42、目標再確認
レッドはラボへと移動中、ふと見知った顔を見かけた。
「おっ、あれは風花の翡翠だ」
「風花の翡翠?」
オリーはレッドの視線から読み取ろうとキョロキョロするが、いったい何のことを言っているのかまでは分からなかった。
「……それはなんだ?」
「あれだよ」
指を差したそこには肩で風を切って歩く女性たちが居た。ミルレースは額に手を置いて遠くを見るようなジェスチャーをする。
『へぇ〜、あの方々は風花の翡翠と言うのですね。堂々としていて強そうな雰囲気を醸し出しています』
「ま、実際強いからな。ラッキーセブン同様に冒険者ギルドでは一目置かれたチームさ。ほら、墳墓の
レッドの解説を聞きつつ、オリーは何度か瞬きしながら彼女たちを見ていたが、すぐに視線を切ってレッドに顔を向ける。
「私にはラッキーセブンと風花の翡翠でどう違うのか分からないな?男性が1人、あとは女性。構成が一緒だ」
「確かに性別の違いはないけど、
風花の翡翠は一見すると女性だけで構成されたチームに見える。それというのもチーム内唯一の男性は女装しているからだ。彼は女性
「ああ、分かる。私は見た目だけじゃなく、魔力も判断材料にしているから全てを見て、感じて、総合的に判断しているんだ」
『はぇ〜……オリーって凄いのですね。私にはよく分からなかったですよ』
「オリーの能力は底なしか?見識が広すぎて俺が教える余地が無さそうなんだけど……」
「レッドの方が物知りだ。私はまだ生まれたばかりだからな。レッドの知識をたくさん教えて欲しい。私はレッドが居なければ何も出来ないのだ」
「オリー……」
その時レッドは勇者の作ったゴーレムを思い出していた。あのゴーレムは主人の墓を建ててなお、そのダンジョンに居着いていた。忠誠心。主人と共に生き、主人と共に死ぬ。
(ゴーレムもこんな風に勇者と旅がしたかっただろうな。ミルレースの復活を願っていた二人の思い……このままじゃダメだよな……)
レッドはのほほんと考えていた自分の考えに喝を入れる。ダンジョンの最奥に鎮座する皇魔貴族。あの魔族たちが持つ女神の欠片を全部手に入れて復活させることが最終目標だ。
(あ、そういえばフレア高山で倒した連中も皇魔貴族だったな……ダンジョンじゃなかったから気にしなかったけどあいつらは持ってたんだろうか……う〜んミルレースが皇魔貴族同様に欠片の位置を気配で察知出来るんなら、こうまで悩むこともないんだけどなぁ……)
『レッド?何を考えているのです?』
「ん?いや……今後のことをね……」
「ルーのラボに行くのだろう?」
「あ、やべっ」
レッドは足を早める。ルイベリアに言われていたことをすっかり忘れていた。急いでラボに行くと、ルイベリアは忙しなく動き回っている。
「どうもルーさん。何をしているんですか?」
「ああ、レッド。実は扉が壊されていてね。誰かに押入られたみたいなんだ」
「え?そうなんですか?実は俺たち先にラボに来てたんですけど、来た時から開いてましたよ?その前に入られたんですかね?」
「そうなのかい?いったい誰が……」
ルイベリアと一緒に考えていると『レッドレッド』とミルレースが声をかける。ルイベリアの前で答えるわけにはいかなかったので目で訴える。
『実はレッドが開けた時に鍵が壊れた音が鳴ってましたよ。もしかしたらですけど、レッドが鍵を破壊したのかもしれませんよ?』
「なんだって?!……っ!!」
「ん?どうしたの急に?」
「あ、その……すいません。俺が壊したかもしれないです……」
レッドは怒られるのを覚悟して項垂れながら謝った。ルイベリアは目をパチクリさせながら眉をハの字に曲げる。
「えぇ?……僕が丹精込めて作ったオリジナル合金”ルイベニウム”で作った頑丈な扉なのに?」
「ル、ルイベニウム?」
「うん。そこらの金属ならきみでも何とか出来るかもしれないけど、ルイベニウムは……ねぇ?それでも僕の自慢の金属を破壊したってのかい?」
ルイベリアは腕を組んで懐疑的にレッドを見ていたが、それにはオリーが答える。
「ああ、その通りだ。レッドの腕力は底なしだからな」
「ちょっ……オリー!恥ずかしいからやめてくれよ!あぁ、えっと……ルーさん。錠前を壊したのは謝ります。申し訳ございません」
バッと勢いよく頭を下げてとにかく謝罪する。ルイベリアは少し考えた後、やれやれと肩を竦めた。
「まぁいいさ。変なのに入られたなら警戒してたけど、きみらなら構わないよ。さ、とりあえず中に入って。……ほら、入った入った」
ルイベリアに背中を押されてラボに入る。さっきは気にせず入れたというのに、鍵を破壊してしまった罪悪感からか居心地が悪い。ルイベリアは「そんなの気にしない」と言ってくれたが、そんなはずはない。複雑な気持ちになりつつレッドとオリーは用意されたイスに座った。
ルイベリアはオリハルコンを手に、何かの機械を用意する。スイッチを押すと魔力が充填され、レーザーのような小さな光がオリハルコンを照射しながらくるくると回り出した。
「何この高純度……見た目だけとか、ちょっとだけ含まれてるとか、そんなちゃちなものじゃない。本物のオリハルコン……本当に取ってこれるなんて……」
「まぁ、その……一応最下層で取ってきたので……間違いないかと……」
「獄炎の門の最下層……最高難易度と言われるダンジョンを攻略したというのかい?にわかには信じがたいことだけど、オリハルコンを持ってきた事実は否定出来ない。オリーと一緒に攻略を?」
「いや、オリーは……」
『レッドレッド。あの出来事を説明しても理解出来ませんよ。一緒に攻略したことにしたらいいと思いますよ?』
ミルレースの発言にレッドは納得する。オリーに目だけで確認を取ると、オリーは一切の考慮なく頷いてくれた。
「……あ、えっと……そ、そうです。ドラゴンがいて大変でしたが、何とかやり過ごすことが出来たんです。2人なら何でも出来そうな気がします。な、オリー?」
オリーもニコッと微笑んで頷いた。ルイベリアには見えていないが、ミルレースも同時に頷いている。
「ふぅ〜ん、仲が良さそうで良いね〜。羨ましいなぁ〜、僕も混ぜて欲しいくらいさ」
レッドは顔を赤らめながら小さく笑う。そんな会話をしていると、オリハルコンの解析が終わったのか魔道具が停止した。
「ふぅ、ありがとう2人とも。お陰で僕の夢に100歩近付いたよ」
「そんなに……?」
「ふふっ、オリハルコンは最後の壁だったからね。手に入れられたこと自体がまさに奇跡という奴さ。さぁそれじゃゴーレムを作ってあげよう。どんなのが良い?どんな形状だろうと望むままさ」
「そのことなんですけど、ゴーレムはもういいです。オリーがいるので」
「は?じゃ、じゃあ何でオリハルコンを?オリーとダンジョンの攻略をしたのならその時点でいらなかったんじゃ……」
ルイベリアは頭をひねる。レッドはそれに対し今日一番の笑顔で答えた。
「これはお礼です。ルーさんのお陰でオリーと出会えた。獄炎の門に臨むことがなければ俺は……俺はオリーとは出会えてないので……」
「そっかー……え?でも死ぬかもしれないのにわざわざこのためだけにオリハルコンを?義理立てにしてはやりすぎと言うか……」
「もういいだろルー。こうしたいと思って行動したレッドの気持ちを無碍にするつもりか?」
オリーのしかめっ面にルイベリアは唇を尖らせ、頷きながらレッドを見た。
「そうか。まぁいいよ、別にオリハルコンさえ手に入れば文句はないしね」
オリハルコンを手に取り、ほくほくしているルイベリア。レッドもその様子にホッとする。ようやく
──ゴンゴンッ
ルイベリアのラボに誰か訪ねてきた。ルイベリアはせっかくの気分を害されたと一瞬苛立ったが、オリハルコンを持っているという現状が何もかもを吹き飛ばした。
「誰かな?せっかくこれからって時に……」
「俺が出ますよ」
レッドは進んで立ち上がる。自分で出ようと思っていたルイベリアが止めるより早くラボの扉を開けた。そこに立っていたのは魔導局の研究員テス=ラニウム。ルイベリアが出てくると思っていたのか、視線は下へ向いていたが、思った位置に顔がなかったことに若干驚きながら顔を上げた。そしてレッドの顔を見て後ずさる。
「レ、レッド……カーマイン?」
「テ、テス……さん?」
レッドももう合うことはないだろうと思っていた顔に驚いて後ずさる。2人の微妙な距離感がそのまま視覚的に表れていた。
テスは仕事をほっぽりだしてラボに行ったルイベリアへ流石に我慢の限界だと告げに来た。ルイベリアの職務怠慢を局長に告げ口し、厳罰を課すよう進言することも含めてだ。しかしいざ出て来た顔にテスは驚愕し、硬直を余儀なくされた。
レッド=カーマイン。フレア高山のダンジョン”獄炎の門”に行ったはずの最弱冒険者。もう死んでるはずの人間が立っていれば、驚いても無理はない。
「ああ、分かるよテス〜。さぁきみも座りなよ。必要なのは理解さ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます