1-5 検証開始
アルカスが追放されたが時は待ってくれない。
幼女は暢気なものだが、周辺の安全は全然確保できていないのだ。
≪ニーテスト:賢者召喚についての相談を続けよう≫
≪ネムネム:スーパードゥラーイ(;’∀’)苦い!≫
≪ニーテスト:サバイバーに聞きたいんだが、賢者召喚された状態で自分のウインドウでミニャの生放送は見られるか?≫
≪サバイバー:いや、見られないね。俺のウインドウにある『生放送』のメニューは俺自身の生放送の設定変更ができるだけで、閲覧機能はなさそうだよ。あと自分の生放送をオフにする機能もない。ちなみに、ミニャちゃんは俺の生放送を見られるみたいだね≫
サバイバーはミニャのウインドウを一緒に調べて、自分の生放送が表示されたことを確認した。
ミニャは、サバイバーが自分を見るたびにウインドウに自分の姿が映るので、ブンブンと手を振って大興奮。もはやアルカスの存在は忘れている様子。
≪ニーテスト:そういうことなら、俺の意見としては、俺以外の全員で行ってもらいたい≫
≪工作王:え、お前はいいのか?≫
≪ニーテスト:こちら側に誰もいなくなると指示が取りづらくなる。余裕ができたら行かせてもらうから大丈夫だ≫
≪ネムネム:なんてできたニートなんだ(*’▽’)さてはおめぇ、しゃけーじんだな?≫
≪ニーテスト:ネコ太、ネムネム、工作王、覇王鈴木、サバイバー、それで使用される人形は5体。残りの4体分はこのあとに俺が掲示板で募集する。どうだ?≫
ニーテストの意見は特に反論もなく、採用された。だって、自分は異世界に行けるし。
≪ニーテスト:じゃあ早速だが、工作王とネムネムは人形作りをしてもらいたい。できるか?≫
≪工作王:わかってるじゃん! 俺も人形に賢者が宿る仕様を聞いてピンときてたんだ≫
≪ネムネム:あたしもピンときてた(*’▽’)それな!≫
人形を使うことで異世界に行けることはわかった。
しかし、女神に貰った人形は10体だけだ。多くの人間が使うインターネットサイトという形式を取っておきながら、たったの10体は少なすぎる。
では、自分たちで人形を作ったら?
工作王とネムネムは賢者登録で生産属性を選んでいたので、すぐにその可能性に気づいた。
≪ニーテスト:サバイバーと覇王鈴木とネコ太の3人はミニャの護衛をしてほしい≫
≪覇王鈴木:アルカスが捨てちまった木製人形は?≫
≪ニーテスト:9体揃ったら回収しに行ってもらう。ゴブリンの存在が気になるから、とにかくまずはミニャの護衛が最優先だ≫
≪覇王鈴木:了解した≫
≪ニーテスト:それと、行く前にオモチャ箱の規約を読んでおけ。5分後には召喚を始めてもらう≫
≪ネムネム:ふぉおおお、忙しくなってきやがった(`・ω・´)まずはおトイレ!≫
予定通りに5分後に、賢者たちが続々と人形に宿されていった。
『ネコ太:ふわぁあああ、ミニャちゃんだーっ!』
『ネムネム:うわぁあああ、でっかい幼女!』
「うにゃにゃにゃにゃ!」
木製人形に宿されたネコ太とネムネムが、頭の上に驚きのフキダシコメントを出現させながらそれぞれリアクションする。ネコ太は腕をパタパタと振り、ネムネムはコテンとひっくり返ったのだ。
そんなお人形さんの可愛い仕草にミニャは再び大興奮。
「ネコ太さん、ネムネムさん、よろしくお願いします!」
『ネコ太:よろしくね、ミニャちゃん!』
『ネムネム:よろしくねーっ!』
2人はミニャの差し出した人差し指に触れ、握手する。
この2人は遊んでくれる人だと、幼女の直感がキュピン。ミニャは2人を優しく掴むと、自分のお膝の上に乗っけた。
『ネムネム:うわぁああ、ミニャちゃんの太もも布団あったかーい!』
『ネコ太:ミルクの匂いがする! あたし、一生ここにいるぅ!』
「にゃふぅ! くすぐったい!」
キャッキャキャッキャッ!
『サバイバー:あのミニャちゃん、賢者召喚の続きをしてくれるかな?』
「みゃっ! そだった!」
ミニャはお仕事を思い出した。
それから工作王と覇王鈴木も召喚された。
工作王は木製人形に、覇王鈴木は石製人形に宿される。
『覇王鈴木:うぉおおお! うぉおおおお! マジで異世界だ!』
『工作王:ミニャちゃんでけぇ!』
「覇王鈴木さん、工作王さん、よろしくお願いします!」
『覇王鈴木:よろしくな、ミニャちゃん!』
『工作王:一緒に頑張ろうな!』
ミニャはちゃんとご挨拶し、2人も挨拶し返した。アルカスとは違って挨拶してくれたので、ミニャは嬉しくてニコニコだ。
それから各人がステータスを公開していき、木製人形と石製人形には違いがあることに賢者たちは気づいた。
まず、木製人形は全てが『カカロン人形』であり、魔力は500点。
次に覇王鈴木が宿った石人形は『花崗岩人形』であり、魔力は250点。
活動時間は今のところ全てが240点、つまり4時間だった。
これだけだと魔力が少ない分、花崗岩人形はカカロン人形の下位互換に思えるが、花崗岩人形はカカロン人形よりも運動性能が高かった。個人の運動神経を向上させる機能はないが、花崗岩人形は全体的にパワーがあるのだ。
≪ニーテスト:これはサバイバーを宿す人形を間違えたな≫
≪サバイバー:一回送還してもらって、花崗岩人形に宿してもらうのはダメかい?≫
≪ニーテスト:いや、送還後に再召喚が可能かわからないからちょっと待ってくれ≫
ニーテストは、続けてミニャに対してコメントした。
≪ニーテスト:ミニャ、俺を花崗岩人形に召喚してくれ≫
「ミニャ:はーい!」
先ほど『落ちついたらでいい』みたいなことをコメントしていたのにもうそれか。……いや、違うのだ!
『ニーテスト:ほ、ほわぁ……マジで異世界じゃないか』
召喚されたニーテストは先ほどからクールな物言いをしていたが、他の賢者たちと同様に異世界に降り立ち、感動に染まったフキダシを表示した。
「ニーテストさん、よろしくお願いします!」
『ニーテスト:あ、ああ、ミニャ。よろしく頼む』
ニーテストはミニャと挨拶を交わしてから、土属性の魔法を使った。
少しだけ斜面の土が掘れることが確認できたが、ニーテストの目的は魔力を消費することだった。
手早くそんな実験をすると、自分のステータスを確認して、ミニャに言う。
『ニーテスト:ミニャ、「賢者召喚」のメニューから「賢者送還」を選択してくれ』
「賢者そーかん。ミニャそれさっき聞いた。うーんと、たしかねぇ……これだ!」
ミニャはコマンドをひとつずつ指さして、賢者送還を選んだ。
先ほどアルカスには使わなかったので、ここで初めて使うことになった。
『ニーテスト:そうしたらその中から「ニーテスト」を選択してくれ』
『覇王鈴木:お前、名前のわりにまともだな』
『ニーテスト:この実験を他のヤツにやらせると変な権利を主張されるかもしれないからな』
ミニャのオモチャ箱は掲示板サイトという大人数が参加できる仕様を取っている。
1人の持ち時間はたったの4時間でも、賢者が1万人も集まれば膨大な時間をカバーできてしまう。ならば、送還されたあとのクールタイムが長く設定されている可能性は十分に考えられた。
この実験を他の人に任せると、リスクを背負った分の権利を主張されるかもしれない。
ニーテストはこれを嫌い、自らの体で賢者送還を試すことにしたわけである。
賢者送還されると、ニーテストが宿っていた花崗岩人形は糸が切れたようにその場に転がった。
人形が一回しか使えない可能性を考えていないのは、検証をする者としては少しマイナスか。しかし、再召喚が二度とできない可能性すらある検証を自ら試しているので、頭ごなしに責められることでもないだろう。
≪ニーテスト:まずは無事に帰ることができた。それと召喚中は日本から俺の姿が消失したのを確認した≫
≪覇王鈴木:マジで?≫
≪ニーテスト:ああ。撮影しておいたから間違いない。これが人体にどういう影響を及ぼすか不明だから、召喚されたいヤツはこの点を承知してくれ≫
≪ネムネム:もう召喚されちゃってるんだけど(; ・`д・´)手遅れや≫
≪ニーテスト:じゃあ女神に祈っておけ≫
それからニーテストはもう一度同じ花崗岩人形に召喚をしてもらう。
すると、特に問題なく召喚は成功し、ステータスを確認後にまた送還。
さらにもう一度召喚してもらい、今度は別の花崗岩人形に入る。またステータスを確認してから送還された。
都合3回の召喚と送還が短時間で行なわれた。
これに付き合わされるミニャはチンプンカンプンだ。幼女ゆえに。
≪ニーテスト:とりあえず、わかったことを書く≫
ニーテストは簡単な検証を終えて、いくつかわかったことを挙げた。
■賢者メモ 召喚のルール■
・召喚と送還は何度でもできる。
・人形は再使用が可能。
・『活動時間』は人形に依存しており、賢者が宿っていない状態なら1分に1点だけ自動で回復していく。
・『影響制限』は賢者に依存しており、別の人形に乗り換えても引き継がれる。ニーテストの場合、『影響制限:伝授』が1点だけ上がっていたので、ミニャに知識を与えると上がるのかもしれない。
・『魔力』はよくわからず、宿った人形によって魔力量が変わるが、賢者のステータスに『魔力充填率』という項目があるので賢者自体にも影響がありそうである。
・『人形の活動時間』と『賢者の魔力充填率』が何を契機にして回復するかは要検証。
■・■・■
「ねえねえ、ネコ太さん。ミニャ、ちゃんとできた?」
『ネコ太:うん、すんごく助かったよ。ミニャちゃんは偉い!』
「むふぅ!」
『ネコ太:ミニャちゃんは凄い!』
「にゃっ、にゃふぅう!」
ネコ太に褒められまくってミニャはテレテレとはにかんだ。
ミニャはとりあえずネコ太に任せて、他の賢者たちは話し合う。
≪ニーテスト:というわけで、サバイバーは花崗岩人形に移し替えよう≫
≪サバイバー:悪いね、リスクがある実験をさせてしまって≫
≪ニーテスト:いや、構わん。ちょっとみんな聞いてくれ≫
ニーテストは召喚されている賢者たちに呼びかける。
≪ニーテスト:これから護衛をしつつ各種の検証を始めてほしい。検証はチャットルームではなく、専用スレッドを立ててほしい≫
≪覇王鈴木:チャットルームじゃダメなのか?≫
≪ニーテスト:限られたメンバーしか使えないのは問題だろう。多くの人に参加してもらうべきだ≫
≪覇王鈴木:まあそうだな。了解した≫
≪ニーテスト:ただ、俺は常にチャットルームを開いておくから、連絡がある時は使ってくれ≫
≪ネコ太:私はミニャちゃんと遊んでていい?≫
≪ニーテスト:そうだな、ネコ太はそうしてくれ。ただ、この茂みの裏からは出させるな。特に河原に行くと対岸から丸見えだから、安全が確保されるまで注意してほしい。あと、それとなく回復魔法の検証も頼む。お前の回復魔法の検証は最重要事項だからな≫
≪ネコ太:わかったわ≫
≪ニーテスト:それから俺からのミニャへの指示はネコ太を通す。お前は常にチャットルームを開いておいて、俺からの指示をミニャにわかりやすいように説明してあげてくれ≫
≪ネコ太:うん、わかったわ≫
≪ニーテスト:サバイバーの移し替えの指示はお前らに任せる。俺は他の賢者の選出に集中するから≫
≪サバイバー:了解≫
≪ニーテスト:それでは各員そのように頼む。このチャットルームを見ている奴らも、検証スレに参加してくれると助かる≫
サバイバーをカカロン人形から花崗岩人形へと移し替え、それぞれが活動を始める。
ネムネムと工作王は、生産属性の魔法の検証。
2つの人形の違いが唯一わかるサバイバーは、覇王鈴木と共に魔法と身体性能の検証。
ネコ太はミニャと遊びつつ、回復魔法の検証。
もちろん、全員が護衛でもある。戦えるかはともかくとして、周りにはよく気をつけていた。
初めての魔法体験と人数の多さによって、いろいろな発見がまるで大鉱脈を掘り当てたかのようにボロボロと出てきた。
特に、ミニャと一緒ににゃんにゃんとダンスしていたネコ太がした発見は非常に大きかった。
『ネコ太:ミニャちゃん! お姉ちゃん、凄い発見しちゃった!』
「にゃんですと!」
『ネコ太:ミニャちゃん、みんなを集めて!』
「わかった! みんなぁ、集まってぇ!」
おっきな幼女の前に人形たちが集まる様子は、ミニャちゃん幼稚園の様相。中に入っているのは良い歳をした連中だが。
ちなみに、ミニャに集合をかけてもらった理由は、賢者たちのフキダシは音声が生じないため、発言者を見ていなければ出ていることに気づけないからだ。
みんなが集まると、ネコ太は自分が発見した魔法をフキダシで教える。このフキダシは不思議な仕様で、どの角度から見ても読むことができた。
『ネコ太:私が回復属性っていうのはさっき説明したけど、ミニャちゃんの健康鑑定が行なえたわ』
そう、ネコ太は『健康鑑定』を発見していた。
『覇王鈴木:おいおい、すげぇ発見じゃん。それで、ちゃんと健康だったか?』
『ネコ太:それは大丈夫。「元気いっぱい!」って出たわ』
『覇王鈴木:そいつはめでたいな。だけどアバウトじゃね?』
『ネコ太:でね、この魔法では土や虫、植物の鑑定はできなかったの。だから、各属性で鑑定できる対象が違うんじゃないかと思うんだ』
『工作王:なるほど、興味深いな。それでどうやるんだ?』
『ネコ太:私の場合は、ミニャちゃんの健康状態を知りたいって強く念じたら魔法が発動したよ』
『サバイバー:じゃあ、その属性が管轄する鑑定項目でなければ鑑定魔法が発動しないのかな。俺は水属性だから割と簡単に見つかりそうだけど』
『覇王鈴木:俺、雷属性なんだが』
『ネムネム:プーッ。カッコイイ属性だけど役立たずかもしんないねぇ?』
「ねえねえ、ネコ太さん凄い?」
難しい話だがネコ太が活躍していることくらいはわかるので、ミニャはそう問うた。
『サバイバー:うん、これは凄い発見をしたよ』
「ふぉおおお! ネコ太さん凄い!」
ミニャはすっかり仲良くなったネコ太の活躍に、ふぉおおとした。
ミニャに褒められて、ネコ太はもじもじ。きっとミニャよりも2倍以上は年上だろうに。
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