最期の力

先輩の腕時計は4:44分で止まっている。「あれぇさっきまで4時30分だったのに」という先輩を横目に俺たちはもう助かるんだと笑っていた。「カーン」あたりに音が鳴り響く。「カーンカーンカーン」血の気が引いていく感覚がした。空中にあのだるま落としのダルマが浮いていた。「ぼじょぼじょ」と赤黒い血が降ってきた。「お約束とぉ違うんですけどー。普通助かる流れー。もう命日―」そう泣く彼女は帽子を深くかぶると空中にいるダルマの元に走っていく。空中を走り、螺旋状に宙を舞った。「もう死んでぇぇ」そう言い蹴った。「カーン」とこだまする。彼女は四肢がもげた。「クソッ」久能はビー玉を勢い良く投げた。「カーン」俺の目の前は赤く染まる。「まただ、また、まただぁ」志村が叫ぶ。「カーン」気づくと当たりは血だまりになっていた。師匠と久保、戸田、柊、氷川は立っていた。先輩や俺、草川、安西、白倉、天田、宗意、甘楽儀、美羽、寄主などは俺のように片足が宙に舞う者、先輩のように腕が宙を切る者、草川のように四肢が宙を舞う者、なかには天田のように上半身が宙を舞う者や美羽のように頭が空を切る者もいた。薄れゆく記憶のまま俺は祈っていた。「みんなぁ助かってくれ」と。

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