第18話▷パーティー結成
「ちょっと見ない間に賑やかになったねぇ……。パーティー組んだの?」
「…………まあな」
「ふぅん? ……一応こちらも貴方を信用した上で色々頼んでいるから、エイリス氏が構わないのならいいけどね」
数日、用事と称して姿を見せなかった冒険者ギルド支部長クロエは、依頼の書かれた巻紙を手の中で躍らせながら意味深に笑む。
アウネリアを応援するつもりなら正体がバレるような真似は自重してもらいたかった。パーティーを組むなら海を越えてからにしてもらいたかった。
おそらくそんな意図が含まれておるのじゃろう。
「……貴方が支部長殿ですか? お初にお目にかかります。俺はルシオ。先日新たに冒険者として登録させていただきました」
「り、リーエです。よろしくお願い、します……!」
「初めまして! わざわざ彼が勧誘したって事は優秀なんだろう? 期待しているよ」
偽名で挨拶をした二人に笑みを向けるクロエ。
軽やかな笑みの裏にどんな感情が隠されているのか、察するのは困難じゃ。
幸いなことにアウネリアと同じく染粉で髪色を変えているルメシオには気づいていない様子。
ルメシオも例の放蕩王子の仮面は捨てて素で振舞っているため、もしルメシオの顔を知る者が見てもイメージの差で簡単には気づかぬじゃろう。
……髪色をどう隠すかという話になった時、いっそ剃りますと髪を眉もろともそり落とそうとした時は焦ったのぉ……。
髪はもっと大事にしてほしい。それも若さゆえの宝じゃぞ!!
ルメシオはクロエを「こいつが国外逃亡の首謀者か」と言いたげに見ていた気もするが、今回は先日のアウネリアの時のように我を表に出すことなく綺麗に取り繕っていた。
……アウネリアと言い合っていた時は、強行軍でわしらを追って本当に疲れとったんじゃなぁ……。
らしくない、普段わしすら聞いた事すらなかった荒々しい言葉遣いには驚いたもんじゃわい。
幼いころから知っているゆえに彼の事は全て分かった気になっておったが、子供とは知らぬ一面を育んでおるものじゃな。
さて、何故ルメシオやリメリエとわしらがパーティーを組むなどという話になったのか。
それはただひとえに、リメリエの機転ゆえである。
あの後なんとか言い合いを続けるアウネリアとルメシオを連れて人気のない場所へ行くと、落ち着かせるため……そして有する情報が異なる者同士、それぞれ引き離して話をした。
アウネリアにはルメシオとはわしが貴族になる前からの知り合いで、良き友人である事。
わしの前世の事は知らない、と話しておいた。……口調に関しては今さら切り替えるのも大変なので、ある折にうっかりバレてからそのまま「変な口癖」として受け入れられている、と説明したが。
様付けに関しては自分で言うのもむず痒かったが、王子でありながらわしのことを尊敬してくれているからともな。
ルメシオ……そしてリメリエには、まず今回の件は誘拐は誘拐でも首謀者はアウネリアの
その上でアウネリアはこのまま国を出る気であり、わしもそれに付いていくつもりだという旨も。
これに関しては猛反発されたのぅ……。当然の事じゃが。
ルメシオは「国内に居なければいざという時俺がお役に立てないでしょう!? リメリエもです! どう考えても監視なら国内に留めておいた方が利点が多いのですよ! だというのにどうしてエイリス様はあの我儘女にそう甘いんですか!!」と、正確にはこれの何倍もの言葉を持って説得されたが……。
うむ。正論である。
しかしこれに関しては一度アウネリアの夢を応援し見守ると決めたため、わしは彼女の意志を尊重するという意見で通した。……わしもわしで、頑固じゃの。
わしに甘くわしの考えを否定したくないと考えてくれておるルメシオには、卑怯なことをしたようで申し訳ないと思うておる。
つまりルメシオがアウネリアとわしを連れ帰るには、アウネリアの意志を変えるしかないのじゃが……。
そこで一つの提案を持ち出したのが我がひ孫、リメリエ・シュプレー。
『アウネリアの意志はとても強いです。ここは一度、懐柔のためにも一度行動を共にしてみては?』
『……どういうことだ』
『今ひいおじいちゃま達は冒険者として活動しているのですよね? ならば私たちも冒険者になって、パーティーを組むのです。一緒に行動して仲良くなれば、説得も容易になるのでは?』
『何を言い出すかと思えば、馬鹿馬鹿しい』
そう最初は突っぱねたルメシオ。だが次の一言で意見が変わった。
『憧れの勇者様と仲間になって冒険。…………したくないんですか?』
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
その時のルメシオの顔といったら、筆舌に尽くしがたいものじゃった。
しかも最終的にそれを受け入れたのだから驚きじゃ。
ここにきて第三王子まで行方知れずになってよいのか!? とわしが止めたが、「問題ありません。そのために普段から何処に居るかもしれない放蕩王子を演じているのですから。おそらく半年ほどは「またいつもの事か」と放置されるでしょう」などと言う始末。
リメリエに至っても修道院には第三王子の権限を使って、リメリエの不在は口止めしてあるとのこと。
たとえ王位継承権が剥奪されていようとも、その権力は絶大の様である。
……まあルメシオ、金遣いが荒いと言われておるがその使い道のほとんどは修道院や孤児院への寄付じゃからな。
その事実を知る者は少ないが、知る者にとってはルメシオ個人の存在は非常に大きい。
だから王子というよりそちらのルメシオ個人の影響力なのじゃろう。
しかし、冒険者パーティーか。
わしとしてはリメリエがそんなことを言いだしたのが不思議じゃ。
今回の件はルメシオに無理矢理突き合わされただけで、本人としては早く帰りたいじゃろうに……。
しかしわしのひ孫は、わしが思っている以上に強かじゃった。
『こんな所まで付き合わされたんです! これはもう、ネタの一つや二つや三つや四つや五つや百個や、持ち帰らないと割に合わないじゃないですか……! ふふふ……体力に自信はありませんが、生の冒険者活動なんて今後一生できる機会なんてありませんもの。生の体験は作品にリアリティを与えてフィクションとしての質もそれに伴い向上するのですよひいおじいちゃま!』
『そ、そうか』
『……それにアウネリアの夢を応援したいのは、わたしも同じ気持ちですからね。アウネリアの懐柔と見せかけて、逆にあの王子様をほだしちゃいましょう。それが出来なくても、海外渡航の準備が整うまでの時間稼ぎになるでしょう?』
……とのこと。
なんとも逞しいわい。
そういった経緯で、なんとも不可思議な面々で冒険者パーティーを組むことに相成った。
じゃがいざふたを開けてみれば、そのバランスはそう悪くない。
悪くない何どころか、非常に整っておった。
前衛、わし。エイリス・グランバリエ。
剣術、素手の戦闘が得意な近接戦闘が領分の戦士。
中衛、ルメシオ・グラリス・エディオール。
王宮剣術に加え槍術の使い手。魔法も嗜む魔法戦士。
後衛その一、アウネリア・コーネウリシュ。
魔法全般を得意とし、後方からの攻撃や補助が可能な魔法使い。
後衛その二、リメリエ・シュプレー。
高度な回復、防御を主とした聖なる術を操る修道女。
こういった具合じゃ。四人組としてはかなりよいバランスじゃろう。
しかもリメリエ以外は何かしらの迷宮や冒険の経験が以前からある上に、普段から鍛えており体力もある。
……おかしいのぅ。わし以外、出身は貴族なんじゃがのう……。
ルメシオは放蕩王子を装う中で、実際はわしの役に立てるようにと厳しい修行の旅の数々を経験。
アウネリアは自ら研究用の素材採取をするため、よく脱走しては迷宮など冒険へ。
……この二人が特殊なのじゃが、友よ。
おぬしの子孫は、すくすく元気に育ってるぞ。
そういったわけでこれまで一人でこなしてきた高難易度の依頼は更にはかどるようになった。
これ、もしかして借金すぐに返し終わるのでは?
もちろん依頼料は折半しておるが、クロエが無茶な依頼を多く持ってくるだけに報酬そのものが高い。
気がかりがあるとすれば、わしらに回してくる高難易度の依頼が多い事そのものじゃろうか。
(どうもきな臭いのぅ。王国より魔物発生の規模が大きく多く、そして魔物自体が強い。これは高位の魔族でも潜んでおるか……?)
国内に目を光らせるだけでは気づかなかった、他国での魔物発生率。
依頼のほとんどはこれら人に害成す魔物の討伐じゃ。
アウネリアは珍しいサンプルがたくさん手に入ると喜んでおるが、どうにも不穏である。
この辺りで有力な魔族はわしが倒した魔王軍残党のネグレスタが最後であると思っていたが……。
新たに人を身を乗っ取った、高位魔族が再び現れたのかもしれない。
魔物の討伐までならばともかく、魔族との戦いにこの子らは出来るだけ関わらせたくない。
杞憂であればよいのじゃが……。
しかしそういった不穏さを抜きにすれば、……実を言うと。
怒られそうなので誰にも言えぬが、この束の間の日々をわしは気に入っておる。
迎え入れてくれた伯爵家に恥じぬようにと仕事を学び、騎士団でも成果を上げるごとに責任は重くなった。
脳筋といえど前世の経験はあるし、それらをこなすのは別に苦ではなかったのじゃが……。もともと人の上に立つような立場はどうも苦手でな。
今のように少数で何かを成すのが向いておるし、かつて仲間達と旅をしていた頃を思い出して楽しいんじゃ。
「ちょっとルメシオ様! その魔物は持って帰ります! 燃やそうとしないでくださいまし!」
「馬鹿をいうな。この巨体をどうやって持ち帰る気だ? 俺は運んでやらんぞ」
「ふふ~んだ。エイリスがやってくれるもの」
「はああ!? おい、エイリス様をあまり便利に使おうとするな!」
「だって!」
「だってじゃない!!」
どうも最初の印象が悪すぎたのか、アウネリアとルメシオはよく喧嘩をしておる。
変装しておる今はその鮮やかな髪色は隠れているものの、二人とも金赤の髪に緑の眼じゃからあけすけな物言いで言い合っているのを見ると兄妹にも見えて来た。
うむうむ。喧嘩するほど仲が良い、というやつじゃな。
いがみ合ってこそいるが、憎しみ合っているわけではない。これは将来的に良い関係を築ける仲の悪さじゃろうて。
本音を包み隠さず見せられる相手というのは、思いのほか貴重だからの。
「あは、あはは……。今日もあの二人は元気、ですね……。がふっ」
そしてリメリエは今日も今日とて、足りない体力でもって頑張ってついてきてくれた。
修道院の質素な生活に慣れておるからか寝床や食事に関しての不満を抱いていないことはありがたいが、その体力の無さだけはどうしようもない。
修道院で日常生活を送っていたリメリエが、いきなり冒険者……それも難易度の高い依頼についてくるのは過酷じゃろう。
「リメリエ、わしにおぶさるか……?」
「それは、是非っ、お願い、したい、ところですが……! あの二人が面倒そうなので遠慮しますぅぅ……」
「リメリエ、面倒そうってどういうことかしら?」
「面倒とはなんだ。俺はそんな狭量ではないが」
「そういう所だけ息合わないでくださいぃぃ……」
こんなふうに国外逃亡中とは思えぬ日々を送る中。
今日も今日とて、クロエがなかなかに厄介そうな依頼をもってやってきた。
「船の準備が整ってきたのだけれどね。その前に試運転として、海底迷宮……興味ない?」
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