第22話
「ひゃぁぁぁ~~~!スゴイねぇぇ!」
煌く水色の空の下、黄色い何処までも続く砂の上、メイが運転する青い軍用車が砂煙を巻き上げながら疾走する。
「おいおい、あんまりはしゃぐと砂を喰らうぞ」
ハリュウの制止もなんのその、青い軍用車は轟音を鳴らし、道なき砂漠を進む。
「はははっ…これはまた爽快だなぁ」
先程まではセイガが運転を教わっていて、今はメイに変わったばかりなのだが、ふたりとも上手に車を運転できていた。
アルランカに来てから二日目、今日は大レースの下見と運転の練習、それからベルクツェーンを探して街の外を探索しているのだ。
アルランカを包む城壁を抜け、まずは西部のウトト砂漠へとやって来た。
距離的には街道を進んだ方がゴールのマウラケ山には近いのだがそこは参加者も多そうなのと、ベルクツェーンなら砂漠を選ぶ気がするというメイの言を受けて様子を見に来たのである。
「でも…さすがにずっと同じような景色だとちょっと飽きるね」
ただ真っすぐ進むだけなので、5分ほどしたらメイは退屈そうだった。
「じゃあ、試しに左に急ハンドルを切ってみな」
教官であるハリュウが次の指示する。
メイはアクセル全開のまま言われた通りハンドルを勢いよく回す。
「うわっ!」
車はそのままのめり込み回転して、3人は車外へと投げ出される。
ハリュウはそうなると分かってたので無事着地、セイガは慌ててメイを抱え込むと砂の上を転がった。
「はっはっはっ、こうなるから注意な」
「バカ~!そういうのは先に言ってよ…ペッ」
口に少し入ってしまった砂を吐き出しながらメイが文句を言う。
「セイガさんありがとう…ボク」
また抱きとめられる形になってしまい、メイの心臓の鼓動が暴れる。
「ああ…まずは無事でよかった」
セイガはメイを後ろから抱え込む様な体勢で
目の前にあるメイの長く綺麗な髪とその匂いを意識してしまう
「あ、と…すまない、痛くはなかったか?」
変なことはこれ以上考えないよう努めて優しくセイガは立ち上がり、メイの手を取った。
「うん…大丈夫…こっちこそゴメンねセイガさんは怪我とかしてないよね」
乾いた砂は熱くはあったが、怪我とか汚れとかは少なかった。
そんな中、メイはセイガを見つめるが、セイガは険しい顔に変わっていた。
「え?…セイガさん?もしかしてどこか」
『妖気がします、ご注意を!』
マキさんが突然、メイの後ろから現れる。
セイガとハリュウも一方を睨んで武器を取り出す。
「来い、アンファング」
「音を聞きつけたか…モンスターのお出ましだな」
視線のその先には、砂を切るように地中から何かがこちらへと迫っている。
それも複数、砂を泳ぐように…そいつらはやってきた。
「こいつらは『
ハリュウの傍で青い額窓から情報が表示される。
「わかった、行くよマキさん!」
『某にお任せあれ』
メイが額窓から弓矢を取り出すと同時にマキさんも戦闘準備に入る。
「うおおおぉ!」
まずはセイガが先頭を泳ぐ魚影に飛び掛かった。
タイミングを合わせたように地面から体長2m程の巨大で丸々とした魚が飛び上がる。
ガキィィン!
大きな金属音、セイガの一撃はヒットしていたが、その体を断つまでには至らず魚は勢いを保ったまま砂の中へ消える。
「こいつら…相当硬いな」
痺れる手を振りながらセイガが次の目標を定める。
続く鎧砂魚も喰らうようにセイガに飛びついた。
その銀色の鱗はまさに鉄鎧のような重量感を見せている。
「ファスネイトスラッシュ!」
同じ手を食わないよう、セイガは剣閃を研ぎ澄ませる。
鎧砂魚は横薙ぎに真っ二つになり、霧散した。
「すごい、さすがセイガさん!」
「まだだ、もっと来るぞ」
セイガの視界の先にはまだ複数の魚影がいる、一度すり抜けていった分も反転して再びセイガ達を狙ってきた。
「遠くのはオレに任せろ!」
叫ぶや否かハリュウがひとり飛び出した、セイガは代わりにメイの近くへと駆け寄る。
「…大丈夫か?」
「うん、ボクはひとまず大丈夫…でもこいつら弓矢とは相性が悪いなぁ」
『お任せあれと申しましたが某も打つ手に欠けまする』
鎧砂魚は攻撃する直前まで砂の中にいるので効果が及びにくいのだ。
「だったらこうやればいいのさ……
ハリュウが砂の上に手を置き、気合を込めると前方一帯に青い波動が現れた。
すると、砂の中にいた魚達が弾かれるように地上に出てくる。
しかも潜ることが出来ないのかぴちぴちと苦し気に動いていた。
『今ですぞ!』
「うん!」
姿を曝け出した鎧砂魚にメイとマキさんの攻撃が入る。
これで敵の数は一気に減った。
セイガはその攻撃には加わらずそのまま警戒をしていたのだが…見るとメイの背後に魚影がひとつ…
「危ない!」
「え!?」
セイガが庇うようにメイの前に飛び出すのと、鎧砂魚が口から紫の毒液を吐くのが一緒だった。
「うわっ?」
間一髪、メイは毒液からは間逃れたが、セイガの身体全体は紫色に染められてしまう、しかもその鎧砂魚はセイガに向けて迫っていた。
「セイガさんっ」
手を伸ばすメイ、その先のセイガは…
「ヴァニシング・ストライク!!」
紅き熱風を纏いながら一気に鎧砂魚と激突し、圧倒的威力のままそれを吹き飛ばした。
視界を奪われていたので、ギリギリまで待っていたのだ。
両手で目を擦り、なんとか目が見えるようになった。
「セイガさん…ええと……大丈夫?」
セイガが汚れながらも爽やかに振り返る。
「ああ、問題無い」
「でも毒が」
「まずは残りの敵を倒してしまおう」
セイガはまるで平気な風で次の標的に向かう。
そして、5分ほどでこの場のモンスターは全滅した。
黄色い砂の上には鉛色のドロップアイテム、「硬い魚鱗」があちこちに散乱している。
「この程度は、楽勝で行かないとな」
ハリュウが鱗を拾いながら軍用車の方へと向かう。
セイガもあまりに平気そうなので、むしろメイの方が心配になっていた。
「ねえねえ…本当にセイガさんは大丈夫なの?」
「ああ…実は俺も最近知ったんだけど…どうも我慢すればある程度の毒は平気らしいんだ」
タオルで顔だけは拭いているのだが、全身はいまだ毒に汚れている。
「解毒できるってコト?」
「いや、解毒というよりも耐性がとても高いというか…毒自体はまだ受けている感じかなぁ」
途端、メイの顔が青ざめる。
「じゃあダメじゃん!早く毒を取らないとっ…『ウォッシュ』!」
メイが簡易魔法を使う、みるみるセイガの服が洗濯したように綺麗になった。
身体もお風呂に入ったように清潔な風になる、その感触にセイガは感嘆した。
「おお、これは凄いな…すっかり毒も汚れも消えているや」
「どう?便利でしょ♪ 洗濯するだけじゃなくて一部の毒なんかも洗浄できるんだって…ホントらくちんだよね」
メイはユメカから幾つか簡易魔法を教わっていたのだが、早速役に立った。
「簡易魔法は使い過ぎると消耗が大きいけど便利なものが多いよな」
いつの間にか軍用車を立て直し近付いてきたハリュウも、多少食らっていた毒や汚れをウォッシュで取り除いていた。
「そうらしいね…ボクはまだよく分かんないけど…御業よりは疲れない…かなぁ」
『御業はそもそも大規模な儀式で使う術ですから、消耗は大きいのです』
メイはきっと魔法の才能が高いのだろうと、セイガは思った。
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