四季咲サイリの占い
司丸らぎ
第1話 オープニング
「カグヤ!! カグヤ!!! 死んじゃいやだよ!!!!」
わたしはカグヤを抱きかかえて絶叫する。
カグヤは目を閉じてぐったりしている。
そんなカグヤは死んだ表情をしていても可愛い。
漆のように深い黒髪。
一つ一つ指で摘まみあげたような目鼻。
こちらの心の奥まで見ているかのようなつぶらな瞳。
指で触っても滑ってしまいそうな白い肌。
わたしの自慢の彼女である。
そんなカグヤが死んでしまったのである。
「駄目だって!!! 一体なんで!!! なんでこんなことに!!!!」
わたしはカグヤの肩を抱いて揺さぶる。
必死の形相でカグヤの死に対する怒りと悲しみを表現する。
「カグヤ!!!」
「耳元で大声出さないでよ。そんなに真剣に演技しなくていいのよ」
カグヤが口を開いた。
目を開けて、わたしを冷静に諭す。
「駄目じゃない、カグヤ。カグヤは死体になったんだから動けないし喋られないわよ」
わたしは役になりきっていないカグヤを注意する。
この場で求められているのは、唐突に殺されたカグヤと友人の死を悼むわたしという役を演じることだと思っているのだけれど。
「流石に言わせて。誰もそんな真剣に演技するなんて思っていないのよ。そんなにカメラ映えを気にしているのはサイリだけだよ。ほら後ろでセーラさんたちが笑っているわ」
そう言われて、わたしは振り返る。
セーラさんたちは、わたしの熱演に大笑いしていた。
わたしがこんなに取り乱した演技をするとは思っていなかったらしい。
手を叩いて笑っている人もいる。
わたしはそんなに笑われるようなことをしているのかな?
このミステリーゲームの役者としては、これが適切だと思ったのだけれど。
「お芝居はそんなに頑張らなくて良いのよ」
セーラさんに言われる。
「こんな感じでやるものだと思っていましたよ?」
「みんなお芝居は素人なんだから、そこまで求めてないわよ。サイリちゃんがそんなに演技に力を入れられるとは思っていなかったわ」
「このくらい演じるものかと。ドラマ仕立てのミステリー撮影なんだから、見る人にはこのくらいお芝居している方が臨場感があって良くないですか?」
わたしは真顔になる。
至って冷静に現状を把握しているつもりだ。
「やってくれるのは嬉しいけど、カグヤちゃんが困っているじゃない」
そんなカグヤは冷ややかな表情でわたしの方を見ていた。
可愛い目だ。
死人役とは思えない。
「カグヤも死体役を頑張ってよ」
カグヤの方に話題を振ってみる。
「サイリが耳元で叫ぶから、落ち着いて死体役なんて出来ないわよ」
カグヤは溜め息交じりにわたしに言う。
「でも実際にカグヤが死んだら、わたしは冷静ではいられないと思う。これ以上に取り乱すと思うわ」
「ミステリーゲームだからそこまで想像して役に入り込まなくてもいいのよ?」
「はいはい!! カグヤちゃんは死体役だから喋らないでね」
そのときカメラで撮影しているトコヨさんに注意された。
今回は台本からトリックまでトコヨさんが用意したものだ。
このミステリーゲームの進行をしてくれている。
「とりあえず、私は退場した方が良いですか?」
カグヤが進行役のトコヨさんに確認を取る。
「あっ、ちょっと待ってね。皆に死体の状況を伝えるから」
進行役のトコヨさんはカメラを一旦置いた。
スマホを操作して皆にメッセージを送った。
わたしのスマホにもメッセージが届く。
==========
被害者:月乃海カグヤ
死因:平らなもので全身を押しつぶされて死亡
死亡推定時刻:深夜2:00~4:00頃
==========
この条件から犯人を当てるゲーム。
わたしたちは今、リアルなミステリーゲームに参加しているのだ。
「なるほどね」
わたしはとりあえずの感動詞を口にした。
まだ、何も分かってはいないのだけれど。
ここから推理パートだ。
しっかり考えないと。
「それじゃあ、カグヤちゃんはこっちに来てカメラ撮影を手伝って」
「了解です」
トコヨさんがカグヤを手招きする。
死体役のカグヤはとことこと歩いて部屋から出て行った。
死体という自覚は無いらしい。
風情が無い。
「さてさて」
わたしは部屋をぐるりと見回す。
ここはカグヤが寝ていた部屋。
各自の寝室。
畳の上に布団があるだけの四畳半の部屋。
この部屋でカグヤは殺されていた。
ミステリーゲーム第一の事件
「そういえば、昨日占いをしていたわよね」
セーラさんが思い出したようにわたしに語りかける。
「占いしましたね」
ミステリーゲーム1日目の雑談でそんな話題が出てきていた。
「カグヤちゃんの占いの結果って、大凶だったわよね」
「あぁ! そんな結果でしたね」
そんな結果だったわね。
みんなで適当なアプリの占いをしてみたのだ。
大凶が出るとは思わなかったから、皆で笑ったやつ。
「本当に大凶な出来事があるものね」
「カグヤは占い信じていませんでしたからね。罰が当たったんでしょう」
「天罰が当たったとも思っていないわよ!」
わたしが適当なコメントをしたら、部屋の向こうからカグヤの声が聞こえてきた。
占いの結果が悪かったことを大なり小なり気にしていたらしい。
占いを完全に否定していたカグヤとしては、そこは譲れないようだ。
精一杯強がっていた。
可愛いなぁ。
これはわたしが高校一年生の時の話。
カグヤと一緒に過ごした占いの物語。
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