第十六頁 遺骸殺し集合

 界刻は扉をくぐり、いつもの図書館内でなくとある会議室内へ足を踏み込む。

 数多の青をふんだんに使用された室内は神秘性すら覚える。

 各々、この空間に入った時は普段着ていた私服でなく、魔女が用意した自分たち専用の騎士の服に着替えさせられている。

 基本的に白を基調にした青の差し色が美しい服だ。

 個人によっては囚人服にも見える者、ファンタジーの学者服にも見える者、本物の騎士を彷彿とさせる者……様々である。


「おまたー? スリち、褒めて褒めてっ」

「うん、偉いよシックス。お使いありがとうね」


 図書館の入り口、いいや、受付周辺の彼女の態度と違い、人を数字で呼んでいる。

 まぁ、俺たち遺骸殺し敵で言う騎士としての役割みたいなもんだしな。最初に囚人服と言った者は、ヴィヴィに当て嵌まる。

 髪型もサイドテールになっている。早着替えでも見てる気分だ。同時にファンタジーの学者風なのもサヤだ。


「えへへっ、スリちのお願いだもん。聞かないわけないじゃんっ」

「ふふ、今日もシックスはいい子だね」

「えへへぇ♡」

「うわぁ、シックスの野郎またスリー様に甘えてる……ずりぃ」

「……あ?」


 ヴィヴィが議会の席、第三席にて座っているサヤに頭を撫でられている。イレブンがぼそっと呟くとヴィヴィの眼光にたじたじだ。


「にゃ、にゃんでもにゃいですぅ……た、たはぁ?」

「イレちぃ? 二度目はないから、ね?」

「っはは、っは……ひゃいぃっ……うっ、女子コワァ」


 自分の陰キャっぷりを晒している情景は普段とあまり変わらない。

 ……アイツもアイツで変わってねぇな。


「今日は全員揃ってないんだな」

「まぁまぁ、いいじゃないの。今回の議題はわかってんでしょ?」

「フォー……あまり虐めてくれるな」

「はいはい」


 界刻は呟くと第四席に座っているフォーと呼んだゴツイ精悍な男が笑う。短い金髪に眼帯を付けた右目と比例して赤い左目が蛇の目のように怪しく輝く。

 本来集まるべき13名全員が揃っていないことに溜息を吐きながらも界刻は自分の席に着く。席はもちろん、第七席だ。

 第零席に座るのは司書の綴理坂さやか……ではない。ラインホルトゥスを統括している魔女であり図書館館長である女が音もなく空間に罅を入れ、現れる。


「……あぁ、みんな来ているのねぇ……おはよぉう」


 落ち着いた艶のある声で彼女は己の姿を晒す。

 表が白、裏地は星空、或いは宇宙を彷彿とさせる神秘性のあるヴェールを被っている女性は顔面が目が吸い込まれそうになる宇宙色になっている。髪を模倣した細長い白紙を垂らし、青の差し色が入った白ドレスは神秘的な蠱惑さだ。

 蝶型の金細工が施されたヒールの音が鳴り響き、彼女は笑う。


「……今日の会議に来てくれて感謝するわぁ。我が愛しき騎士たち」

『お待ち申し上げておりました、我が君』

「……もう、いいのよぉワン。貴方は本当に仕事中毒者ね」


 顔を全体的に覆った仮面をしている黒騎士風の男は魔女に膝をつき首を垂れる。

 ワン、俺たち遺骸殺しの最上位に当たる序列を持つ第一席を持つ男。

 ……基本的に俺たちの女王に従う忠実な番犬のような男だ。彼女は自分の席である第零席に座ると、宇宙色だった顔が右側が群青色で左側が白の仮面に代わる。

 肌も白い肌になり青色リップが塗られた唇で微笑む。

 老婆の白髪よりもシルクのような輝きを見せる白髪へと変わる。目元はわからないが人外だとわかっていても見惚れてしまう美貌がそこにある。


「……相変わらずサーティーンはいないとして、他にいない人はツー、ファイブにナイン、テン、トウェルブもいないのねぇ」

「はい、スケエル様。申し訳ありません。呼びかけは行ったのですが……他の仕事で忙しいようで」

「……構わないわぁ、私の私用を頼んでいるもの。スリーから、後日来てないメンバーに連絡をしてくれる?」

「はい、もちろんです」


 苦笑するサヤにスケエルは肘をつきながら笑う。スケエルは、白紙図書館館長としての威厳もラインホルトゥスの運営もしている巧みな手腕を持ち合わせている。

 彼女と契約した自分たち遺骸殺しは逆らえることはまずありえないのだ。

 彼女は魅了を込めていると錯覚する声と笑顔で宣言した。


「私の使徒であり、従順で高潔な騎士である珀使騎士はくしきし諸君……私の号令に集まってくれてありがとう。さぁ、議会を開始しまょう――己の人生を焼死する覚悟を持って……意見を述べて?」


 この図書館の女王として君臨する女性、海透かいとう喪神そうしんスケエルは両手の指を組みながらミステリアスに微笑みを湛える。

 なぜならこの図書館があるのも彼女のおかげであり彼女が保有している館長だ。彼女は泡沫という単語の概念的存在が図書館を管理している人外、と認識で合っている。正史世界には記録が一切残されておらず、存在を知る条件はまずラインホルトゥスに来れる素質を持つ人間か、あるいは概念を神格化して存在している13の神、ユークロニア十三神じゅうさんしんを認識できた者だけだ。

 スケエルが遺骸殺しを13名で固定にしている理由でもあり、遺骸殺しに選ばれるのも特別な人間でなくては不可能だ。

 候補生に当たる遺骸殺したちは彼女の虚数空間の学校で生徒という形で勉学に励んでいる、という天才遺骸殺したちもいるようだ。

 しかし俺はそんな経験なんて一切ない、いわゆる野良の遺骸殺しに当たる。


「……どうしたのぉ? セブン、何か意見はあるぅ?」

「悪いスケエル、ボーっとしてた」

「……もう、セブンったら。可愛いこと言っちゃだめよぉ? 騎士としての自覚を持って」

「……気を付ける」


 界刻は重い溜息を吐くも魔女は気にしないまま界刻を褒める。

 間を少し開けて喋る彼女は界刻に


「……ふふっ、セブンが仕事熱心だから嬉しいわ。フォーが指導役として頑張ってくれたおかげね」

「我らが女王様の命に動くのが、俺たち騎士の務めなんでね。後輩の指導は先輩の義務でしょうよ」

「……ありがとう、フォーぉ」


 フォーは首を垂れる騎士のように礼をする。

 くすっとゼロは笑い困った顔をしながらも、イレブンを見る。


「……今日もイレブンは来てくれているのねぇ、号令の時ワンのように必ずいてくれるのは嬉しいわぁ。ありがとう」

「い、いえっ、仕事なので!! す、スリー様の新作小説を読むまで死ねませんよっ!!」

「あ?」

「にゃ、にゃんれもないれーす!! あ、あははははっ、あはは……っは」


 ヴィヴィに徹底的にマークされている男……第十一席、イレブン。

 陰キャムーブするからヴィヴィからはイレブンがサヤに好意があるのに気付いているので、徹底的にセコムの役割を果たしている。

 ……面倒な女に惚れたもんだなと呆れたいくらいだ。


「女王、今回の件から話が逸れています」

「あ、そうねえスリー? お願いするわねぇ」

「はい」


 サヤは空間の宙に電子画面が現れる。SFはあまり触れたことはないが、こういう場面なら色々な漫画作品にも登場した感じだよな。


「……では、今回の件の一つはセブンが分史世界の雫川千鶴という少女を正史世界に連れてきたこと指導役であるフォーはどうして対応をしていないののかな?」

「あらあら、スリーちゃん怖い顔だねぇ。せっかくの美人な顔にしわがついちゃうよ? ほら、笑顔笑顔」

「私はいつだって笑顔ですよ? 今回の議題には一切関係のない話題です。よって、拒否します」

「あらあら、釣れないねぇ」

「後で資料作成するんですが、フォーにもお願いしても構いませんよね」

「っはは。なら、スリーちゃんの一番言いたいこと、聞きたいなぁ?」


 界刻は動揺を表情にせず思考を回す。

 どういうことだ? 千鶴の件で主に言われるとばかり思っていたが。

 サヤは宙に映像を映す。 


「……ラインホルトゥスに謎の異害が出現したのを確認しました」

「え!? 嘘!? なんかの幕か何か!?」

「……時期は?」

「セブちが雫川千鶴を正史世界に連れてきた時期と同時期だよー」

「本当か?」

「セブちみたいな失恋で脳焼かれた男と違うのぉ、スリちと一緒に調べたんだから間違いないよ。ね? スリちっ」

「うん、ごめんね? セブン君」

「……いつも通りのお前だったろうが」

「セブン君なら気づいてくれると思ったけど……違ったかな? 君への人格理解度はまだまだ低いみたいだね。まだまだ、君のことを勉強する期間が育めるようで嬉しいよ」

「あらぁ、スリーは大胆ねぇ」

「あ! ゼロ様、勘違いしちゃやだよー? スリちはみんなのスリちなんだから! ね?」

「うふふ、今は、ってことにしておこうかな」

「スリち~~~~!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る