第20話 見合い
眩い昼の照明下、王宮の庭園に設けられた見合いの席に、エトリア王妃、スザリノ王女、ルクナン王女が並んで腰掛ける。その正面に、オルフェーン王家のドミノ王、その第一王子であるザルガス王太子(ルーアンが描いたような禍々しさはなく、爽やかな顔立ち)が腰掛けた。両家が揃ったところで、見合いの進行役であるセライが、テーブルの正面に立った。
「それではこれより、正統グレイスヒル王家第一王女、スザリノ殿下と、オルフェーン王家第一王子、ザルガス殿下の見合いを執り行います」
淡々と話すセライに、「それはそうと、あの者達は?」と、白髭を伸ばしたドミノ王が、遠く同じテーブル席に着く、
「我々のことはお気になさらず。ただのちきうよりの視察団にございますれば」と、正装を身に纏う朱鷺が、笑って空気感を漂わせる。
「ほう、あれが地球人か。思いの外、綺麗な顔立ちをしておるなぁ」
「お褒めにあずかり光栄にございまする、王陛下」
胸に手を寄せ、紳士的な振る舞いを見せる朱鷺に、「ウウン」とセライが咳払いし、進行を再開させた。
「ではここで、ザルガス殿下のお人柄について、僭越ながら、わたくしからお話しさせて頂きます。オルフェーン王家の第一王子としてお生まれになられたザルガス殿下は、幼少の頃よりその英知を養われ、名門オルトワーズ大学を主席にてご卒業後、王族として社会福祉や子育て、医療など、多くの問題に取り組まれてこられた実績がございます。ご趣味と致しましては、乗馬、料理、フェンシング、射撃、ボルダリングなど、多岐に渡って、幅広いご趣味をお持ちにございます」
「ふぇんしんぐ、ぼるだりんぐ、とな?」
「恐らくは、剣突きと壁登りの類かと」
こそっと
「何やら、蜘蛛が如き御方にございまするな」
頭に蜘蛛が思い浮かぶ
「それでは次に、スザリノ殿下のお人柄に付きまして、わたくしからお話しさせて頂きます」
そう進めて、セライが予め用意しておいたスザリノの身上書を開いた。そこに並ぶ文字に、唾を飲み込む。同時に、初めてスザリノと出会った日の場面が蘇った――。
四歳のセライが、父に連れられ、国王との間に王女を儲けた第二王妃に、祝いの品を献上しに自室へと上がった。そこでベビーベッドで眠る、生まれたばかりの王女――スザリノとの初対面に、思わずセライは息を呑んだ。触れようとするも、父の手前出来ず、それから数年経って、成長したスザリノの守役として、常に傍にいる日々が続いた。
「――セライ?」
王妃に声を掛けられ、そこで我に返った。
「申し訳ございませんっ……、スザリノ殿下に付きましては、そのお人柄優れ、誰に対してもお優しく、非の打ちどころのない王女殿下にございます」
口早に話すセライに、「内容が薄いのう」と、朱鷺が小声で言う。
ぐっと喉の奥を鳴らし、息を整えたセライは、気を取り直して進行を続けた。そんなセライの声を、スザリノは俯き加減に聞いている。
「――それでは次に、ご成婚に付きましてザルガス殿下より、スザリノ殿下へ、そのお気持ちをお伝え下さいませ」
「はい。私、オルフェーン王家第一王子ザルガスは、かねてよりスザリノ王女への並々ならぬ愛情を募らせて参りました。同じ月の王家として、私以上にスザリノ王女を愛し、生涯我が身に懸けてお護りしたいと願う王子はおりませぬでしょう。それも私のように顔も良く、頭も冴えるスパダリ王太子が――」
ああだこうだと自慢が始まり、「とんだ自惚れですなぁ」と、水影が呆れた。
「ふむ……」
朱鷺が、目を伏せるセライに目を向けた。
セライの脳裏に、幼い頃にスザリノと遊んだ花畑での記憶が蘇る――。
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