先王陛下の世直し旅

うりぼう

第1話 プロローグ

「ええい、控え、控え、控えおろう!」

  

 あっという間に鎮圧された領主の館に、毅然とした声が響き渡る。

 

 さんざん打ち据えられて床に這いつくばる伯爵家の私兵は、その言葉に顔を上げる。

  

 そこには白いヒゲを生やした好々爺と、その左右に立つ二人の老人の姿があった。


 ひとりは、剣を手にした偉丈夫。

 その一振りで館が倒壊し、多くの兵士がなぎ倒された。

 もうひとりは、杖を手にした小男。

 その重力魔術で、館の者は軒並み床に這いつくばされた。


 身の丈ほどもある大剣を持つ偉丈夫は、更に言葉を続ける。


「この紋章が目に入らぬか」


 偉丈夫が取り出した懐中時計には、三ツ首の龍の紋章が刻まれていた。

 この紋章こそが、【ヴァッサー・トーア王国】の王族の証。



「こちらにおわすお方を何方どなたと心得る。畏れ多くも先の王。リヒト・フォン・トーア・ゲルプ様にあらせられるぞ」


 一同を見回しながら、禍々しい杖を構える小男が続ける。


「先王陛下の御前である。一同の者控え、控えおろう!」


 その言葉を聞いて、先王に弓を引いた伯爵家の面々は弾かれたように平伏する。


 唯一、その場に呆けているのが、伯爵家の当主である。


「あっあわわわわわわわわわわわわわ……」


 あまりの衝撃に、ひれ伏すことなく立ち尽くす男へ好々爺が告げる。 


「グルケ領主ザコよ。領民に対する数々の暴行と重税の咎、既に調べはついておる」

「先王陛下、そ、それは…………」

「加えて、国の査察官を殺害した容疑。国府に突きだす故、追って沙汰を待て」

「全て知っておられる…………」


 愕然とした表情のザコに向かって、鋭い視線を向ける好好爺。


「ところでのう。お主は、いつまでそうしておる?ワシは、無法者に立つことを認めた覚えはないが」

「あっ……あわわわ。それは……」


 眉間にシワを寄せた好好爺は、憤怒の表情を浮かべると覇気を解き放つ。


「喝ッッッッッ!」


 すると、その覇気を受けてグルケ領主ザコ伯爵はカエルのようにひっくり返る。


 口からは泡を吹き、涙と鼻水を垂れ流しながら白目を剝いている。


 遠くからは知らせを受けてやって来た第三騎士団の足音が聞こえて来た。

 これで、この場の者たちの逃げ場は無くなったと言っても過言ではない。


「これにて一件落着!」


 満足そうな好々爺が高らかにそう告げると、近くで黒尽くめの男と成り行きを見守っていた少女が、好好爺に駆け寄って抱きつく。


「じいじ、かっこいい〜!」

「おうおう、そうかそうか。かっこよかったか」

「うん。さすがじいじだね」

「ほほほほっ。そうかそうか。それじゃあ、何か美味いものでも食べに行こうかの」

「うん。オクトーはね、お団子が食べたい」

「ヤシルド?」

「はっ、この近くであれば『ショウブ屋』が有名かと」

「うむ。それじゃあ、そこに行くとするか」


 好好爺が黒づくめの男にそう尋ねると、間髪を入れずに回答が返ってくる。

 その答えに満足した好好爺は、孫娘を抱き抱えたまま領主の館を後にする。


 こうして、世にはこびる悪は一掃されたのであった。


「かぁ~っ、かっかっかっかっか~」


 破壊され尽くした領主の館に、好好爺の高笑いが響き渡るのだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ええ、例の御一行のお話です。


拙作で『カクヨムWeb小説短編賞2023』に参加します。


みなさまの応援をいただけたら幸いです。


  

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