●SIDE祐介
感情は錯綜としていた。
それぞれの心には秘密があり、そしてその秘密に翻弄されながらも、僕たちは日々を過ごしている。
僕、祐介はイベントプランナーとしての顔とは別に、もう一つの顔を持っている。
心の奥底に隠し続けてきた恋心がある。それは渉に対する恋心だ。世間では認められない関係だとは判っている。だが、僕は僕の心に正直でありたい。
地震による揺れが収まり、僕たちは高層ビルのエレベーター内で非常停止の状態にある。暗がりの中、わずかな照明が僕たちの不安に満ちた表情を照らす。僕は自分の内面と向き合いながら、他を気遣って声をかけた。
「みんな、まずは深呼吸しよう。大丈夫、すぐに救援が来るはずだから」
その言葉はそう、僕自身にも言い聞かせているものだ。
自分の気持ちを抑えるためにも、他人を励ますことで心を落ち着ける。
僕の目はふと、渉の方へ向かう。
彼は息を荒げながら僕に同意を示す。
「はぁ……はぁ……ですよね、祐介さん!」
僕は密かに胸を痛める。彼が魅力的でない瞬間はない。
僕はどうにかしてこの気持ちを押し隠し、自分がリーダーとして落ち着いていなければならないと自分自身を戒める。
その時、雅が控えめながらも心強い言葉を投げかける。
「間違いなく救われますわ。私たちだけじゃありませんもの」
そして、美月がちらっとこちらを見て言う。
「祐介さんがいればなんとかなる……かも」
この状況に対して、僕に抱かれる期待。
僕はさらにリーダーシップを取らなければと感じたけれど、心の中は渉のことで頭がいっぱいだった。そんな自分自身にも苛立ちを隠せない。
エレベーターが再び揺れると、渉はみんなの注目を美月の軽快な趣味に向け、緊張を和らげた。
「大丈夫ですよ、美月さん。君が教えてくれたダンス、ここでも役に立つかもしれないし」
それに応えて、彼女は過去を思い返しながらも話を弾ませる。
「ああ、返済しなきゃいけないものもあるし...ええ、そうですね、話しましょう」
しんとした静けさの中、エレベーターがさらに強く揺れた。
渉がパニックに陥ろうとする中、僕は冷静さを保とうとする。
「大きな声ではないけど、大丈夫、渉! 君の勇敢さにはいつも助けられているから、今度は僕が……」
雅もまた、勇気を出して言う。
「大丈夫、みなさん。愛する人のためにも、平静を保ちましょう」
愛する人。
その言葉がどれほど今の僕の心に突き刺さることだろうか。
美月が慌てる声で返す。
「愛する人……そうね、祐介さんや、みやびちゃん……」
この瞬間、僕は自分の心の中にある告白を抑えつつ、和やかな雰囲気を演出しようとする。
「さて、これからのことを考えるための良い機会かもしれないね。恋心、秘密...聞きたいことがあるだろう?」
渉は探究心をくすぐられるように提案する。
「いいですね! 秘密の交換ゲームは、どうですか? 始めましょう!」
雅は照れくさそうに応える。
「それは……ですけど、どうかな、美月ちゃん?」
美月は少し赤面しながら遊び心を見せる。
「あら、それじゃあ、私の失敗話から始めます?」
僕は心からの温かさで彼らに向けて言う。
「秘密はそれぞれある。みんな、普段は隠しているものなんだね」
僕たちは皆、見えない絆で結ばれている。
こんな時だからこそ、お互い心の支えになるべきだ。
渉が希望を抱きながら言った。
「そしてそれが、新しいスタートになるかもしれません」
この一連の出来事を通じて、僕は自分自身と正面から向き合い、秘めた感情を認める勇気を持つことができるかもしれないと感じていた。愛する人々が周りにいて、皆の支えを受けられることに感謝する。そう、彼らは僕の大切な人々だ。そして、心深くある渉への恋心。それを認める勇気が、いつ出てくるかはわからないが、今はただ皆と共にいることに感謝の気持ちを抱いている。
救助隊の声が届いて、最後には、みんなで助かった喜びを共有する。このエレベーターという小さな空間が、大きな絆を確かなものに変えたのだった。そして僕たちの間の秘密と恋心は、まだ語られぬまま希望に満ちた未来へと一歩を踏み出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます