15話 旅の話
「おいおい、盛大なお出迎えじゃないか。レムリアはいつの間に森の姫にでもなったのか?」
5年ぶりに再会したヴァン少年は、すでに少年ではなく立派な青年となっていた。
長身でバキバキに鍛え抜かれた肉体はもはや強者の風格をまとっている。
それでも、俺と共に姿を現した【
「ヴァン君。久しぶりの再会だというのにみっともないですよ」
「うるせえ。久々に会った妹分が涼しい顔して猛獣たちを引き連れてたら、そりゃ驚くだろうが。常人だったら腰を抜かすところだぞ」
「みんなで日向ぼっこしてる時に来たヴァン君が悪いです。あと私が姉です」
「へーへー」
サッと【
改めて大きくなったと感じた。
16歳の時に旅立って5年。なかなか精悍な顔つきをした21歳になっていた。
「レムリアはチビのまんまだな」
「これでも1センチメルは伸びましたよ」
「はっ、俺は192センチメルになったぜ。お前はせいぜい128センチってとこか?」
でかい。
俺の前世より15センチも高い。
「130です、30いってますからね。
「なんか小鳥がさえずってらあ、ちっこすぎて聞こえねー」
挨拶を交わすようにひとしきり
それからどちらともなく軽く吹き出した。
「ぶははははっ! レムリアは変わんねーな、おい」
「ふふふっ。ヴァン君は変わりましたね」
猛獣を引き連れている俺を変わらないと言ってくれるヴァン少年は、やはり強メンタルの持ち主だった。
俺も見習おう。
◇
ヴァン少年と合流した俺は、さっそく【
「すげえな……あの大狼たちがこんなバカでかく成長してるとはよ……」
「大きさだけが美点ではありません。みんなこの数年でさらに精強になりました」
実は俺と過ごすうちに古森の獣たちはかなり強化されてしまっていた。
だって俺がクエストをこなす際、高確率で獣たちも同伴しているのだ。つまり一緒になってスキルを習得したりしている。
「はあー……こんなすげえ奴らはなかなか見たことないぜ。俺の冒険もまだまだだな。まさか地元にこんな
「神獣ですか……確かにこの時代の人々からしたら神にも等しい存在ですかね」
「この時代?」
「いえ、こちらの話です。それより一人で来たのですね」
「まあな。他のエルフたちを刺激したらまずいんだろ? ここに入るときは俺一人って決まりを忘れちゃいないぜ」
「ヴァン君にしてはよい心がけです」
「つまんねーことしてお前に会えなくなるのは勘弁だしな」
「そんなこと言ってどうせ薬が目当てでしょう」
「っち、バレたか」
それから俺たちは【
「そういやさ、エルフってあんまり知られてないのな」
「エルフが? 人間にですか?」
「ああ。俺がこの5年かけて回った国々や都市には、エルフを知ってる人間なんてほぼいなかったぞ」
「そうですか……」
「お前らを神だって
シーズン1では確かにエルフの存在はそこまで認知されていなかった。
エルフは森の外との交流を遮断する傾向にあったし、【星渡りの古森】だって普通の人間が入れば彷徨い死ぬ結界が張ってある。
さらに現在はシーズン1から約80年前の時代だから、エルフが長寿ゆえに神扱いされるのも無理はないか。
「エルフの話はともかく、こうして特等席に案内したのですからヴァン君の冒険を聞かせてください」
「おおー……世界樹はけっこう変わったんだな……」
パパンの尽力により、今ではエルフが生活できるだけの空間が世界樹にはいくつか生成されている。そのうちの一つが【天空の止まり木】だ。
巨大な世界樹の幹はもはや空中に巡る回廊そのもので、先端に生い茂る葉はもふもふの布団みたいな大地になっている。
空の果てを観測するにはもってこいの高所で、俺とヴァン少年は腰を落ち着ける。
隣で大あくびをかまして寝そべる【
「最近はそこかしこで神って呼ばれる奴らの噂を耳にするぜ」
「どんな神ですか?」
「そうだな……石職人たちの街を守護する【
「それはそれは私も見てみたいですね」
自分の見た神を興奮気味に語るヴァン少年の目はキラキラと輝いていた。
「他にも【獣王レオル】や【獣神マーラ】とかいって、縄張り争いをしてた奴らもいたぜ」
「ああ、
「知ってんのか?」
「ええ、遥か西の森ですよね? 木々の噂で耳に入ってきました。ヴァン君は巻き込まれませんでしたか?」
「壮絶だったぜ……俺はレオル側で参戦するはめになっちまってな……」
ちなみに【獣王レオル】はクロクロの裏設定集で目にしたことがある。80年後のシーズン1では、彼の息子である【百獣王レオーネ】が【獣人の古都レオルグ】を治める神だった。
いつかは【
「どうせ可愛い【
「な、なんでそれを!?」
ヴァン少年よ、俺も猫耳女子は大好きだからな。
あの可愛さに抗えない気持ちはわかる。
「と、とにかく旅は面白えぞ! どうだ、ワクワクしたか? レムリアも一緒に冒険しようぜ!?」
「色々と見てきたのですね。では、例の秘薬の手がかりは見つけられましたか?」
「いや……レムリアが言ってた地名や噂はまだ聞いてはいない……」
まあ俺が蘇生の秘薬についてヴァン少年に語った内容は、今からおよそ6、700年後の世界線だしな。現時点である方がおかしい。
でも未来で確かに存在するのなら、その近辺には蘇生に繋がるヒントや代替品などが発見できるかもしれない。そんな期待を込めて、俺が記憶している限りの正確な位置を共有してはいる。
「ただ、次の冒険でレムリアが教えてくれた3つのうちの1つにはたどり着けると思うぜ!」
「竜人の領域、【竜骨都市カサブランカ】ですか」
シーズン6の時代に、あの都市では滅び去った竜人たちの秘儀を継承した蘇生儀式を行っていた。つまり、現時点で竜人たちはまだ健在である。
さらに言えば儀式を継承している=700年前の現在だと、蘇生の原点ともいえる確実な方法が判明するかもしれない。
「ああ。まずは【
「仲間、ですか」
「おうよ! 今は村で待たせてるけどな」
ヴァン少年は俺との修行もあって、この時代ではかなり強い部類の人間だと思う。
それにこの5年間の冒険でさらに腕っぷしを上げたように感じる。しかも頼もしいパーティーに出会えたなら百人力かもしれない。
それでもやはり心配なものは心配だ。
「ヴァン君。その仲間ときみにいつもの薬をあげましょう」
「ひゃっほう! 実はレムリアからもらったのは全部使い切っちゃってなあ。いや! ここぞというヤバい時にしか使ってないぞ!? 大切に大切に使った結果! 俺の命は何度も救われたさ!」
素直に感謝するのはヴァン君の美点かもしれない。
ここまで気持ちよく言われたら、いくら貴重な物とはいえ多めに持たせてやりたくなるのが人情だ。
「はい、【
少しでも生存率を上げてほしいので、誰を信仰すればお得な奇跡を習得できるのかといった豆知識を共有してもいい。
「いや……誰も崇めようとは思わなかったな」
「それはどうしてですか?」
「もう散々すごいのを目にしちゃったからなあ。なかなか超える奴なんていねえし、いたとしても俺はもう決めてるんだ」
ヴァン少年は俺を見つめた後に、視線を切って遥か遠くへと目を向けた。
地平線に夕日が沈むのを静かに眺め、それから彼は聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でポツリと呟く。
「もう俺の女神さまには会ってるからなあ」
ん?
どうやら彼はかなりすごい女神に遭遇したのか? でも何らかの条件を満たさないと信徒になれない特殊な女神とか?
俺に言ってくれればクロクロの知識を総動員して信徒になれるかもしれないぞ?
「ちなみにどんな女神ですか?」
「はぁ? あー、もう……お前にだけはぜってー言わねえ」
女神だいしゅきー! なんて言ったら
しかしそう言われると余計に気になるな。
「ヒント、ヒントだけでもお願いします」
「あー? うっせえなあ……つ、月みたいに神々しいやつだよ」
確かクロクロの裏設定集によると、この時代にもいた月関係の女神といえば……。
「
月桂樹の女神だったら世界樹を通じて渡りをつけられそうだぞ?
「だぁー! うっせえよ! ぜんぶちげえよ! ってかそんな女神、俺ですら知らねーぞ」
ヴァン少年に煩わしいと手を振られ、深いため息までつかれた。
力になろうとしているのになぜだ。
◇◇◇◇
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
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◇◇◇◇
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