109、話せば長い
獣人の街トルメルンから程近いダンジョン。そこに常人とはかけ離れた巨躯の男が腕を組んで仁王立ちしていた。その肩には褐色肌の小さな女の子がお尻をプリプリと揺らしながら乗っていた。
男の名はディロン=ディザスター。女の子は地竜王ウルラドリス。
2人はレッドの戦いを目の当たりにしたあの日から数日でかなり距離を縮め、今では友人関係になっていた。ディロンはウルラドリスと共に修行し、かなり実力を上げていた。その証拠に目の前にいる土の精霊王”地帝ヴォルケン”の姿をはっきりと認識するまでに成長を遂げていた。
急に訪ねて来て質問するヴォルケンにディロンは面倒臭そうに鼻を鳴らしたところだった。
「俺がレッドの居場所を知っているわけがねぇだろ。あいつは神出鬼没だ」
『そこを何とか探せないのか?』
「あぁ?そうだな……ギルド会館の受付に聞きゃ最後に寄った街なら分かるだろうぜ」
「えぇ?ディロン聞いたげないの?」
「面倒臭ぇ。そんなことしてる間には鍛えた方がマシだぜ」
『そこを曲げて何とか頼む。修行するなら後で俺も手伝うから……』
「おいおい、オメーも丸くなったもんだなぁ。少し前はあんだけ粋がってたのによぉ」
『はぁ……話し掛けられる人間が限られているんだ。急ぎの用事なんだから俺だって臨機応変に対応するさ。だから……』
下手に出るヴォルケンに難色を示すディロン。他人事のウルラドリスは会話に飽きてキョロキョロと周りを見渡す。そこにいきなりパッと何人かの姿が目の前に現れた。
「うおぉっ!!う、嘘でしょっ!!」
『ほんとに飛んだのぅ!どこじゃここはっ?!』
そこにははしゃぐレッドとフローラ、驚愕に目を丸くするライトとオリー、そして魔剣を振りかざすグルガンの姿があった。
「言っただろう?実物があれば我以外も一緒に飛ばすことが出来るのだと。ここはトルメルンが近い……ん?」
そこでようやく3人の存在に気づいた。
「あれ?ディロンさんがいる」
「ウルラドリスもいるな」
「手が4本の魔獣か?見たことないが……」
『あぁ、あれは地帝ヴォルケンじゃ。そういえば乾いた何とかと首輪がどうとかでレッドに話があるそうじゃぞ?』
「かわ?なんです?」
レッドはフローラに聞き返すがその一言でグルガンには分かった。
「乾きの獣のことか?グリードのことで話があるとは随分と情報が遅い」
グルガンが魔剣をしまうのと同時くらいにウルラドリスが声を上げた。
「うひぃっ!?レッドとオリーだぁっ!」
『レッド!?レッド=カーマイン!!あぁよかった!ようやく見つかった!!』
「おぅレッド!久々じゃねぇか!……あ?何だ?すけこましも居るじゃねぇか」
「人聞きの悪いことを言うなディロン。俺はすけこましではなくライトだ」
ようやくレッドと会えたヴォルケンは早速用件をと行きたいところだったが、すぐにすぐ話に入れる状態ではなかった。
『すまない。ウルラドリスのダンジョン内に合わせたい精霊がいる。一緒について来てくれ』
「あ、でも……」
レッドはチラリとグルガンを見た。
「大丈夫だ。ダンジョンは逃げない。先にそっちを終わらせよう」
「あ、じゃ、じゃあ行きましょう」
レッドたちはヴォルケンに連れられてウルラドリスのダンジョンに向かった。
*
『ふっふっふ……ようやく会えたのぅレッド=カーマイン。噂は
仙人を絵に描いたような老人だ。伸ばし放題の髪と髭を丁寧に解きほぐして整え、目を隠すほどの眉毛まで綺麗に櫛を入れている。まるで生きている年数を誇っているようにも見える長い髪の毛や髭は地面に立てば引きずるほどである。魔法使いのローブのような衣装を身にまとい、座禅を組んで浮いている姿は、ある種の神や仏のように見えなくもない。
土の精霊王だった旧地帝であり、今はヴォルケンにその地位を譲ったご隠居。その名をマルドゥク。フローラたち現精霊王からは爺や爺様と親しみを込めて呼ばれている。
自己紹介を終えた面々は早速マルドゥクの話に耳を傾けた。
『見事女神を討伐したそなたたちの力を見込んで頼みがある。残念なことにこの世界にはまだ災厄が残っているのじゃ。それこそが『乾きの獣』と『獣の首輪』。その2つを討伐しない限りは真の意味での平和は訪れない。次の世代を担う者たちのためにもどうかひと肌脱いでくれぬか?』
「獣の首輪だと?本当に居たのか?」
「おぉ……グルガンさんはご存知なんですね?」
「ああ。首輪の名の通り乾きの獣を制御していたとされる存在だ。しかしその名は歴史書には存在せず、我が祖父の記録書でしか出なかった異名。実在していたのか……」
『流石はグルガン家の現当主といったところか。そなたの祖父であろうアレクサンドロスは聡明な御仁であった。残忍で冷酷であったゆえにあまり関わってはいないがのぅ……』
マルドゥクはアゴヒゲを撫でながら過去を懐かしむ。そこにディロンが口を挟んだ。
「おいオメーら。何でも無いように接しちゃいるが、そいつは魔族だぜ?まさかとは思うが『魔族とお友だちになった!』なんて言うなよ?」
「あ、いや、友達というか……グルガンさんは俺の中ではそれ以上って感じですね。命を預け合うチームメイトって感じですし……」
「マジかよ。オメー何でもありだな」
「まぁだって精霊より強いもんね」
レッドの照れがグルガンにも波及しそうになり、咳払いをしながら気を落ち着ける。
「ともあれマルドゥクよ。乾きの獣ことグリードならば既にレッドが倒した」
『何っ!?どど、どうやって……?!』
「……グリード?グリードっていうと目の前で破裂した魔族の名前だったよね?オリー」
「ああ、確かあいつだ。あれは急すぎて驚いたな」
『破裂し……はっ?えっ?!』
マルドゥクは頭を抱えて何を言っているのかを整理しようと頑張っていた。
「う、うむ……話せば長い。しかしグリードを封印していたことを考えると、獣の首輪も封印されているということで間違いないな?」
「……その通りじゃ。最果ての門と呼ばれる場所に幽閉されとる」
「なるほど。グリードと同じ
グルガンはマルドゥクに案内を頼み、最果ての門への旅立ちが決まった。だが、ダンジョンからあと数歩で外に出られるというところでマルドゥクは立ち止まる。
『む?ま、まだ日が高い。今は行くべき時では無いな』
「ん?逆じゃないか?もしかして夜じゃないと辿り着けない特殊な場所なのか?」
『いや、すまない。そうじゃないんだ。爺はある時期を境に外に出ることをやめてしまって暗がりで生きて来たんだ。そんな引きこもり生活が祟って日の光を異常に怖がるようになってな』
『アンデッドかっての。まったく、こうなったらもうお終いじゃよ』
『失礼な奴じゃな!儂は先輩じゃぞ!もうちょっと敬わんか!!』
『ほらの。このザマじゃ』
ケラケラと笑いながらフローラはマルドゥクを煽り散らす。グルガンはアテが外れたと大きくため息をつく。オリーはそんなコントのような状態を見ながらレッドを見た。
「仕方がない。こうなったら先にレッドのダンジョンを見に行かないか?この付近にあるのだろう?」
「む?それは良いアイデアだ」
「あ、そういえばそうだ。すっかり忘れてた」
「この辺りに飛んだのだから歩いて行ける距離にありそうだな」
「あ?こいつのダンジョン?何の話だ?」
「うむ、話せば長い。気になるなら我らと一緒についてくれば良いと思うが?」
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