第116話 ハクレイ裁判第二回公判:黙秘。ただ一つ言えること

 第二回公判で、原告側の意見陳述に立ったシュレムが、告発した。

「——我が政友、ユージンは、キーレ前国王暗殺の濡れ衣を着せられた挙句、大量破壊兵器の復活容疑まで掛けられ、無実の罪で処刑されたのです。すべては、ハクレイ元宰相の差し金。親友、ドベルト博士と共に企てた、国家転覆罪の容疑を、我々になすりつけたのです」

 法廷内に動揺が走る。「静粛に!」と裁判長が制止し、ハクレイに問う。

「被告人ハクレイに問います。これらは真実ですか?」

 沈黙するハクレイ。自身の手首を拘束する金具に目を落とす。鬱血して浮かび上がる赤色のそれに、あの夜のロゼッタの血を思い出す。

「……罪については、黙秘いたします。ただ、ひとつ言えることは……」

 ごくりと固唾を呑んで見届ける朱鷺ときを、ハクレイが見上げた。

「ただ一つ言えることは、セライは、私の子ではないということです」

 再び法廷内がざわついた。特別傍聴席に座るスザリノや安孫あそんにも、動揺が走る。

「セライが、宰相の子じゃない……?」

 この場にいない恋人の真実に、スザリノは絶句した。その隣で、エトリア王妃が娘の手を握る。

「お母さまっ……」

 今にも泣き出しそうなスザリノに、「それでも、セライが貴方を愛していることに変わりありませんよ」と優しく慰める。

「次回の公判では、その証拠をお見せしましょう」

 ハクレイが一点を見つめ、重たい言葉を放つ。裁判を傍聴していた新聞記者が、特大ニュースとして報道するため、足早に法廷を出て行った。こうして、徐々に追い詰められていくハクレイの、第二回公判は閉廷した。

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