第20話

『…さて、ここまでの説明で質問はございますかな?』

 ざわざわと講堂が鳴る中、ひとりの男が手を上げる。

『はい、そこの男性』

 ジャンキー細田が指差すと、マイクを持ったスタッフが男の前に移動する。

『あ、あー…えっと、いつもと同じように聞こえたんだが結局変更したのはどこっすか?』

 講堂内に苦笑が起こる。

『確かに、基本的なルールは変わっていません、今回大きく違うのは紋章自体の探索も出来なくなったことです。従来なら後半戦は参加者同士の位置確認は出来なくとも紋章の場所が分かってたので皆それを目指して行動していましたが、今回はそれが出来ないために上手く隠してゴールを目指すことが可能になったわけですね』

「なるほど…上位プレイヤーに有利なルールなのか」

 ハリュウが頷く。

『ここ最近は後半戦が始まってすぐに紋章が取られるというパターンが多かったので今回試験的に導入となりました…他に質問のある方?』

「はい」

 セイガが手を上げ、マイクが渡る。

『紋章の譲渡は可能なのでしょうか?』

『…基本的には譲渡は出来ません、紋章の移動は紋章を持つ参加者が気付いていない場合、或いは意識不明や戦闘不能に近い状況になった時だけ可能となるからです……』

 最後に間があった、それはセイガも分かっていたようで

『以上です。ありがとうございます』

 そう言ってマイクを返そうとしたが、それを取られる。

『あの!』

 …メイだ、固い表情をしている。

『お嬢さん…なんですか?』

『後半戦は紋章の奪い合いと言ってたけれど…紋章を持っていない参加者とも戦うことはできますか?』

 ふるふるとマイクを震わせながら、まるでどこか遠くを睨むように…

『そうですね、後半戦では実際勝負がつくまで紋章があるかどうか分からない場合もありますから、誰に戦闘を挑むことも可能ですよ』

『そうなんだ…よかった』

『そこまで言うことは、誰か挑みたい相手でもいるのですかな?』

 ジャンキー細田は、メイに興味を持ったのか軽く聞いてきた。

 メイは…思いつめた表情のまま

『うん…ボクは…ベルク…参加者「ゴット」を絶対に倒したい!!』

 そう宣言した。

 声は大きかったが、その姿はとても危なげで触れたら壊れてしまいそうだ…

 それに対してジャンキー細田を含め、ここにいる者にとってはゴットは有名人なのだろう、講堂内は沸き、嘲笑の野次も飛んだ。

『それはまた…なかなかの決意表明ですね…実況者として楽しみにしていますよ』

『う…』

「こんなガキがゴットに勝てるわけないだろ!」

 後方から声が上がった、見ると大きな体にスキンヘッドの男が立ち上がっている。

『うう……』

 ざわざわとイヤな空気が生まれる、その中

「彼女の気持ちを嘲笑あざわらうのは…俺が許さない、それに俺達は本気でゴットに挑む」

「そういうこと、あとコイツはうちの大事な仲間なんでな」

 セイガとハリュウがメイを守るように立ち上がり、禿の方を睨む。

「あ……そうだっお前『スターブレイカー』だな!!」

 男は狼狽えながら、セイガを指差す。

 思わぬ大物の名前に講堂内が騒ぐ、さらに

「…」

 無言でアルザスも立ち上がる。

 …それだけで戦場のような雰囲気が生まれる…

『ははは…まあ、誰が勝つかなんて戦ってみないと分からない…だから面白いってもんだよね…それじゃあマイク返しまっす』

 最後にキナさんがマイクをスタッフに渡すとようやく場は落ち着きを見せた。

『はい、それでは質問は以上にしましょうかね、あとは各自額窓から参加書類の提出をお願いします♪ なお、大会当日まで変更が可能ですので、新たに追加申請があれば必ず変更をお願いします。それを怠るとルール違反で失格になりますからねっ…ジャンキー細田との約束だよっそれでは~』

 大きく手を振るとジャンキー細田は去って行った。

「キナさん…それにみんな…ありがとう、それにゴメン」

 椅子に深く腰かけながらメイが謝る…今にも泣きそうな表情で

「大丈夫だよ…それに俺も熱くなってしまったから…ごめんな」

 講堂内では書類を提出して、承認を得た者から退出をしていた。

 セイガ達はのんびりと残っている方である。

「ううん…セイガさんが守ってくれて…嬉しかった」

「ま、気にせずメイ坊はやりたいことをやればいいんじゃね」

「む、メイ坊ってなにさー、ハリュウ?」

 膨れ面のメイに

「お前こそセイガは「さん」付けでオレは呼び捨てとか…もしかしてオレに惚れたか?でも残念、オレはもっと綺麗な大人の女性がタイプなんでな」

 ハリュウが頭をごしごしと撫でた。

「もう!ハリュウのバカー!」

 それで、ようやくメイの心も落ち着いたようだった。

「なるほど…そんな理由で三人は大レースに参加したんだね」

「ああ…それでキナさんとアルザスに相談なんだが…手を貸してはくれないか?」

 そう言いながらセイガが、アルザスとキナさんに頭を下げた。

「おいおいよしてくれよセイガさん…そこまでされちゃあ困るよ」

「自分は…手伝えないな」

 アルザスだ…メイは最初…意外に思った。

 あの時みたいに助けてくれると…思っていた。

「アルザスさん…」

「自分がこの大レースに参加するのには理由がある。お前達の邪魔をする気は無いが手伝う気もない、以上だ」

 アルザスがそのまま立ち去ろうとする。

「ちぇ~、ケチケチすんなよ剣聖様がよぅ」

 そんなハリュウの軽口に、アルザスが振り返る。

「…先程から、文句があるようだな」

「別にぃ?」

 沈黙がふたりを包む、まるで一戦はじまるかのような…重い空気

「アルザスさん、…わかったよ、また大レースでね」

(そうだ…アルザスさんはこういう人だった)

 どんなに否定されようと自分の信じた道を行く…それが誰かを悲しませることになっても…それがメイの知るアルザスだった。

「メイも巻物殿も…気を付けるんだぞ」

「うん」

『アルザス殿、かたじけない』

 そうしてアルザスは出て行った。

「う~ん、正直うちもこの大レースは全力で臨みたいからあまり助けは期待しないで欲しいかな」

 キナさんが両手を組みながら申し訳なさそうにそう告げた。

「ううん、そうだよね…これは大会…だもんね」

 そもそもメイ達みたいな動機で参加する者が珍しいのだ。

「でも!もし手助けできるような状況にあったら勿論うちも一緒に戦うよ♪」

「キナさん…ありがとう」

 セイガはそんなキナさんの心配りが嬉しかった。

 そしてやはり自分はまだまだだなと思い知る。

「それじゃ、宿で彼ぴが待ってるからうちはもう行くね」

「そんなっ彼氏…だと!?」

 明らかにガッカリ顔のハリュウ…どうやらキナさんも射程圏内だったらしい。

「ははは…それじゃあまた今度」

 セイガが手を振る。

「当日はユメカ達も応援に来るんだろ?楽しみだねぇ♪」

「ありがとうございました~」

 セイガ達に見送られキナさんも去る…セイガ達もそろそろ書類を提出しておきたいところだが…

「あ、あの~」

 女性がふたり、セイガ達のもとに来ていた。

「…何か?」

『スターブレイカーさん、サインを貰えませんか!?』

「えええ?」

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