第5話

 グレイスはもともと、亜人族の国であった。

 その名残を残すのが、獣化。


 先祖から獣の血を濃くひく者達は耳と尻尾を持ち、トリガー(引き金)で獣化してしまう。そのトリガーは緊張、驚き、恐怖、リラックスなどがある。


 私のトリガーは"愛する人"なので、殿下となる。


 そして殿下は王家の血筋が濃いため。あらゆる訓練を受けていて、滅多に獣化しないはずだが。殿下は私の側では獣化して、元に戻るまで離さない独占欲丸だしだ。



 

 それは5歳のころ、フォックス殿下の婚約者候補が集まったお茶会で、殿下は獣化してしまった。はじめて獣化を見た婚約者候補は彼を恐れたが。1人の女の子が頬をそめて彼に近付いた。


『かわいい、キツネちゃんだぁ〜』 

『ボクが可愛い? なら、撫でてくれる?』

『いいよ。なで、なでする。なで、なで、キツネちゃん気持ちいい?』

 

『うん、今日から僕をなでる係になって』

『わかった、今日からナデナデ係ね』


 その女の子が、私だったとお母様から聞いた。

   

 10歳、殿下は婚約者に私を選び、頬へとキスをした。

 その夜、前世の記憶が蘇り。自分が悪役令嬢で推しのいる世界だと知った私は興奮して、ゲームにはなかった黒ウサギに獣化した。


 殿下に知られないよう、気をつけていたのだけど。

 側にこられて、手を握られて嬉しくてポンとウサギに変わった。そのときの彼の驚いた瞳と、ニヤッと口元が上がった顔を今も覚えている。


 13歳。知らない間に転移魔法も習得していた。覚えたての魔法を使い、狐の姿で会いきてくれる。


『フォックス様、来てくれたの?』

『そうだ、撫でてくれ』

『もふもふ、かわいい。尻尾も触ってもいい?』

『いいよ、撫でて』


『撫で、撫で、可愛い』


 私のナデナデ係は、いまも続いている。

 

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