104、代償
「やぁやぁ。待っていたよ〜ビフレスト諸君」
エデン教の
「ふふっ懐かしいな〜。僕にもそんな時があったよ〜」
ヘクターも最初は圧倒されたとみんなの反応を楽しんでいる。一見ビフレストの功績を労い、観光ツアーを開いたように見えるが、これはそんな楽しいものではない。人類の剣として立ち上げたはずのホープ・アライアンスをニールの一存で解散させたことが原因でここに呼び出されたのだ。
ホープ・アライアンスの立ち上げを支援した
「すまないなヘクター。僕のわがままからこんなことに……」
「気にすることはないよ〜。何でもやってみなきゃさ〜分かんないことだってあるしね〜。僕も薄々は感じていたよ〜。あれ?みんな弱すぎない?ってさ〜」
「何とかなると思ってたんだけどね。僕の手でみんなを導けるって、本気でさ……」
ニールは落ち込みがちに顔を伏せる。そんなニールの側によってプリシラは唇を尖らせた。
「私は別にそれに関しては何も心配してなかったけどね。ただ長い目で見過ぎだし、魔族が出て来た時に弱い奴らを守ることに必死になっちゃって攻めに欠けたのよね。守ってばっかじゃ勝てないし」
「ええ、その通りです。一律で強くなる方法があるとするなら強力な魔道具を弱者に持たせて平均値を上げる他に道がありませんからね。数少ない魔道具をそんなもったいないことに使用するぐらいなら、戦力になる者たちに集中させた方が効率的です。そう思えばこその解散なのですから」
「ああ、まったくだ」
ローランドもジンも解散は正しかったと豪語する。当時はリックの怒りとそこから出てくる謎の説得力によってニールに反発したが、よくよく考えてみれば責めるほどのことではないし、ヘクターの言うようにやってみなければ分からないことだった。ニールの傲慢な考え方には賛同しかねるものの、やってみるだけの価値はあったのだ。
「でもそれのせいで今回呼ばれてるネ。何言われるか不安ヨ」
だがそんなことを
「そう怖がらないでよ〜。取って食ったりなんてしない常識ある方だからさ」
ヘクターはヘラヘラと余裕を崩さない。
(……後者だな)
ニールはヘクターの性格をよく知っている。この間延びした喋り方はヘクター自身に危険が迫っていないことを表している。
(弱味をチラつかせて何かの頼みか、それとも……)
ニールの中で答えが出るより先に
「おいおい……あれは脅しのつもりか?」
リックはボソッと呟く。ジンが肘で小突くも既に
「どう見えるかね?」
「申し訳ございません。私どもはあまりこういう場は慣れていないもので、失礼をお許しください」
「ああ、そうだな。君は
ニヤリと笑う
「……まずはホープ・アライアンス立ち上げにご尽力いただいたことに感謝申し上げます。その上で今回の解散騒動にお心を痛めたものとお察しいたします……」
「ふむ。まるで他人事だが、解散は君の一存であると耳にしている」
「はい。その通りです。私の不徳の致すところ……」
「ふぅ……君には期待していたのだがねぇ」
「エデン正教の重鎮であるローディウス卿に期待をかけていただき光栄の極みです。つきましては謝罪の意を込め、ローディウス卿のお力になりたくこの場に参上いたしました」
「ほぅ?この私の力に?」
「はっ!私の力を思う存分お使いください!」
ニールは頭を下げてとにかく謝り倒す。ビフレストの実力なら多少難しい
「……ヘクター」
「はっ」
「経典をここに」
「かしこまりました」
部屋に備え付けられた豪華な机に置かれた経典。ヘクターは経典をそっと手に取り、
「私のために力を使う。その言葉に嘘偽りはないな?」
「はい」
「ならばここに手を……」
「……私はエデン教徒ではありませんが……」
「かまわん。敬虔な信者でなくとも、私の剣となるならばそれで良い」
ニールは逡巡しながら経典に手を置く。つらつらと上滑りするような言葉を並べる
「……今日より
(これが狙いだったか……)
ニールはしてやられたと面倒な気持ちになった。それはビフレストのメンバーも同じで、今後の身の振り方をも考えさせられた。
「……ヘクターが冒険者をやってっから割と自由だとは思うが、今後の命令次第だな……」
ジンは近くにいたリックにコソコソと話す。
「まぁそう言うことだ。私の命令を聞いてもらうことになるが、呼び出すことなどそう無い。布教活動も戒律も免除する。ヘクター以上の自由を約束しよう」
「羨ましいね〜」
「……要は肩書きだけってことでしょうか?」
「言っただろう?私の命令には従ってもらう。それが気に入らんと言うこともあるだろう。だが、君が
「……かしこまりました」
ニールは
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