第4話 羽衣伝説
「なぁに、それ?」
「天女中よ、良う訊ねたのう」
朱鷺は起き上がると、その絵巻を手に取り、物語の要である女人の画を見せた。
「これは羽衣伝説を描いた絵巻よ。ここに描かれておる女人が天女。見目麗しく、とてもこの世の者とは思えぬ絶世の美女よ。俺はこの絵巻を見て、天女への憧憬を深めていったのだ」
「へえ、アンタのことはどうでもいいけど、この羽衣伝説って、一体どんな話なの?」
「
「悲恋なの? それ」
「何を申すか! 悲恋以外の何物でもなかろうが!」
「でもそれって男のエゴじゃない! 一目惚れした相手を家に帰すまいと、天女の大事なものを奪うなんて、月の世界じゃ立派な犯罪なんだから! 天女が未成年だったら未成年略取、並びに監禁罪、更に子供を産ませたのなら暴行罪も適用されるわよ!」
「ええい! 真小賢しい女中だな、そなたは! 羽衣伝説に於ける男の罪状など
「ああ、そうだったわね……」
「そして天女中、そなたは俺の長年の夢を叶えんが為の援者。一度取り決めた約束、そう簡単に
「はあ、早く地球に帰ってくれないかしら……」
そう背中を向けて溜息を吐いたルーアンを気に留めることなく、朱鷺は絵巻の中の天女に惚けた。
「ようやく我が悲願が達成される時が訪れたのだ。麗しき天女らよ、この手にて……」
突然、朱鷺の言葉が途絶えた。
「どーしたのよ?」
振り返ったルーアンと、絵巻の中の天女を見比べる朱鷺。手に持つ絵巻がプルプルと震え出した。
「ちょ、何よ! 怖いんだけど!」
「……
「は? 何が違うの?」
「天女とそなたらの装束が全く違うではないかー!」
「……は?」
すぐそこに朱鷺がいるものの、心では百歩程引いた所から出た声だった。
「――しるくどれす、とな?」
「そう。私達メイド……女中が着ているのはメイド服だけど、王妃や王女、女官が着ているのはシルクドレス。簡易的なものから正装まで種類はたくさんあるけど、みんなツルツル、キラキラした服を着ているでしょ?」
王宮の柱の陰から、行き交う人々を観察する朱鷺に、ルーアンが教える。
「ほう。確かに光沢ある装束よ。宴の折に我らが着たすうつと釣り合いが取れておるが、俺は絵巻にあるが如き羽衣装束の方が、そそられるのだがなぁ」
「この時代、誰もあんなダッサイ服なんて着ないと思うけど?」
「まただっさいか。月が民のだっさいには骨が折れるのう……。されど、価値観は人それぞれゆえな。自発的にあちらから着たいと思わせるには、
思案するも良い策が思い浮かばず、「あああ!」と朱鷺が苛立つ。
「斯様な時は、
そう言って、朱鷺がその場から立ち去っていった。その後ろ姿をルーアンは鼻息を漏らし、見送った。
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