第19話 見聞の機会

 王族特務課では、今日のスザリノ王女とザルガス王太子との見合いの準備の為、官吏らが慌ただしく動いていた。その中で、課長であるセライが机の引き出しを開けようとして、やめた。

「課長、親友の方が……」

「親友? 俺に親友など――」

 扉の前に立つ束帯姿の朱鷺を捉え、「はあ」と、セライが嫌悪の吐息を漏らした。

「――お帰り下さい。もう貴方と話す必要などないはずですよ?」

 見合いの準備に忙しく動きながら、セライが邪見に朱鷺ときをあしらう。それでも朱鷺は、

「左様に眉間に皺を寄せずとも、我らは唯一無二の月友つきともにございましょう?」と、どこまでもセライに付きまとう。

「お帰り下さい! わたくしは仕事の準備で忙しいのです! それから月友など、周囲に誤解を招く言い方はなさらぬように! わたくしは、貴方の親友になった覚えなどありませんので……!」

「おや、命からがら、暴漢の魔の手から、貴殿をお救いしたと言うに」

「変に脚色なさらないで下さい。命など、最初から賭けていないでしょう?」

「左様。命など賭けてはおりませぬ。されど、最初に賭け事を持ち掛けたは、貴殿。の勝負事に於いて、すざりの王女を賭けたは、貴殿にございましょう?」

 不敵に笑う朱鷺に、ぐっとセライは顔を顰めた。それでも的を射た発言に、「……それで、何の御用ですか?」と、ようやく聞く耳を持った。小さく朱鷺が笑う。

「本日、すざりの王女が、ざるがす王太子なる方と、見合いをなさると小耳に挟みまして。であらば、我らも文化交流で異郷の地より参じた者、月が世に於ける見合いなるものを、この目にて、しかと見聞しとうございましてなぁ?」

「つまり、今日の見合いに立ち会いたい、そういうことですか?」

「左様にございます。この地に着いて七日。未だれと言って、大した文化交流をしておりませぬでなぁ。……決して邪魔立ては致しませぬ。空気が如く佇んでおりまするゆえ、何卒我らちきうの民に、見聞の機会をお与え下され、せらい殿」

 懸命に願い出る朱鷺の姿に、セライは鼻息を吐いた。そうして同席許可証に承認印を押すと、それを朱鷺に渡した。喜び舞って帰る朱鷺の後ろ姿を見送る部下が、「よろしいのですか?」と、セライに訊ねた。

「よろしいも何も、如何なる手段を使ってでも立ち会うつもりだろう、あの地球人は」

 そう言って精神を安定させる為、セライはテラスで煙草を吹かせた。時間となり、茶色い格子柄のスーツの上着を手に取った。それは以前、スザリノから贈られたもので、セライにとって、特別な想いが詰まるものだった。引き出しから紺碧色の押し花を取り出した。想いが溢れるも、断ち切るように、それを屑箱に捨てた。

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