第9話 社畜、子どもにイタズラは危険だ

 「よし、行くか!」


「ゴボオオオオオ!」


 結局スコップと手押し車を手に入れても、移動する時には邪魔になるだけだった。


 それならとゴボタにスコップを持たせて、手押し車に乗せて移動することにした。


 その結果、ゴボタにとって楽しいおもちゃが手に入ったようだ。


 それに変わった手押し車なのか、ゴボタが乗っているのにそこまで重さを感じない。


「とーたん!」


「なんだ?」


 ゴボタは近くに生えている薬草もどきを指さしていた。


 薬草もどきを採取したいのだろう。


 せっかくなら果実や薬草を採取しながら、戻ることにした。


 手押し車から降りると、ゴボタは早速スコップを地面にさした。


 何に使うかわからないゴボタに、さっき使い方を教えたが、しっかりと覚えたのだろう。


 ただ、地面にさしたスコップはどこか光っているように感じた。


 そのまま薬草もどきの根ごと採取すると、手押し車に入れる。


「ゴボタ行こうか?」


「とーたん!」


 ゴボタを手押し車に乗せようと声をかけたら、何かが気になるのか地面を見ていた。


 後ろから覗き込むと、地面がじんわりと濡れている。


 あまり日が当たらないところに生えているためか、水気が多いのだろう。


 それにしても、どこか地面がポコポコ動いているように感じた。


「ゴボタもう一回掘ってみて?」


「ゴボッ!」


 言われたように、もう一回スコップで掘ると、さらにポコポコと地面が動いている。


 そのまま掘り続けてもらうと、いつの間にか水が溢れ出ていた。


 どうやら薬草もどきが群生しているところの地面は、水が流れているようだ。


「迷子になるといけないからね目印にしようか」


「ゴボッ!」


 俺達は掘った土をそのままにして、目印にすることにした。


 それにしても新しい情報をみつけただけでも良かった。


 きっと地形変形セットを使って、水場を作れということだろう。


 実際に薬草もどきが群生しているところを全て掘り起こしたら、池になるのかもしれない。


 どこかリアルなスローライフゲームのように感じるが気にしないことにした。


 いや、そう思わないと俺も今の現状を受け止めきれないのだろう。


 俺達は再びスクーターを目指して歩き出した。


 もちろんゴボタは手押し車の上に乗っている。



「だんだんと明るくなってきたな」


 森の外側にスクーターが置いてあると思い、真っ直ぐ歩いて来た。


 その証拠に段々と周囲が明るくなってきた。


 森の中心側は木が生い茂って日の光が入りにくいが、外側になると木が少ないため明るくなる。


 これもあの集落で教えてもらった。


「そろそろスクーターがあるところに出られるかな?」


「んー」


 歩く方向は間違えていないと思う。


 ただ、ゴボタの反応は薄かった。


 それでも俺達は外に向かって歩き続けた。


「おっ、草原が見えてきたぞ!」


 手押し車を急いで押して、森の外に出た。


 一帯は草原で、特に見た目に変化はない。


 ただ、前と違うのは所々に木や他の草が生えていることぐらいだ。


 きっと環境設備の植樹系調整が関係しているのだろう。


「んー、やっぱり違うところに出て来たのか?」


「ゴボッ!」


 どうやら森から出ることは出来たようだ。


 ただ、スクーターはそこにはなかった。


 きっと違うところに出てきたのだろう。


「グルッと回ったら多分あるかな」


 森がよほど大きくなければ、今日中には着くような気がする。


 森の中でもずっと景色が同じのため、精神的に不安にはなっていた。


 それと比べたらまだマシな気がする。


 ずっと日が当たらないところも、体には悪いからな。


「その前に一回休憩しようか」


 途中で採った果実を大きめの葉の上に乗せて、分けてもらったサトウキビもどきの枝で潰していく。


 その光景にゴボタも興味津々で見ていた。


 果実を直接食べることしかなかったからな。


 俺もゴボタにジュースを飲ませたかったのだ。


 ある程度潰し終えると、ゴボタにジュースを渡す。


 一口飲むと、ゴクゴクと一気に飲みだした。


「うん……まぁー!」


 キラキラしたゴボタの瞳は、もう一度飲みたいと訴えていた。


 今度は採ってきた果実の種類を増やしてみる。


 作るのはミックスジュースだ。


 イチゴもどき、ブルーベリーもどき、キウイもどきと酸っぱい果実の盛り合わせだ。


「んー、これは失敗か?」


 甘酸っぱい匂いが漂ってくる。


 ただ、見た目が黒色に近かった。


 ゴボタを見ると、俺と目を合わせようとしなかった。


 どこか変な気泡も出ているし、混ぜるな危険っていうことだろうか。


「ゴボタ、飲んでみるか?」


 イタズラ心に聞いてみるが、首を大きく横に振っていた。


 まぁ、俺も飲みたくないからな。


「とーたん作った! のむ!」


「へっ!?」


「のこすのブーブー!」


 どうやら作った人が飲めと言いたいのだろう。


 ただ、今も目の前でポコポコと気泡が出ている黒い物体を飲みたいとは思わない。


 飲んだ瞬間に倒れるかもしれない。


 俺はチラチラとゴボタを見るが、ジーッとこっちを見ていた。


 これは飲むまで終わらないだろう。


 念のために薬草もどきを細かく千切って準備をしておく。


「よし、飲むか!」


 俺は黒いミックスジュースを一口入れる。


 気泡があってもパチパチとした刺激などは感じない。


 むしろシュワシュワとしていた。


 そのまま喉の奥に流し入れる。


「ん? これってコーラか?」


 イチゴもどき、ブルーベリーもどき、キウイもどき。


 それにサトウキビを入れたはずなのに、味はコーラに似ていた。


 確かにコーラも色は黒いが、まさかミックスジュースを作っていてコーラができるとは思わないだろう。


 ただ、無理やり飲まされたなら、俺もイタズラすることにした。


「うっ……」


 俺はゆっくりとミックスジュースを地面に置き、苦しむように演じる。


「とーたん!?」


 ゴボタはビックリして近づいてくる。


「俺はもうダメだ……」


 その場で倒れると体をわざとピクピクさせる。


 気分は地面に打ち上げられた魚だ。


「とーたん? とーおおおたん!」


「くくく」


 ゴボタの焦り具合に俺は笑いが止まらない。


 必死に笑いを堪えるが、それが痙攣しているように見えたのだろう。


 ゴボタは急いで薬草もどきを俺の口に入れようとする。


 俺は必死に口を閉じようとするが、ゴボタが唇をおもいっきり引っ張るため、口が取れそうだ。


「ジャーン!」


 さすがに限界がきたため、俺は起きて騙していたことを伝えた。


「えっ……とーたん……?」


「ははは、冗談だよ! ミックスジュースおい――」


「とーたん!」


 俺が生きていたことにゴボタは嬉しかったのだろう。


 そのまま俺の腹部に向かってタックルをしてきた。


 体は小柄でも俺より力が強いゴボタが突っ込んでくるとどうなるか。


 そんなのは考えただけでわかるだろう。


「グフッ!?」


 あまりの衝撃に口から息が漏れ出る。


 脳内で警報を鳴らしているのだろう。


 次第に視界がチカチカしてきた。


「ととととーたん?」


 そんな俺を見てゴボタはあたふたとしている。


 段々と力の制御ができずに、体が痙攣してきた。


 ああ、今度のは演技じゃなくて本当だからな。


「ふん、とーたん!」


 ゴボタも初めはまた演技だと思ったのだろう。


 だが、ずっと痙攣しているからおかしいと気づいた。


「と……とーたあああああん!」


 再びゴボタは叫んでいたが、俺はそのタイミングで意識を失った。

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