第8話 魔獣討伐作戦

 精霊から祝福を贈られた後、僕は3つほど初歩的な魔法を教わった。まずはウインドカッター。前方に風の刃を発生させて飛ばす風属性の攻撃魔法。

 精霊が言うには、習ったばかりの僕では魔獣に致命傷を与えることは難しいとのことだ。本来は何度も魔法を使って熟練度を上げることで魔法の威力が上がるものらしい。

 実用に耐える魔法とするには今後も修行を行い地道に威力を上げていけとのことだった。現段階では使い物にならなさそうな魔法だが精霊にそのことを告げると、牽制くらいにはなるじゃろうとのことだ。

 この魔法の利点は攻撃速度が速い点で、射程内に納めて魔法を発射さえすれば魔獣でも回避は困難らしい。

 なので魔獣に僕が襲われた時、とりあえずぶっぱなせば魔獣が驚いて距離を取るかもしれないとの事だ。

 まあ僕のウインドカッターの威力が低すぎるとまったく効果がない可能性もあるらしいが、それは実際に試すしかないらしい。効果があることを祈るばかりだ。


 次に教わったのがヘイストウインド。風の加護を得て敏捷性を上昇させる風属性の補助魔法だ。今回の魔獣退治は自分自身の速さが重要になってくる。

 攻撃するにせよ守るにせよ、速さが無ければ致命的だ。魔獣相手では速さが無ければ攻撃は当たらないし、攻撃を防御するにしても速さがなければ防げないだろう。

 素早い位置取りにも速さが関係してくる。魔法を授かって戦力が上がったとはいえ、どれくらい役に立つかは未知数なので、基本的に僕は父の背中に隠れている予定だ。

 あくまでもメインで戦うのは父で、足を引っ張らないようにするのが僕の仕事だ。そのことは変わらない。

 僕も前に出て父と共に戦っても、僕だけあっけなくやられる未来しか見えない。僕の目標は生き残ることなので、基本戦いには参加せず、父を見守るつもりだ。

 父ならば魔獣を相手にしても負けないと信じている。ちなみにヘイストウインドの魔法だが他人にかけることができない。自分自身を強化するだけの魔法だそうだ。


 最後に教わったのがアースパワー。大地の加護を得て腕力を向上させる地属性の補助魔法だ。力が足りない僕には非常に有難い魔法だが、今回の魔獣退治で僕は基本的に父の背中に隠れる予定なのであまり出番はない。

 と思いきやこちらの魔法は他人にかけることができる。なのでこの魔法を父にかけることが僕の最大の役割といっても過言ではない。

 自分にも役割があって良かったと、この魔法を教わったときに思ったものだ。


 こうして僕は精霊の祝福を得て、魔法が使えるようになった。ちなみに父には祝福を贈らないのかと精霊に聞いてみると、父の方には魔力特性をまるで感じないそうで、贈っても意味はないとのことだ。

「俺には、この剣があれば十分だ」

 そういって父は気にしていないようだった。

「それでは、魔獣退治に向かうとするかの」

 僕らは出発し、精霊に道案内されて、森の中を進む。草木をかき分け、道なき道を歩き、たまに出現するトレントは父がほぼ一人で片づける。

 トレント相手に補助魔法を使った僕がどれくらい戦えるのか試してみたい気もするが、父からは止められた。


「魔獣との戦いまで魔力を温存しておけ。それに今は少しでも早く先に進みたい」

 あまり悠長に僕が戦う時間的余裕がない、ということだろう。父が瞬殺していく方が時間がかからないのは確かだ。僕は納得して頷き、無言で父の後ろについていく。

「そろそろ奴のテリトリー内に入るぞ」

 しばらく森の中を進んだところで精霊が声を発した。用心しろということだろう。だが正直言って、今のこの場所は戦うのに向いていない。

 草木がうっそうと生い茂り、視界の確保さえままならないのだ。今魔獣に襲われたら、さすがの父でも厳しいのではないだろうか。父が足を止めて周辺に目を向ける。


「まずは戦う場所を確保する必要がありそうだな。精霊様、魔獣のテリトリーとの境界あたりに、もう少し戦う場所に適した場所はありませんか?」

「戦いに適した場所か。たしかに今のままでは戦いにくいの。場所についてはワシが何とかしてやる。それより戦いの場所を用意するとしてその後どうするのじゃ」

「魔獣をその場所におびき寄せて戦おうと思います」

「何かおびき寄せる手はあるの? 父さん」

「ああ。仕事道具の中に、燃やすと獣が好きな匂いを発しておびき寄せるものがある。元々狩りに使うものだ。獣と魔獣の違いはあるが、おそらく大丈夫だろう。念のため仕事道具を持ってきていてよかった」


 父の主な仕事は村や畑の警備で、たまに出現する魔物が相手だが、それとは別に狩りの仕事も手伝っている。狩った獣は肉となり村で流通している。出発準備で父が買ってきた干し肉もその一つだ。

「おびき寄せる手段があるのならば問題はなかろう。それでは後は戦う場所をワシが提供するだけじゃな。もう少しだけ進むぞ。周囲への警戒を怠るな。最悪の場合、おびき寄せる前に奴に遭遇してしまう可能性もゼロではない。奴が今、テリトリー内のどこにいるのかはわからんし、不用意に近づけば先に察知されていきなり襲い掛かってくる可能性もあるからの」


 精霊の言葉に僕は気を引き締めて周囲を警戒し、精霊を先頭に父、僕の順で森の中を進む。比較的安全と思われる一番後ろからついていくが、緊張感は半端ない。

 いつ襲われるかわからない恐怖と戦い、一歩一歩足を進めるが、体が意図せず震えそうになる。ただ、魔獣と予定外の遭遇をしないことだけを願い歩き続けた。

 願いが通じたのか、ただ運が良かったのか、それとも嵐の前の静けさか、魔獣と遭遇することなく、ある地点に到達した。

「この辺が良いじゃろう」

 そういって精霊が動きを止めたが、僕は困惑して周囲を眺めてしまう。なぜなら相変わらず草木が生い茂り、まだまだ戦いやすいとはお世辞にも言えなかったからだ。でもよくよく観察すると現在地から半径5メートル周辺に木は一本も生えていないので、草だけ何とかすれば最低限の場所は確保できるかもしれない。


「邪魔な草は刈ったほうがいいよね」

 そういって僕が草を刈ろうとしたら精霊に止められた。

「そんなことはせんでよい。ワシに任せるのじゃ」

 そういうと精霊の緑の光が強くなり、周囲に光が降り注いだ。すると半径10メートルほどの円の内側に存在する草木が発光を始めた。そして青々と茂っていた草葉が徐々に生命力を失うように枯れ始めた。

 それは非常に幻想的な光景で僕は思わず目を奪われる。完全に草場が枯れても発光は収まらず、今度はまるで長い年月が経過して枯れ葉が朽ち果てるように、ボロボロと崩れ落ちていく。

 僕の目の前でそれまで茂っていた草葉が瞬く間に減っていき、最後には木だけを残して周辺の草葉が消失してしまった。


「まあ、こんなもんじゃろう。これ以上は木まで枯らしてしまいそうじゃ」

「ありがとうございます。精霊様。この場所なら魔獣と戦えそうです」

 父の言う通り、森の中で戦うにしては上等な地形を得られた。周辺の視界は確保され、地面は多少でこぼこしているがおおむね平らだ。これくらいなら何の問題もなく動ける。いい感じに木が障害物のように残り、魔獣の突進を妨げてくれそう。

 後はこの場所に魔獣をおびき出して戦うだけだ。僕は気を強く引き締める。

「奴との戦いが始まったら、周辺を照らす明かりはワシに任せるがいい。ランタンの光よりも広範囲に明かりを照らせるじゃろう」

「それは助かります」

「ワシにできることは、もうそれくらいじゃ。ワシにはあまり戦闘力はないからの。後のことはお主たちに任せる」

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