第25話 迎撃準備
「マルグリット生徒会長様。実はお願いがございます。」
「えぇ。分かっています。ダラス様の死因について公表し、マリーベル様の悪事を暴くのですね?」
うんうん。この人はクラリッサと違って多少使えるわね。
「この事はまだ公表を差し控えて頂きたいのです。」
「え?」
「然るべき時に公表する事で、言い逃れを防ぐ為ですわ。」
「分かりました。メルトリア様にお任せいたします。」
「ありがとうございますわ。」
あまりにも早いタイミングでマリーベルを追い詰めると、無能王子を追い落とすには色々と足りない状況になってしまう。
私が無能王子に婚約破棄を突き付けられ、マリーベルと無能王子が婚約を発表してから追い詰めてやるのが最良。
それに向けての作戦を恐らくはユリウス殿下が考えて下さっているはず。
シナリオから外れたとはいえ、年間行事やら基本的なキャラの性格は変わらない。となれば、ある程度はゲームシナリオ通りになる部分もあるという事だ。
「事実を公表する時にはマルグリット生徒会長様にも協力して頂きますので。」
「えぇ。勿論です。」
上手いこと約束を取り付けた私は、生徒会室を出て休憩室へと向かった。
この学園ではあちこちに休憩出来る場所が配置されており、これも貴族に対しての配慮だという事がうかがえる。
「貴族令嬢って疲れるわ……。」
この時間の休憩室はそれなりに人で賑わっている。私はその一角でひっそりと愚痴をこぼした。
「メルトリア嬢。少し良いだろうか?」
「はい。勿論ですわ。」
ユリウス殿下が話しかけてきた。もしかして今の聞かれちゃったかしら?
「疲れているのか?」
「えぇ……あの、今のは聞かなかった事に。」
「俺だって王子だなどと言われ、疲れている時はあるから気持ちは分かるさ。」
なんて良い子なんだろう。お姉さんが色々と教えてあげたい。
どっかの無能王子とは天と地の差だ。
「ところでだな。最近、その……。兄上とは……。」
「ユリウス殿下の耳にも入ってらっしゃったのですね。」
「すまない。」
「おやめ下さい。ユリウス殿下が謝る必要はございません。」
「しかしだな。」
「良いのです。きっと、私の力が足りなかったのでしょう。」
私はさも辛いわと言った風にほろりと涙を見せる。
「メルトリア嬢。俺を……俺を信じてくれないか?」
「え?」
「もしかしたら貴女には更に辛い思いをさせてしまうかもしれない。だが、絶対に悪いようにはしない。」
「殿下?」
ふふっ。大体何をするのか見当はつくけど、ここは分からないフリをして殿方を立てて差し上げましょう。
「辛い状況はいつまでも続かないとだけ覚えておいてくれれば良い。」
「……気を遣わせてしまいましたね。でも大丈夫ですわ。私、こう見えても強いんですのよ?」
健気な笑顔で、少し震えて見せてっ……と。
「貴女は強い女性だ。しかし同時に傷付いてもいる。無理はしないで欲しい。今の俺に言えるのはそれだけだ。」
「ありがとうございますわ。」
「ではな。」
「はい。」
ユリウス殿下が何かを決意した表情で去って行く。
本当に婚約破棄という作戦を進めて良いものか私を見て判断しようという事ね。
「ふふっ。助かるわ。私が手を下さずとも、勝手にあちらを失脚させる為に動いて下さるんですものね。」
これなら私がマリーベルや無能王子を追い落とそうとしているだなんて誰も気付かない。
マリーベルという分かり易い悪が存在するお蔭で、周囲からもユリウス殿下が大変な思いをして私を救おうとしているようにしか見えないはずよね?
「メルトリア。」
「はい。どうなさいましたか?」
教室で次の授業の準備をしていると、無能王子とマリーベルが話しかけてきた。
クラスも違うってのにわざわざご苦労な事で。
「もうすぐ三年生の卒業パーティーがあるだろ。今年は俺が在校生を代表して挨拶をするのだから、当然お前にも婚約者として出席してもらう。」
「はい。それは勿論ですわ。」
ふむふむ。案外真面目な話だったわね。しょうもない言い掛かりでもつけてくるのかと身構えちゃったわ。
サンライズ学園では毎年卒業パーティーが開かれる。
その際在校生代表が一人で挨拶をするのだけど、今年は無能王子が代表の挨拶をする為婚約者の私も出席しなければならないというわけだ。
ゲームシナリオ通りね。
「ところで、お前は俺に言うべき事があるはずだよな?」
「えっと……。」
うわっ。やっぱ言い掛かりつけてきやがった。
しかも言うべき事って何よ。詳細も話さず勝手に怒ってるとか……察してちゃんかよ。無能は話の持って行き方まで無能なんでしょうね。
「分からないならもっと考える事だな。」
「メルトリア様は少しおっとりしていらっしゃるから仕方ないですわ。」
はいはい。めんどいめんどい。
こいつらって本当に面倒くさい二人よね。私なんかほっといて勝手にイチャついて馬鹿と無能を周囲に喧伝しておけばいいものを。
「その点に関しましてもう少し考えてみたいと思いますわ。」
「あまり時間がないのではなくて? あまりにも遅いと婚約破棄なんて事もあり得ますわよ?」
うるさいなぁ。
こっちはその婚約破棄を待っているんだっつーの。
「ふん。その足りない頭で考えておけ。」
「早くしないと貴女は終わりですわよ? ではご機嫌よう。」
捨て台詞を残して去って行く二人。多少は人の目もあるってのに、よくもまああんな台詞が吐けるものだ。
後、頭が足りてないのはあんたの方よ馬鹿男。
「ちょっとメルトリア。あんなに言わせておいて良いの?」
ローズマリーが心配して話しかけてくれる。
「良いわよ。ローズマリーは余計な事しないでね? 貴女ってすぐに言い返そうとするから心配だわ。」
「私だってシュナイザー殿下を相手に言い返したりなんてしないわよ。せいぜい気付かれない程度の皮肉を言うくらいかしら?」
「危ないからやめておきなさい。」
「はいはい。メルトリアはちょっとくらい言い返しても良いのに。」
「あのくらいなら大丈夫よ。」
「でも腹は立つでしょ?」
「まぁね。」
どうせそのうち二度と口が開けなくなるのだから問題はない。
「これも作戦のうち?」
「えぇ。その一部よ。」
こうして不仲っぽいところを周囲に見せつけ、そして私には明らかに非が無いであろう事を学園中の人間に証人になってもらう。
「メルトリアの作戦って本当に大丈夫なの? ただ単に婚約破棄されそうなだけにしか見えないけど。」
「大丈夫。ちゃんと順調だから。」
「本当かしら? あ、後三年生の卒業パーティーには私とテレーゼも出席するから、何かあったら助けを求めなさいよ?」
「ありがとう。」
「いえいえ。」
テレーゼとローズマリーの実家は四大貴族。学年などは関係なく、来賓枠として出席する事が決定づけられている。
「味方が会場にいるのは心強いわね。」
「でしょ?」
「一応それとなくフォローをお願いするわ。」
「任せておいて。」
とっても心強い。聡い貴族令嬢が二人も味方にいる上に、こちらの準備は既に整っている。
100%とまでは言えないけど、恐らく卒業パーティーで無能王子とマリーベルは仕掛けてくるはずだ。
そこを逆手にとってカウンターを決めてやれば……。
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