01
「懐かしいな……」
独り言だ。やはりアラサーにもなると、うっかり言わなくてもいいことが口をついて出てしまう。高校の同窓会が開催される運びとなり、私は実家に帰省していた。しかし私は元来のボッチなので旧友と再会するなんて用事があるはずもなく、埃っぽかった自室の掃除を只管に試みていた。その折、なんとなく荷物の整理をしていたときに、それが押し入れのカラーボックスから出てきた。あのマゼンダはとうに色褪せすっかり透明になってしまっていたが、私は条件反射のごとくその正体に気付きあの会話を想起した。あの会話……つまりこのラインストーンを買ってもらった記憶であると同時に私と夏緒の最後の思い出である。
先に話した通り、私と夏緒は住んでいる世界がまるで違った。私が得意なことは夏緒が苦手で、私が疎いことは夏緒が詳しかった。陽キャ・陰キャで片付けるのは簡単だけど、とどのつまりそういう位置付けで話が終わるのもまた事実だ。
彼は、私がいらなくなった。
あの一件以来、私たちは10年間真面に会話していない。学力が同等だった私たちは結局同じ高校に進学したが、彼は恋人がちゃんと作れたし、私は一軍にちゃんと虐められていた。
本当は同窓会なんて行きたくない。今もクラスメイトの性根が変わってなかったら、私はまた祭り上げられるかもしれない。怖い。でも私はもう1度夏緒に会いたい。会話もできなくてもいい。視界に映らなくてもいい。だからただ会って全て昇華して次に進みたい。いいかげん、25歳にもなって恋愛経験0なんて冗談でも笑えない。いい思い出になんかならなくていいから、夏緒は過去の人間だって払拭できるようになりたい。
(だから、もう1度夏緒に会わせて……)
あれから10年、とうにスピリチュアルなんて足を洗ったはずなのに、私はあの日とはかけ離れた願いを胸に抱いたラインストーンに刻んだ。
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