59、邂逅
レッドたちはお昼を食べにお食事処「ワンニャー飯店」に立ち寄った。肉野菜炒めにパンと野菜スープが1組になったランチセットを2つ頼む。一息ついたところで店員が2人の前にランチセットを置いた。
「え?早っ……」
「おっつかれさまでした〜っ!冒険者の方々にお芋のサービスで〜す!」
「あ、どうも」
店の看板娘が小皿に盛り付けられた芋を手際よく配っている。眼の前に置かれた小皿には、よく煮込まれた茶色く変色している芋が湯気を出して美味しさをアピールしているように見えた。
「おい姉ちゃん!肉ぐらい出したらどうだ?!」
「これがドラゴン退治の礼か?俺達を舐めてんのかよぉ!」
せっかくのサービスに対して文句を言う口だけは一丁前のゴロツキ冒険者。出汁の味がしっかり利いて食べればホロホロと口でほどける美味しい芋だが、せっかく街を救ったサービスにしては原価が安すぎると不満が出たのだ。
実際は街の外に最終防衛ラインと称して惚けていただけの役立たずなのだが、こういう時だけ防衛の重要なポジションに食い込んでいたような顔で文句を言う。
「すいませ〜ん!あくまでサービスですので〜!でもすっごくおいし〜ので一度味わってみてくださ〜い!」
しかし看板娘も負けてはいない。軽く受け流してさっさと仕事に戻った。ゴロツキたちは舌打ちしながらも諦めて芋を酒の肴にしている。ゴネて役得を狙ったが上手くいかなかったようだ。
「……まったく……せっかくの好意を素直に受け取れないなんて性格の悪い奴らだなぁ……冒険者の風上にも置けない」
「ああ、その通りだな。よし、私が少しガツンといこう」
「あ、拳はダメだよ?オリーは比喩表現かどうか曖昧なとこあるからね。マジでガツンといかれたら追い出されるからね?」
「む……そうか、すまない。では今回は大人しくしておこう」
『え……本当に拳が出るところだったのですか?まぁでも冒険者たちはかなり荒っぽいですからね。注意したら逆ギレされるかもしれませんし、関わらないに越したことはないですよ』
喧嘩っ早かったり、喧嘩を
「ふふっ」
「どうしたレッド。今何か面白いことでもあったか?」
「え?いや……ふふっ、平和だなって思ってさ」
レッドは周りを見る。普通に喋って、普通に食事して、何事もなく楽しそうに過ごす人々。活気と喧騒がこの街に溢れている。2日連続で地竜に襲われそうになった街とは到底思えない。
(ディロンさんが居なければこの平和はあり得なかった。まったく凄い人だ)
レッドは鼻の下を人差し指でこすりながら感慨に浸る。ディロンは地帝との戦い後、すぐにギルドに入って
人々はディロンはきっと地竜を根絶やしに行ったのだと考えた。誰かが言った「これもうドラゴンバスターだろ」は瞬く間に浸透し、トルメルンの街では敬意を込めてディロンをドラゴンバスターと呼ぶようになる。
「さて。追加の芋のおかげでお腹もいい感じだし、運動がてらギルド会館にでも行きますか」
『え?今からダンジョンに潜るのですか?早いに越したことはないですが、先ほど地帝と戦ったというのに……』
「それが思ったほど疲れてないんだよ。なんでかな?」
「さすがレッドだ。精霊の王もレッドの前では形無しだな」
「ちょっ……それ褒めすぎだって〜。よし!ここはひとつ勢いに乗って魔獣討伐の
『賛成です!レッドの凄さを知らしめてやりましょう!……あっ!でも下手に
「ダンジョンってのはそんな単純なもんじゃない。魔獣がウヨウヨいて罠が張り巡らされ、歩くだけで命が脅かされる危険な場所。それがダンジョンなのさ。つまり何が言いたいのかというと、一朝一夕にダンジョンの最奥に到達することなんて出来ないってことだよ。魔獣を討伐しつつ下に降りる方法を探っていくんだ」
レッドは自慢するような口ぶりで鼻を鳴らす。
『とかなんとか言って〜、お墓も山の穴ぐらも軽く最下層まで行ってたじゃないですか。レッドなら日が傾かないうちに終わるのではありませんか〜?』
「墳墓はダンジョンの主のスケルトンキングを除いて弱いのばかりだっただろ。フレア高山は火竜に見つからないように隠れながら何とか進んでただけ。ウルレイシアが出てきた時はさすがに死んだって思ったけど、ノヴァを倒してたおかげで感謝されたから戦いにはならなかった。ほらな、全部運が絡んでる」
『それは運ではなくて、ただレッドが強かっただけで……』
「いいやミルレース。オリーと出会えたのも、こうして何事もなく旅をしていられるのも運の要素が大きいと俺は思ってる」
『……まぁ、オリーを引き合いに出されると何も言い返せないと言うか……』
「そうだろ?今後もその運が続くと思わず、地道に行くのが成功の鍵なのさ」
「おおっ素晴らしいことを言う。それはレッドが考えたのか?」
「あ、いや……本でチラッと見た言葉さ。でも戒めにはしてるかな〜って……」
「立派だ」
「えっと……うん。ありがとうオリー」
レッドは自己肯定感が上がるのを感じる。ディロンの件もそうだが、他人に認められることが人間社会においてどれほど大事なものなのかを改めて認識させられていた。
オリーの正体がレッドのことを無理くりにでも擁護する全肯定ゴーレムでも、その効果は絶大だ。
ライトが精霊を見るための努力を惜しまぬように、レッドも自身を見直し、自分を認めていく心の強さを無意識に身に着けようとしていた。
*
ギルド会館の掲示板に張り出された
レッドは感心しながら
「そんなに難しい依頼はないけど、魔獣討伐の
『もしかしてディロンって人が片っ端から持っていったのでは?ほら、お昼ご飯を食べずにダンジョンに入ったそうじゃないですか』
「言われてみれば掲示板の貼り方が妙な感じだ。まるで虫食いのような……」
「レッド、
『そんなのダメですよ!だったら何も
「何を言い出すんだもったいない。レッドに無駄働きさせるつもりか?」
『えー……じゃあこのビルドパイソンの脱皮した皮の採取とかパー……ん?パームン苔?の採取とか何でも良いですよ』
「それは
「それなら我が手伝ってやろうか?」
レッドたちは背後から掛けられた声にちょっと驚きながら振り向く。そこには胸板が厚く、あごヒゲをしっかりと蓄えた男が立っていた。
「あっ!グルガンさんじゃないですか。ご無沙汰してます!」
レッドはサッと振り返って頭を下げる。グルガンは目を見開き、少し困惑気味に質問する。
「……我を覚えていたか」
「あ、えっと……だって……」
レッドは頬をかきながら言いづらそうに張り付いた笑顔を見せる。その顔からグルガンも気付いた。
「そうか。我が断わった件を……」
『え?いったい何を断ったのですか?』
「うむ。少し前だが、我が一刃の風は貴君のチーム入りを拒んだ。あの時はビフレストから追い出されたことで色々噂が流れていて仲間にするにはリスクがあったが、今思えば愚かだったと反省している」
『へぇ〜……ん?』
「え?グルガンさんもしかしてミルレースが見えてます?」
「見えているぞ。当たり前だろう?」
『えーっ!!』
「えーっ!!」
あまりに自然な回答にレッドもミルレースも驚愕から声が出た。オリーは1人冷静にグルガンに返答する。
「当たり前ではないぞグルガン。レッド以外の人間が見えた例はない。一介の冒険者では無いな。何者だ?」
グルガンはレッド、ミルレース、オリーと順繰りに視線を交わし、最後にもう一度レッドを見ながらニヤリと笑った。
「ふっ……話ならダンジョンでも出来る。我が1つ
グルガンはおもむろに依頼書を取った。何が何だか分からないからこそレッドたちはグルガンの後についていった。
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