97、アンデッドドラゴン
ライトがアンデッドドラゴンを引き付ける中、オリーは荷馬車とステラの警護に回り、魔障壁を展開している。レッドはまだ動いていない。
「えっ?!レッドさん?!なんで……!?」
ステラはライトと一緒に戦うことなく座り込むレッドに驚愕と懐疑の目を向ける。
「なぁにぃ?温存のつもりぃ?それともぉやっぱり強いってのは嘘だったのかなぁ?」
ウルウティアはほくそ笑みながらレッドを煽る。レッドは煽りを無視してぶつぶつとライトに言われたことを反芻していた。その間にも襲ってくるアンデッドドラゴン。ライト1人に対して数が多すぎる。
ガンッ
だが、そんな不利をライトは一発で
アンデッドドラゴンは骨の集合体。斬撃はほとんど効果がなく、打撃攻撃が有効である。ゆえにロングソードの峰で思いっ切り叩いたのだ。本来そんなことをすればすぐに折れてしまいそうだが、武器とは扱い方次第で伝説の武器になり得る。女神をロングソードで屠ったレッドのように。
「ヒュ〜」
ウルウティアは感心して口笛を吹いた。通常は1体相手にチーム総掛かりで戦わなければ勝ち目のない強さを誇るアンデッドドラゴン。それをライト1人で3体を同時に相手している。
「人間もピンキリということかぁ……勉強になるなぁ」
パイプ煙草を吹かしながらニヤリと笑う。正直驚いたが、ライトがどれだけ強かろうがライトの不利は覆らない。ゆえに余裕も崩れない。
だがこれで良い。ライトの力がアンデッドドラゴンに通用することを見せつけるだけで良いのだ。
「あ、本当だ。アンデッドドラゴンってそうなんだ……」
レッドは半信半疑だった気持ちを振り払い、荷馬車から立ち上がった。ステラは苛立ち半分、焦り半分でレッドに叫ぶ。
「は、早くライトさんを助けに行って下さい!殺されてしまいます!!」
「あ、その……すいませんすいません……」
頭をペコペコと下げながら荷馬車から降りる。オリーは鼻息荒くするステラに苦言を呈す。
「ステラ。レッドを責めないでくれ」
「だって……!!」
「レッドは色々嫌なことを考えてしまう性格をしているんだ。納得出来たら突っ走るんだが……だから今のレッドは大丈夫だ」
「……どこがですか……」
ステラは思った以上に頼りない背中に信頼を見出だせない。レッドは荷馬車を気にしながらロングソードを抜き払うとキリッと顔を締めた。
ついに出てきた切り札にウルウティアは興味津々に眺める。
「さぁ、妾に見せて欲しいなぁ。炎帝を倒したっていう力をさぁ」
──ジャッ
レッドの踏み込んだ音が鳴り響く。深く沈み込むように走り出したレッドは途中までステラの目に映っていた。しかし次の瞬間、フッと蝋燭の火を吹き消すように影も形も消える。
パァンッ
「……ん?」
火薬が爆ぜるような音と共に端のアンデッドドラゴンの頭が無くなった。
「「行けるっ!!」」
レッドとライトの気持ちが重なる。ライトが流麗な剣捌きでアンデッドドラゴンの脚から崩しつつ致命的な骨を砕くのに対して、レッドは風船を割るような勢いでアンデッドドラゴンを潰す。
「……え?……は?」
目減りしていくアンデッドドラゴンにただ困惑するしかないウルウティアとステラ。レッドの強さが異次元すぎて、ライトがまだ現実的な実力で戦っていると思わされる。
レッドを抜けば人間最強は間違いなくライトで間違いない。が、その力に開きがあり過ぎて、最早意味が分からない。
「うおおぉぉっ!!烈刃っ!!」
ボンッ
斬撃とは思えない破裂音が鳴り響き、吹き荒れる突風がウルウティアの展開する濃霧を一部晴らす。
(な、何が起こったの?)
意味が分からなかった。これが現実で起こっているとは到底思えない光景。全ての常識が覆される。
「あなたぁ……急に何なのよぉ……?アンデッドドラゴンに怯えてたのは演技だったのぉ?」
「あ、いや……演技ではなくてですね……そのぉ……」
「これがレッドの力だ!」
レッドの言葉にライトが大声で被せてきた。ライトの威風堂々とした立ち居振る舞いにレッドも心なしか触発され、虚勢を張るように胸を張ってみる。
謎に包まれたレッドの急な覚醒についていけないウルウティアは警戒心を強く持つ。それはステラにとっても同じことで、意味不明なことに対する言動を持ち合わせていないために、レッドに忌避感を持っていた。
これは至極単純な話。ライトとレッドの内緒話しまで巻き戻る。
「──良いかレッド。アンデッドドラゴンは厳密にはドラゴンじゃない。ドラゴンのふりをした怨霊の集合体だ」
「……えぇ?ほ、本当ですか?……」
「ああ本当だ。その証拠にドラゴンと呼ばれる魔獣の中で最も弱い。アンデッド化する際、ドラゴンに憧れを持った怨霊がドラゴンの亡骸に引っ付いたに過ぎない……そうは言われてもすぐには追い付かないと思う。だから俺が最初に突っ掛ける。それで判断してくれ」
「……ライトさん……」
ただ少しの認識の違いからレッドはアンデッドドラゴンを倒すことに成功した。ライトが言い含めたことが見事に的中し、レッドの自信を舞い戻らせたのだ。
「もうアンデッドドラゴンなんて怖くないぞ!俺たちが相手になってやる!」
さっきまでの怯えはどこへやら、レッドから湧き出る謎の自信は勘違いから生まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます