると、すぐに動けない理由がわかった。


「とーたぁん……?」


「ボスゥ……?」


「ちゅきちゅきダンナ様!」


 俺は抱き枕のようになっていた。


 肩にはリーゼント、腹にはゴボタ。


 そして股間スレスレにホワイトが抱きついていた。


「おい、ホワイト起きてるだろ」


「にゃむにゃむ。そんなこと……あっ痛っ!?」


 大きく足を動かすとホワイトは草原を転がっていく。


 リーゼントとゴボタはちゃんと手で押さえているから大丈夫だ。


 それにまだ眠いのか、さっきより引っ付いて寝ている。


「ダンナ様ひどいです!」


「お前がそんなところにいるからダメなんだぞ!」


「ふふふ、ダンナ様って意外にウブなんですね」


 少女の見た目じゃなかったら、絶対怒っていただろう。


 見た目だけは良いからな。


 こんなに性格が残念な少女なら、名前をつけない方が良かった気がする。


「ゴボタとリーゼントも起きろよ」


 さすがにゆっくりと近寄ってくるホワイトを警戒して、俺はゴボタとリーゼントを起こす。


 今度は何を考えているかわからない。


「とーたん、ねむい……」


 ゴボタは目を擦っている。


 リーゼントなんて全く起きる様子もない。


「せっかくの朝日だぞ。お前らは見るのが初めてだから良い記念になるぞ」


 元々日が落ちない状態だったのにスキルの影響で夜ができた。


 昼と夜が存在することで、朝日や夕日が見られるようになるのだ。


 俺も社畜時代によく会社から見ていたな。


「ほらほら、朝日だぞ!」


 無理やり体を起こして、ゴボタとリーゼントに朝日を見せる。


「くわぁ、ボスがいじめてくる」


 急な光にリーゼントは目が痛いようだ。


 そんなリーゼントとは、反対にゴボタは目を輝かせていた。


「とーたん!」


「ん?」


「しゅごいね!」


 ゴボタは大きく手を広げて、朝日を表現しているようだ。


 確かに思ったよりも朝日が大きいからな。


 いや……なんか朝日が大きくなっているような気がするぞ。


「おい、あれ朝日じゃないぞ!」


 俺は近くにいたゴボタとリーゼントを引き込む。


「ちょ、私も仲間に入れてくださいよ!」


 ホワイトも遅れて近づいたタイミングで、俺はあるものを願った。


「岩よ落ちてこーい!」


 一日一つしか出せないトラップ用の大きな岩を呼び出した。


 なぜか呼んだら岩が出るような気がしていた。


 ただ、俺の直感は合っていたようだ。


――ズドン!


 目の前に大きな岩が降ってきた。


 すぐに岩の後ろに隠れる。


 太陽が近づいてくることなんて、予測していなかったからな。


 そのまま太陽は岩に接触すると、そのまま消えていく。


 太陽だと思っていたのは、赤色の魔宝石で出てくる火の玉を何十倍も大きくしたものだった。


「はぁー、やっぱり何か起きてるんかな」


 これもスキルの影響だろうか。


「とーたんあぶない!」


 急にゴボタは俺を押し倒した。


「はああああ!」


 突然聞こえた声とともに、岩が粉々に破壊された。


 何が起きたのか俺はわからなかった。


 ただ、わかっているのはまた宇宙人が攻めてきたってことだ。


 あの大きな岩をすぐに壊せるやつはいないだろう。


「お前達散らばって逃げろ!」


 俺の声に反応してみんな逃げていく。


 リーゼントはスクーターのもとへ。


 ゴボタは手押し車を取りに行った。


 俺とホワイトは近くに置いてある魔宝石に手を伸ばした。


 それでもやつの方が速かった。


「お兄ちゃんの体を返しなさい!」


 ん?


 今、日本語が聞こえたような気がしたが、気のせいだろうか。


 嫌な予感がした俺はその場で転がると、宇宙人が地面を強く蹴った。


 地面には亀裂が入り、大きくひび割れていく。


 今回の宇宙人は昨日のやつらとは違う気がした。


 それに服装も胸当てとかは鎧になっているが、ほぼ動きやすさとオシャレを重視しているのかミニスカートだった。


「ダンナ様に色目を使わないで!」


 やはりホワイトはミニスカートに反応していた。


 今俺がいる場所からパンツが見えそうだからな。


 ホワイトは魔宝石を手に取り、火の玉を発動させる。


 宇宙人は軽くしゃがみ込むと、大きく手を突き出した。


「はぁ!」


――パン!


 乾いた音とともに火の玉は消えた。


 一体何が起きたのだろうか。


 昨日の宇宙人とは桁違いに強い気がする。


 ホワイトも火の玉が消えると思ってなかったのだろう。


 その場でおどおどしていた。


「用があるのはお兄ちゃんなのよ!」


 そのお兄ちゃんとは誰のことを言っているのだろうか。


「先に変わったゴブリンから始末をするわ」


 宇宙人はホワイトに少しずつ詰め寄ってくる。


「あぶない!」


 俺の体は咄嗟に動いていた。


 宇宙人はホワイトの首を目掛けて手を突き出した。


 ホワイトを押し倒すと、そのまま俺は宇宙人に首を掴まれた。


 チラッとホワイトを見ると、驚いた顔で俺を見ていた。


 あんな扱いをしていても、ホワイトのことは大事に思っているからな。


「お兄ちゃんの体を返しなさいよ」


 少しずつ首を絞める力が強くなる。


 あまりの苦しさに息が漏れてくる。


 ただ、俺は宇宙人の顔から目が離せなかった。


「お兄ちゃんを返してよ……」


 宇宙人は涙を流しながら、俺の首を絞めていた。

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