第68話 ルチアの危機


 んん~!


 あれ?

 何で私ベッドに寝てるの?

 確か……ええと? 会場でミミィさんと話して……ん~?


 何も思い出せない。


『ルチィ、目が覚めたかの?』

「あっ?! シェラ様!」


 良く見ると、シェラ様がベッドの枕元に座り、目が覚めた私の頭を優しく撫でてくれる。

 ふわりと触れる手が、とても心地良い……。


「あの……私……? どうしてベッドに? 何故か記憶が無くて……そのぅ」

『ルチィはの? お酒を飲んで目を回して倒れたのだ。何も覚えておらんのか? そのう……ギュー……とか』


 シェラ様が少し恥ずかしそうにギューッ? と話す。


「ギュー? うーん分からないや……」

『なっ……!? そっ、そうか……喉が渇いてるであろ? 水を貰ってくる』


 シェラ様は何故かショボンとして、水を貰いに行ってくれた。

 ギューって何なの!? 私……酔っ払って何かしでかしちゃったのかな︎?


「やっと一人になったな! 竜王の大切な番よ!」


「えっ?」


 私が一人悶々としてたら、突然目の前に黒装束の男達が現れた!


「魔力封じ! 変身!」


 すると男達は魔道具らしきなにかを私の腕にガチャりと付けた。

 

「えっ!? なにを付けっ?」


 次の瞬間……私はウサギになっていた。


「キュウ!? キュ!」


 ちょっと待って! 言葉も話せない!


 黒装束の男達は、ウサギになった私を小さな檻に入れると、大急ぎで部屋の窓から飛びおりた。


 ちょっと待って! 私何処に連れて行かれるの! 嫌だ怖い。


「キュウ! キュ…!!」


 必死に叫ぶも言葉が話せない!


 黒装束の男達が、嫌な笑みを浮かべ饒舌に話しだす。


「ククッ 我が国を滅ぼした竜王に仕返しする時が来た! この番が死ねば、竜王はどんな顔をするだろうな? グハハハッ想像するだけで楽しみだな!」



「ギャハハッ」



 この人達はさっきから何を楽しそうに話してるの?


 我が国を滅ぼした?! ……ってもしかして、この黒装束の人達はエレヴァン王国の人?


 だとしたら……狂ってる。私を殺してシェラ様が苦しむ所が見たいなんて!

 絶対に許せない!


 こんな奴らの思い通りになってたまるか!

 絶対に私は死なない。シェラ様を悲しませる事なんて絶対にしない!


 どれくらい走ったのだろう……黒装束の男達が私を小屋に閉じ込めた。


「この小屋はな? 魔力封じが施されてるから魔法は使えないからな! 大人しくしてろよ」


 私はほったて小屋の中に、檻に入ったまま入れられた。

 小屋も檻も厳重に魔力封じが施されてる。

 ここは一体何処なのか、多分……獣人国内だと思うんだけど。

 移動中、檻に布が被せられていたので、全くわからない


 私を小屋に閉じ込めると、男達は何処かに行った。


 逃げるなら今がチャンスだ。うーん? どーやって逃げようかな。


 ーーねぇねぇ?

 ーーウサギさんはルチィ?

 ーールチィ?ー


 妖精さんがいた! もしかして付いてきてくれたの?

 そうだよ! ルチィだよ! 何で分かるの?


 ーールチィベッドで寝てた

 ーー変な人族いたー心配。

 ーー男が入ってきたらーウサギになった。

 ーー心配ーついてきたー

 ーールチィ心配ーウサギー


 話を聴くと……どうやら妖精さん達は、私を心配して後をついて来てくれたらしい。ありがとう!


「キュウウ」


 ーーふふーだってルチィ好きー

 ーー心配ールチィ守るー

 ーー大切ー


 妖精さんありがとう!

 私は優しい妖精さん達に、どうにかココから脱出出来ないかと相談する。


「キュキュキュウン、キュウキュウ!」

(あのね? この檻が魔力封じになっていて、魔法が使えないの。どうにか檻を開ける事出来ないかな?)


 ーーんー魔法ダメー?

 ーー檻を開けるー力持ち?

 ーー力持ち壊す!

 ーーわかたー力持ち連れてくるー


 キュウキュウしか言えてないのに、妖精さんには私の言ってることが通じているみたい。


 えっ? 力持ちって︎?


 妖精さん達は力持ちを探しに行くと、何処かに飛んで行ってしまった。

 ……妖精さん? 戻って来てくれるよね? 


 ドキドキしながら待っていると、三十分くらいして妖精さん達が戻って来た。良かったー!


 ーー力持ち居たよー

 ーー連れてきたー


 力持ち連れて来たって? どー言う意味?


 次の瞬間、小屋の扉が壊された。


「キュ!?」


 驚き前を見ると、目の前には青くて三メートルはゆうにある大きな体をした一つ目の魔人がいた。


「キュウー!」


 ーールチィ大丈夫!

 ーーひとつ目くんー仲良しー

 ーー悪い事しないー良い子ー

 ーーひとつ目くん檻を壊してー


 妖精さん達が一つ目の魔人はいい子と言う。


 本当に? 見た目は凄く怖いよ?


 バキバキッ!!


 一つ目の魔人が小屋を殴って壊していく。


 バキバキッ!!


 さらには私を囲っていた檻も手で簡単に引きちぎった。一つ目の魔人さん力持ち過ぎる! 何だか獣王様みたい。


 魔力封じの小屋から脱出し、その後どうして良いか分からず飛び回る私……。


 ぴょんぴょん。

 ぴょん。ぴょん。


 ウサギ姿では動き辛い。


 困っていると、一つ目の魔人が私を肩に乗せてくれた。


「キュッ! キュウウ(ありがとう。一つ目君)」


 必死にお礼を言うと、頭をポリポリ掻きながら大きな目が優しく笑う。


 見た目は怖いけど、妖精さんの言う通り、優しい魔人さんなんだ。


 ーールチィー何処行く? ーどこー!ー


 「キュウウ!」

 (もちろんシェラ様の所へ!)


 ーーわかたー

 ーーひとつ目君急げーシェラのとこー

 ーー案内するー!



 ★★★



【その頃獣人国】


『ルチィが急に消えたのだ! ルチィの魔力が何処にもない。感じ取る事が出来ない! あの一瞬で何が起こったんだ!」


 ーーいつもならルチィの魔力と繋がっているのに。繋がらない。こんな事初めてだ!


 ーー意味が分からない。この世界からルチィが消えたみたいだ。


 精霊王である白と黒も動揺が隠しきれない。


『この世界からルチィが消えただと? そんな事ありえぬ! 俺とルチィは番の契りを交わした。この世界に居ないのなら……我は番を失った喪失感がくるはずだ! そんなのはまだない!』


 竜王シェラたちがルチアがいなくなった部屋で慌てていると。


「ククッ! その通りだよ!」


 ーー何だお前達は!


 突然黒装束の男達が現れた。


 竜王シェラ達は焦っていて、男達に全く気付かなかった。


「俺達か? お前達が滅ぼしたエレヴァン王国の者だよ! 殺し逃したな!」


『何だと? それが何用じゃ? 我はお前達を相手にしてる時間はない!』


 シェラがエレヴァンの間者達を魔法で滅ぼそうとしたその時!


「おいおい? お前達の大事な愛し子はな! 俺達が預かってる。今俺達を殺すと、もう二度と一生会えないぜ? 可愛い愛し子にな!」



 ーーなっ何だって︎!?

 ーーお前ら何がしたいんだよ?


 白と黒はエレヴァン王国の間者の者たちを睨みつけた。


「お前達の大切な愛し子はな? 魔力封じをして俺達が閉じ込めている。もし、俺達に何かあれば誰にも見つけて貰えずにのたれ死ぬだろーな!」


『なっ? ルチィを殺すだと?』


「おいおい竜王よ! 俺達はなお前に死んで欲しいんだよ!」


 ーーなっ何を言ってんだよ! シェラに死んで欲しいとか!


 白が慌てて言葉を遮る。


「いいか? 竜王よ? お前が今すぐに死んでくれたら、愛し子は返してやろう。死なないのであれば愛し子を殺すまでだ! さぁどーする竜王よ?」


『我が死ねばルチィを助けてくれるのだな? なら我は死を受け入れよう』


 ーーシェラ! 待てよ。死ぬって


 死ねとの言葉をすんなりと受け入れたシェラを白がとめる。


『我は……ルチィと出会うまでは、死んで居たも同然だった。ルチィと出会え、我は本当の幸せを知ったのだ。苦しいも、愛しいも、切ないも、全てルチィが我に教えてくれた。ルチィが死ぬなんて……この世界から居なくなるなんて、我には考えられぬ! 我の命でルチィの命が助かるなら、喜んでこの命捧げようぞ』


 ーーお前が死んでしまったら残されたルチィはどーなるんだよ!


 黒が悲痛な声で叫ぶ。


『でも我は……ルチィを死なせたくない!』


 シェラ達の会話を嫌らしく笑いながら見ているエレヴァン王国の間者たち。


「おい? 考えはまとまったか? 死ぬ準備はできたか?」


『我が死ねば……本当にルチィを返してくれると約束するのだな?』


「まあ。そうだな」


 エレヴァン王国の間者たちがニヤニヤと厭らしく笑う。


『約束を破るでないぞ、ウソだった場合? 我は死んでも其方達を殺しに行く』


 龍王シェラの恐ろしい殺気がエレヴァンの間者達に届く。


「ヒッ!」


「わっ……分かったよ」

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