第26話 社畜、戦う! ※一部別視点

 さぁ、やり返すと言ってもどうするべきだろうか。


 俺達は作戦を考えるためにその場に止まった。


「ゴボタ、ついにダンナ様は諦めたようね」


「にひひひ!」


 ホワイトとゴボタは何か勘違いしているようだが、ゆっくりと近づいてきた。


 俺を捕まえようと二人の手は素早く動いている。


「ゴボォ?」


 だが、目が良いゴボタは気づいたのだろう。


 目の前で俺らの家が燃やされていることを――。


「ああ、俺らの家が壊されて燃えているな」


「ゴボオオオオオ!」


 すぐに向かおうとするゴボタの手を持って引き止める。


 簡単に爆発できちゃう宇宙人だ。


 何をするのかもわからないし、最悪ゴボタも殺されるかもしれない。


 ただ、これ以上荒らされるわけにはいかない。


 火が森に移って、大火事になるかもしれないからな。


「ここが危ないところだと思わせて、逃げるように誘導するしかないな」


「でもどうやって追い返しますか?」


 考えている間にも家は壊されてしまう。


 そんな中、声を上げたのはリーゼントだった。


「ボス、スクーターで怯えさせるのはどうですか?」


 さすがにスクーターでは驚かないだろう。


 ひょっとしたらスクーターの存在を知っている人物の可能性もあるからな。


 宇宙人だからきっと未確認飛行物体に乗っている。


 スクーターぐらいじゃびっくりしない。


「いや、多分無理……じゃないかもな」


 ここの世界に来てからスクーターは摩訶不思議な進化を遂げた。


 エンジン音がおかしいのだ。


 それに最近は変な鳴き声に聞こえてくる。


 俺はみんなに作戦方法を伝える。


 今回の鍵になるのはみんなのチームワークとゴボタの足の速さになるだろう。


 ホワイトに魔宝石をいくつか渡して、俺達は早速別行動することにした。


 ♢


「ハンモックを作るゴブリンって相当頭良いよな?」


「ひょっとしたら人間並の知識があるぞ」


 ゴブリンと言えば魔物の中では最下級の魔物だ。


 そこから武器の使い方を知っているハイゴブリン、魔法が使えるゴブリンメイジ、それをまとめるゴブリンキングと進化していく。


 ただ、ゴブリンキングと戦ったやつでも、こんなに良い生活はしていなかったはず。


 あいつらは基本的に全員共通して言えるのは、頭が弱いってことだ。


「おい、これって魔法石か?」


「いや、魔法石ならこんな輝きはないはずだ」


 謎の家から魔法石に似ているが、輝きが全く違うまるで宝石のような石が出てきた。


 何の石かはわからないが、ダンジョン配信者の探索者として働いている俺らには撮れ高になる。


「この石魔力があるぞ」


 このパーティー唯一の魔法使いが、魔力を認識したってことは、新しいダンジョン産の宝石なのかもしれない。


 ひょっとしたらゲームではお馴染みのアクセサリー装備ができるかもしれない。


 魔法が使えない俺も、手を突き出して魔法を飛ばせるようになるのも遠くはないだろう。


 考えただけでもオタク心がくすぐられる。


「できるだけ回収して帰るぞ!」


 ここを拠点としているやつが帰ってきたら、俺達の命はないだろう。


 爆発の影響で逃げているかもしれないが、ここは全く被害がないからな。


「回収したぞ」


「よし、帰る――」


 帰ろうとしたタイミングで異変を感じた。


 何者かが俺達を見ていた。


 どこにいるのかはわからないが、はっきりと視線を感じる。


「グワアアアアア!」


 謎の咆哮が森の中から聞こえてくる。


 それと同時に火の玉がいくつか飛んできた。


 あれは火属性魔法だ。


「ここは俺に任せろ!」


 それを相殺するように火属性魔法を放つ。


 魔法を放つ存在がいるだけで、ダンジョンとしては高レベルになる。


 俺達能力者の中でもスキルとして魔法を使えるやつはいる。


 ただ、その強さは魔物と比べて劣ることが多い。


「やばい、すぐに逃げるぞ!」


「ブオオオオン!」


 今度はまた違う咆哮が聞こえてきた。


 ひょっとしたら何匹も桁違いの化け物がいるのかもしれない。


「うぉ、今度は毒属性魔法か!」


 俺達は必死に魔法を避けながら体勢を整えていく。


「なんだこいつら!」


「いつ姿を表すかわからねえ。魔法だけは気をつけて離脱する」


 少しずつ様子を伺いながら後ろに下がっていく。


 すると森から何かが現れた。


 ただ、早すぎて俺たちの目では視認できないほどだ。


 何か見たことあるような形のような気もするが、そこからも魔法が次々と放たれる。


「チッ! 次から次へと……」


「俺達が隙間を作るから、最大魔法を放ってくれ!」


「わかった」


 俺とタンク役のもう一人で魔法使いを守る。


 素早く動いている方が魔法は弱いため、俺は剣で叩き切る。


「うわ、毒で溶けやがった」


 切れる魔法なら良いが、毒で剣は溶かされてしまった。


 あまりの強さに俺は死を覚悟した。


 命が助かるだけでも幸運だろう。


 ただ、そうなるように動き出さないと、幸運も逃げてしまう。


「よし、いけるぞ!」


 魔法の発動準備ができたようだ。


「わかった」


 俺達はすぐに武器を戻すと、一箇所に集まる。


「ファイヤーバースト」


 地面から火柱がいくつも展開される。


 異変に気づき俺らの周囲を回っていた奴も遠く離れていく。


 その隙間を狙って俺達は急いで走る。


「おい、あの石はいいのか?」


 重くて荷物になる宝石のような石はその場に置いていく。


 あんなものを持って行ったら、すぐに追いつかれてしまうからな。


「まずは生きて帰ることが先だ! 上位ランクにここは任せるしかない」


 俺らはダンジョン配信をする探索者だ。


 この動画を国や高ランク探索者に売れば良い金になるだろう。


 高ランクの新ダンジョンの情報は誰だって欲しいからな。


 きっと置いていった石なんて気にならなくなる。


 それにわずかにポケットに忍びこませているからな。


 俺達は必死にダンジョンの入り口まで駆け抜ける。


 ああ、もうあんな怪物とは戦いたくない。


 俺はチラッと後ろを振り返り、もう二度とこのダンジョンには来ないと誓った。

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