何度でも

『対象を認識しました。現時点よりループを開始します』


「おおおおおおお!!!」


 ゴーレムに叩き殺されて死に戻ったがいつもと違う。自分でも引く程に気分が高揚している。


「変化だ!変わる!24時間!24時間だ!災禍襲来があればもっと有利になる!残り2時間は走り続ける事だって出来る!行ける!行けるぞ!!」


 大きな声で叫びながら1人で飛び跳ねる。あと少し、そんな気がしていた。


「よし!行くか!」


 何度目の1日を始めるか分からない。その回数を年月に直したらいったい何年ここに囚われているのだろう?でもそれも終わりが見えて来た気がした。今までは少しずつの前進、しかし前回は大きな前進だったと思う。そう思える何かをずっと求めていたのかも知れない。


 いつもの手順通り、無駄もなく最効率の選択で駆け抜ける。油断はしていない、つもりだった。ただ何となく気持ちが大きくなっていたんだろう。村の中を少し進んだ先にいるクランクオーガに斬りかかる時に地面のぬかるみに足を取られて転んでしまった。ここには小さな水溜まりがあったじゃないか。

 クランクオーガは仰向けに倒れた俺の頭を鷲掴みにし引っ張り上げ、その凶悪な牙で俺の左腕を食いちぎり咀嚼した。それを見た他の3体のクランクオーガが俺に群がり右腕、両足、腹と次々に食いちぎっていた。何より悲惨だったのは、鷲掴みにされていた頭は最後まで食われなかったという事だ。


『対象を認識しました。現時点よりループを開始します』


「ああうあああああ………………」


 元に戻った全身を苦痛と痛みが駆け抜けている感覚に陥る。


「ぐぅ……クソ……クソッ……!」


 決めた。


「今度はアイツらを俺が食ってやる……」


 決めた。俺を食い殺した奴らを遺物にぶち込んでやろう。おそらく遺物は信じられないぐらい物がしまえるはずだ。そしてこの呪縛から解放された後で俺を食い殺した奴を逆に食ってやる。面倒だ、素材とマガ石に解体した奴も、殺したが放置していた奴も可能な限り全部遺物にぶち込んでやる。どうするかはここを出てから考えよう。とにかくクランクオーガは絶対に食ってやる。


 ファイアーラットを、ボーウッドを、食えなさそうなスケルトンとグールはパス。食えるか分からないがとにかく肉が付いている奴はトカゲだろうとオークだろうとクマだろうと遺物に突っ込んだ。何度でも、何度でもだ。不思議と手を抜く事は無かった。殺した魔物を手当り次第に突っ込む事で少しだけ鬱憤が晴れていた様な気がする。というよりもう何かを深く考える気は無い。やると決めた、だから何度でもやる、それだけだ。

 

 そしてゴーレム。12回目に対峙した時に倒す事が出来たがそれは【災禍襲来】を手に入れてからだった。それじゃ遅い、遅いんだ。案の定ゴーレムを倒し進んだ先にいたピクシードラゴンの群れに手間取っている間に24時間が経ち17時20分に戻ってしまった。

 遅い、遅いんだ。それだけじゃない、【災禍襲来】の恩恵が無ければゴーレムを倒せないんじゃダメだ。時間的にゴーレムの時点では【災禍襲来】を手に入れる前じゃないと間に合わない。という事はゴーレムは【災禍襲来】無しで倒せないとならない。まずは24時間経過前にゴーレムまでたどり着く事、さらに【災禍襲来】無しで倒す方法を見つけなければならない。なんだ、まだまだ自由は遠いいじゃないか。浮かれている場合じゃない。


 それから20回程度、我ながら早いペースでゴーレムを攻略出来たと思う。しかも時間もちゃんと残してだ。まさかあの見てくれで衝撃に弱いとは思わなかった。属性の通りが悪いとは思っていたが、まさか衝撃でそこそこダメージを与えられるとは思ってもみなかった。ジャイアントバットの『叫び袋』なんて素材がここで活きるとは思わなかった。何でも試してみるものだ。『叫び袋』を村に立っていたはじけクルミの実と【混合】。

 はじけクルミは動物や魔物が食べようとしてその実をかじると硬い外皮が弾けて口内を傷付ける。だから野生の生き物はこの実を食べない。人間は弾ける仕組みを知っているから美味しく食べられる訳だ。そしてその特性と叫び袋が混ざる事で、投げつけて対象物に当たった瞬間に衝撃波が弾けるアイテムに姿を変えた。

 弱点さえ分かれば後はなんてことは無い、魔物なんてどれもそんなものだ。衝撃に弱いゴーレムははじけクルミが当たった場所からボロボロと脆くも崩れて行った。最後に残る『傀儡の魔核』なる素材を回収して終わりだ。

 

 後はどれだけ全ての時間を短縮出来るかだ。とりあえず【災禍襲来】を手に入れる前にはゴーレムを倒す所までは来た。


 その後も何度も死んだ。でも少しずつ前進している。スキルやランクアップについての検証も重ね、理解も深まる事でさらに多くのスキルを手に入れ、ステータスの上がり方、隔たりも俺の理想とする物に近ずいている。俺は近接物理特化型、魔法は使えないし残念な事に魔法関係のスキルはほぼ手に入らないが属性攻撃は【混合】のおかげで何とでもなる。そのためおのずとステータスも近接物理に寄った物になる様に仕向ける。そう、仕向ける事が出来るんだ。


 これはおそらく世界で1番俺が理解が深いはずだ。何せランクアップとランクダウンを何千回も繰り返した人間なんて存在しない。俺は徐々に理想の能力に近ずいている。


 ゴーレムを越え、ピクシードラゴンを越え、ソローバンシーを越え先へ進む。そして何度となく【災禍襲来】を体感し理解を深める。

 そしてついに村の入口、目指す大きな門が見えた。


「見えたっ……!見えたぞ!あそこを抜ければ……!」


 ついに来た、ここまで。時間は17時ちょうど。今回は無理だがもはや逸る気持ちを抑えられない。俺はとにかく門に向かって走り出した。するとゆっくりとした、それでいて存在感が桁違いの地響きがいくつか聞こえ絶望的な姿が視界に入ってきた。

 それはやっとの思いで乗り越えて来たゴーレムだった。いや、それとは違う、色の付いたゴーレムだ。その数5体。


「属性持ちかよ……」


 絶望してる暇なんて無い。自分を奮い立たせて残りわずかな時間、全てを次のために使わなくては。

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