第24話「勉強頑張るためには、ご褒美が大事だと思うの!」

【ミスマーガレットコンテスト】

私立山手清花学院におけるミスコンテスト。

毎年九月に行われる学園祭内のイベントとして開催されている。

ミスマーガレットは高等部三年の生徒から一名選出される。

立候補するための条件として、学年成績30位以内が第一関門とされているが、実際にミスマーガレットに選ばれる者は毎年学年成績10位以内である。したがって、優勝を狙うならば更にたゆまぬ努力を要する。

優勝者の決定方法はポイント式になっている。『学業成績による基礎点』、『普段の素行に対する減点』を計算し、更に『在籍生徒からの人気投票での加点』で決まる。

『成績点』と『素行点』の配点が高く設定されているため、どんなに人気者であっても実力が伴わなければ優勝は難しいだろう。

見事優勝しミスマーガレットの地位を手に入れた者には、山手清花と提携している大学の中から好きな大学へ推薦・特待生として進学できる権利が与えられる。

たとえ優勝できなくとも優秀な成績を収めれば進学では有利になるため、自己研鑽の目標として一旦ミスマーガレットを目指して勉学に励む生徒も少なからず存在する。


***


 朝の作戦会議と勉強スケジュールの組み立てを終えた俺たちはそれぞれの教室へと戻っていった。

 自分の席につくと、隣であくびをする茨咲さんが目に入った。


「茨咲さん、おはよ」

「……おはよ~……」


 眠そうだがこれが彼女の通常運転なので会話を続けることにした。


「昨日動画見たよ、夜行性のねむねむさん」

「あ? そうなの? よく見つけたね~」

「たまたまおすすめで表示されてさ」

「普段から美容系ばっか見てんだな?」

「まあね。スキンケア俺も好きなんだよ、今度茨咲さんと語りたいと思って」

「動画見ればいいじゃん、ついでに再生回数も回しといて。あと広告はスキップするなよ」

「つ、つれねぇ……」


 思った以上の塩対応にちょっと怖気づく。動画クリエイター的にはその方が嬉しいんだろうか……。


「あたしの貴重な睡眠邪魔したいんだったらテストであたしに勝つこと! オーケー?」

「オーケー。いい夢を」


 俺は寝不足の茨咲さんをしばらく寝かせておいてあげることにした。


 茨咲さんは意図的にテストの点数を70点に調整している。そこにどんな目的があるかまでは分からないが、俺が茨咲さんとまともに会話するにはその70点の壁を突破するしかない。

 ミスコン優勝を狙うなら最終的には全教科90点以上は要求される。最初のステップとして打倒茨咲さんを目標にするのは悪くないだろう。……それに、彼女が何か悩みを抱えているように見えたから……話が聞きたいのだ。


 勉強会を始めてから数ヶ月、少しずつ変わってきたことがある。

 しっかり予習をしてから授業に挑むと理解しやすく、先生の説明に置いていかれることが減ってきた。当たり前のことかもしれないけれど、そういった変化が大事なのだと思う。勉強に対して当事者意識をもって主体的に取り組み、課題を見つけて解決を試みる。その繰り返しだ。


「このページ、畔は満点だね」


 放課後の勉強会で、聖海ちゃんがそう言って褒めてくれた。


「ほ、畔くんすごいっ、見開き2ページ全問正解なんて!」


 小桃ちゃんも羨望の眼差しで言う。


「まあ国語は得意な方だから……でも嬉しいな!」

「これなら国語で80点も夢じゃないかもね。引き続き頑張って」

「聖海ちゃんにそう言ってもらえると自信出てくるよ」


 聖海ちゃんは数拍考え事をした。


「……畔、親沢さんに国語の問題教えてあげたら?」

「えっ! 聖海ちゃんがこの勉強会の先生なのに、俺で務まる?」

「できる人が教えてるだけだから。畔も先生役やってみたら? 自分の理解も深まると思う」

「確かに。小桃ちゃん、それでいい?」


 俺が訊ねると、小桃ちゃんはこくこくと頷く。


「う、うんっ、ぜひ。よろしくお願いします、畔先生!」

「おっけー。じゃあまずこの問題は……」


 そうして放課後の勉強会の時間は過ぎていった。




 そろそろ閉門の時間ということで放課後の勉強会はお開きになった。今日は買い出しをして帰るから、と聖海ちゃんが一足先に帰っていったので、俺は小桃ちゃんと二人で帰り支度を済ませて下駄箱を通過した。


「わ、雨だ」


 さっきまでは曇り空だったのに、ちょうどタイミング悪く雨がぱらぱらと降ってきた。


「小桃ちゃん、傘持ってる?」

「……も、持ってない」


 小桃ちゃんは上目遣いにこちらを見る。俺の手には雨傘があった。


「じゃあ、はい」


 ということで俺は、傘――鞄の中に持ってきていた折りたたみの傘を差し出した。


「えっ?」

「貸してあげる。使って」

「う、うん……ありがと……」


 小桃ちゃんは少ししょんぼりしながら折りたたみ傘を受け取った。


「帰ろっか」


 俺が先に歩き出せば、小桃ちゃんも傘を開いて後ろに続く。


「この傘かわいいね。リボンとパールの柄なんだ」

「そう、俺の好きなブランドが傘屋とコラボしたときに発売されたやつ! かわいいだけじゃなくて機能性もばっちりなんだ」

「フリルもついててすごい豪華……これ、まだ売ってるのかな?」

「通販瞬殺だったからもうないかな……」

「わ、わぁ。畔くん通販戦争に勝ったんだね」

「またコラボするかもしれないから、そのときはすぐ教える!」


 よかった、自然に話せている。傘のこと、服のこと、クラスでの出来事、勉強のこと。他愛もない話をして駅まで着いた。


「その傘今日は貸しとくから。また今度乾かして持ってきてくれる?」

「うん、ありがと」


 改札を通れば反対方面の俺たちはそこで解散だ。


「じゃあ今日はおつかれ。また明日……」


 手を振ってそこで別れようとした。

 すると小桃ちゃんは突然、俺の服の裾を引っ張った。


「お? どうした?」

「あ、えーっと、えーっと……」


 俯いた小桃ちゃんはもじもじしている。


「えっと、あのね! 勉強頑張るためには、ご褒美が大事だと思うの!」

「うん? 確かにそういうモチベを作るのは大事かもだな」


 小桃ちゃんは決心したように俺を見上げる。


「だからねっ、あのね……。次のテストの目標達成したら、私とデ……じゃなくて、お出かけしてくれる?」


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