第28話
オレは料理番組のように作り方を説明しながら調理を進めていった。
隣ではアリーシャがそれを熱心に見守り、時折頷きながら聞いている。
「カレーは、弱火でじっくり15分から20分煮込むのがポイント。焦げ付かないように、時々優しくかき混ぜるのを忘れちゃだめだぞ」
煮込んでいる間に、ナポリタンをやっつけてしまおう。
「アッ、そう言えばさっき、アリーシャの記憶が頭の中で大爆発したんだけど。マジビビったわ、事故るとこだったよ!」と、オレは興奮気味に語った。
アリーシャの顔が一瞬驚きの色を見せるが、
「なんだ、成功してたのか。オマエの脳ってそれほど低スペックじゃないのかもしれないな」
そして、期待に満ちた眼差しをオレに向ける。
「戦闘中の私の華麗なる姿はどうだった?」
オレは苦笑した。「そりゃあ残念ながら、アリーシャの視点なんだからアリーシャの姿は見えないよ。代わりに、鮮やかに魔法を操るレイラの姿が頭に焼き付いたな」
「そうか、私のことは見えないよな。私の記憶だからな」と残念そうにしていた。自分の雄姿をオレに自慢したかったのかもしれない。
「レイラも美人さんなんだな。オレは今の魔法にやられた顔しか知らなかったから、新鮮な驚きだったな」と、オレは思わず口に出した。
「そういえば、オマエとレイラ達の一族は、似ているところがあるな」アリーシャが指摘する。
「え、どういうところ?」オレは興味津々で聞き返した。
「私たちの種族では珍しい、黒髪黒目ってところだよ」
その言葉に、オレの脳裏に以前から感じていた違和感が蘇った。確かに、オレとレイラは、漆黒の髪と瞳を持つ。
それに、レイラの顔立ちは、アリーシャ達の様な欧米風ではない。欧米風とアジア風の中間的な顔立ちだ。
果たして、それらは偶然の一致なのか?
はたまた、レイラと何か因縁があるのか?
オレの中にはレイラへの既視感と、霧が垂れ込めたような曖昧な記憶が蠢いていた。
アリーシャの記憶の中で、普段のレイラの表情を見て、その感覚はいっそう強くなっていった。
一体過去にレイラと出会ったことがあるのか? それとも夢の中かなにかで、見た姿を思い出しているだけなのか? オレには定かではなかった。
だけど、オレの心が、オレに向かってレイラを知っていると信号を出してくるんだ。
オレはアリーシャに相談しようか考えたものの、言い出せずにいた。
「異世界から来たのに、そんなことあるわけないだろ」そう一蹴されそうで、口が重くなってしまう。
オレは、まじまじとレイラを見つめていて、「あれっ?」と思った。
「アリーシャ、カレーかき混ぜて。それとレイラのあれって戦闘体型?」
「んっ? ああ、そうだな」鍋の中のカレーの様子を窺いながら、アリーシャは答える。
オレはうろ覚えの知識を総動員して、アリーシャに確認した。「戦闘体型って、魔力消費するんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうだぞ」愛おしいものを見る目で、やさしくカレーをかき混ぜている。
「魔力切れにならないの?」
オレの言葉に、アリーシャの手が止まった。
カレーの鍋から顔をガバッと上げたアリーシャは、愕然とした表情でオレを見返してくる。
「ま、魔力が尽きたら・・・」アリーシャは口を半開きにして言葉に詰まり、ただただオレを見つめるばかりだ。
「死んじゃうんじゃなかったっけ?」と追い打ちをかける様にオレが確認する。
「そうだ!」と一言だけ答えたアリーシャは、愕然としていた表情を懇願の表情に変更し、オレを見つめ返してきた。
どうやらオレは、また精さんの自動販売機にならなければ、ならないようだ。ジョン玉袋が引きつってきた。
暗闇に包まれた別荘は、まるで夢幻の世界から切り取られたかのように、穏やかな光に包まれていた。
そんな室内では、レイラの状態に気付いてやれなかったことに、アリーシャはドよ~ンと落ち込んでいた。
「命の恩人のことに気付いてやれない、自分が悔しい」
オレはそんなアリーシャを何とか慰めようと、カレーとナポリタンの大盛り皿を前に置いた。
「今更落ち込んでも仕方ないさ。異世界に来て初めての大変な日だったんだから、全てに気付くのは無理があったよ。ほら、カレーとパスタでも食べて気分転換しようぜ」
「いただきます!」カレーを食べ始めたオレは、まだウジウジしているアリーシャに、「君が喰わないなら、オレが全部喰っちゃうぞ」と軽く嚇すと。
アリーシャは突然覚醒し、カレーとナポリタンを交互に食べ、時折うまそうに頬を膨らませては吐息を洩らす。
まるで腹ペコの学生が、ラーメンとチャーハンを勢い込んで食べてるようだ。
「デップリが作ったのも、うまいな! ビックリだ。この味噌汁もお湯を入れただけなのにいい味がするな~」
「炭水化物ばかりじゃカラダによくないから、サラダも食べといたほうがいいぞ」
「わかった。今度は私が作ってやるからな」
「明日とかはやめてくれよ。さすがに他のモノが食べたいからな」
食後の洗い物を済ませ、コーヒータイムとなった。
オレは、ブラックだが、アリーシャは苦くて飲めなかったので、カフェオレにして砂糖多めでOKがもらえた。
まったりとコーヒーを楽しんでいると、アリーシャがレイラについて話があると言うので、ミーティングとなった。
「レイラのことで、私も思いついたことがあるんだ。オマエの効能の高い精さんをレイラにやったら、症状の改善につながるかもと思ったんだけど、どう思う?」
レイラにしてやれることは何もないと思っていたが、確かに一理ある。
「う~ん、ないとは言い切れないよな? 試す価値はあると思うぞ」
「ホントか? 今思いつく唯一のことなんだ。アイツのためにできることは何でもしてやりたいんだ。効果があるのかどうかはわからないが、精さんをやってみてもらえないだろうか?」
「ああ、戦闘体型で魔力消費してるんだから、定期的に補充は必要だろ? あれっ? 今のレイラは魔法使えないよね?」
「そうなんだ。そこがちょっと問題なんだ」
「手から吸い取れないなら、どうやるんだ?」
「私達の種族が子作りのときにやる方法でだ。オマエたちの種族だとセックスというやつだ」
「ぷっ!?」オレは一気にコーヒーをぶちまけた。「えぇぇぇっ? 冗談じゃねえよ! 意識のないレイラとやれって言うの!?」
アリーシャは困惑する表情を浮かべた。「そうだ。難しいの事なのか?」
「そりゃそうだ!」心の奥底では複雑な思いが渦巻いていた。オレはダッチワイフを想像してしまった。限りなく虚しい性行為だ。
しかし、この選択がレイラを救う唯一の光だとしたら、オレの感情など二の次だ。
ボッキーと発射はアリーシャに魔法のビリビリキスでやってもらえばいい。
いろいろ考えこんでいるオレを見たアリーシャは、オレが断るんじゃないかと勘違いしたのか、勢い込んで話しかけてくる。
「いや、分かっている、分かっているんだ。オマエの世界では、オマエにとっては、苦痛に感じる事を頼んでいるということは」
レイラの状態に気付けなかったことを負い目に感じているためか、予想外の行動に出てきた。
彼女の目には、レイラのためならという強い決意が宿っていた。
「それでも何とか頼む。この通り」いきなり床に手をついて土下座を始めたのでビックリした。
「そんなのどこで覚えた?」生で土下座を見るのは初めてかもしれない。
「アニメに出ている男どもがやっていた」
「断ったりしないから、土下座なんてしなくていいよ、立ってくれ」
アリーシャを立たせて、椅子に座らせる。
「君の友達だから見殺しにするようなことはしないよ」
「アリガト。きっとデップリならそういってくれると思っていた」
「バレてたか?」
「そうだな。オマエいい奴だからな。だから、私もお返しを考えていたぞ」と彼女は得意げに言った。
「お返し?」
「この世界で、私たちの世界の混浴を味合わせてやるぞ。3人で風呂に入ろう。混浴に興味もっていただろ?」
それは、異世界ではいろんな女の裸が見れるかもというスケベ心と、覗きという男のロマンがあったからだ。
同時にアリーシャたちの種族は人間とはまるで異なる習性を持つことも頭に浮かんだ。おそらくエッチへの理解がないだろう。
しかし、アリーシャの方からの申し入れだ。オレが混浴しなきゃ、精さんやらんぞ、と脅したわけではない。
彼女の提案は、まるでエロイ冒険への招待状のように魅力的だった。確かに、異世界の美女たちとの混浴は、夢のような話だ。
なので。断る理由など一つもない。むしろ、このチャンスを心から歓迎する。「その条件でOKです。こちらこそよろしくお願いします」混浴だ~!
レイラもアリーシャも、身体を洗ってあげるからね。という妄想していることなど露ほども表情には出さずに会話を続ける。
「レイラは、そのやり方で子作りしたことあるのか?」
「子供を作るのはまだまだ先だと言っていたから、ないと思う」
「初体験をオレたち二人で勝手に決めちゃっていいのか?」
「しょうがないアイツは意識がないんだから」
「後でレイラに恨まれたりしないだろうな?」
「オマエの精さんで助かったなら言わないだろう」
と、少し軽いノリで事が進んでいる気もする。
オレはまじまじとレイラを見つめる。女性との混浴はうれしいけど・・・。
意識のない女の子を襲って、腰を振るというのを想像するとため息が出る。
オレたちは、そそくさと入浴準備に取り掛かった。
レイラ強姦計画に夢中になり、アリーシャにモールに引っ越す計画を話し忘れてしまっていた。
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