静寂と色彩のアリア 

かみさん

静寂の歌 色彩の情景

プロローグ

第1話 森に煌めく序曲




 音楽とは?


 その疑問に、なんの答えを見出せるだろうか?


 劇場に響く歌声?

 胸に刺さるハーモニー?


 人の耳から伝い、心へ響かせる——そんな音の連なり。

 ほとんどの人が、それを音楽というのだろう。


 なら……これは?

 これは、音楽といえるのだろうか?


 歌は無い。

 曲も無い。


 なのに、今までの……これまでのどの音楽も、目の前の歌声を越えるものはない。

 そう、心に刻み込まれた。


 赤いトカゲが地を這い。

 青い人魚が空を泳ぎ。

 黄色い小人が騒ぎ。

 緑の妖精が宙を舞う。


 この歌声は視覚でしか感じることが出来なかった。

 だから、この耳を……心を震わせている音色はきっと錯覚なのだろう。


 胸を突き、心を震わせる。

 だからこそ、この光景は音楽なのだ。

 そう、心は決定づけていた。


 心のままに、導かれるように。

 蒼穹キャンバスに描かれた無限の色彩に魅入られ、心を奪われた。


 そんな時だ。


 ————パキッ……


 踏み抜いた枝の音が雑音ノイズとなって混ざり合う。

 無音の歌声が止まり、怯えたような視線が震えていた心を射抜いた。


「あっ、申し訳ない。余りに綺麗だったから……」


 出てきたのはなんてことない——ただの言い訳。

 でも、その言葉が……彼女との出会い。


 そして、それこそが。


 ————この物語音楽の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る