第19話
長方形で長く天井が高い白い壁の講堂はまるで、礼拝堂のような趣きがある。
会場外にはかなりの人だかりが出来ていたが、中に入ってきたのはセイガ達も含め50人ほどだった。
外の人達にはどうやら別の目的があるのかも知れない…そうセイガは思った。
アルザスとキナさんも近くに座っている。
早速キナさんはメイと話を始めたようだ。
ざわざわとする室内を、セイガは用心しながら見渡す。
人種も年齢も多種多様、明るい表情の者もいれば見るからに威圧感を放っている者もいる…競技が始まれば競い合う相手となるのだ、今のうちに状況を見ておきたいのはセイガも一緒だった。
ざわめきが、前方で一瞬止まる。
見ると壇上のさらに奥の扉が開き、男が一人、壇上に登った。
「はいはい注目~~!」
大きくて、とても通る声だ。
まだマイクを使っていないというのに、驚くべき音量…さらに驚くべきはその容姿、黒いタキシード姿の上の顔は灰色の狼の頭だった。
獣人…セイガも何度か学園などで見かけていたが、彼等は耳や尻尾など一部が獣に近い姿のものが多かった。
しかし、この男の顔はほぼ狼で、獣がそのまま二本足で立ったような姿勢で悠々とこちらを見ていた。
『この度は第349回アルランカ大レースへのご参加ありがとうございます!』
男が手前のマイクを持って左手を大きく
『受付の案内及び、大会の説明は私、「闘う実況者 ジャンキー細田」が務めさせて頂きます!!』
ジャンキー細田が左手を大仰に振り下ろし頭を下げると
「ジャンキー!!」
「細田さーん!」
講堂の方々で彼を讃える声がした。
『ありがとうございます。なお、初めての方も多いと思いますので一言付け加えさせて頂きますと、私は麻薬常習者では決して御座いませんで単に実況に命を賭けている者だということはご理解頂きたいですね…ははは!』
高らかに笑いながら説明を続けるジャンキー細田
『さて、それでは只今から今年の大レースの概要を説明させて頂きます。質問の時間は改めてご用意致しますので、まずはお聞きください…今年独自の仕様もありますので常連の方々も耳を傾けて聞いてくださいませ』
言葉と同時に彼の頭上に大きなモニターが出現する。
『大レースはここアルランカの正門から北西に見えるマウラケ山までの約100kmを結ぶ往復、前後半で行われます!』
付近の地図が映る、そこには街道や河や森、そして大きな砂漠が描かれている。
『前半戦はマウラケ山山頂までのタイムアタック、何を使おうが、何処を進もうが…勿論妨害や協力も全て自由…ああ、レギュレーションはあるのでそれは個別参加申し込み手続きの際に規制されます』
「まあ、空を飛ぶのが一番速いよな」
横のハリュウが断言する、彼のウイングはその点…もし使えるのならかなり有利だろう。
『ただし!こちらもただお通しするつもりは御座いません、大レース当日はもともといるモンスターに加え、主催者側が用意したモンスターやアルランカ軍が誇る防御機構が皆様の妨害…特に先頭を進む者に襲い掛かります!』
モニターには大小の板状の浮遊物が表示される。
「フォートレスモノリス…」
そんな声がした。
『そう!大レースの映像や音声の提供、さらに救護などにも使われるこのフォートレスモノリス、一旦防御に回るやその実力はまさに鉄壁!』
過去の大レースのものだろう、空中に
『最初の投入から今まで、この壁をたったひとりで突破した者はいまだにいないのです!』
歓声が上がる、このフォートレスモノリス攻略が前半戦の大きな鍵なのだろう。
『他にも新たな兵器が投入される予定ですので、それは当日までのお楽しみに…』
ジャンキー細田がにやりと微笑むと、講堂内は一気に静まり返った。
『そして山頂には1位から3位までの紋章が御座いますのでそれを手にしたものがが前半戦の勝者と言えます。勝者が決まった時点で各参加者の皆様には移動距離や倒したモンスターなどに応じて貢献度が入りますので上位狙いでなくとも先に進むのはおススメですね』
「山頂までのタイムアタックって…そこまで危なくないのかなぁ」
メイが口にしたそれは…ベルクを狙うためのものだ。
「いや、この大レースはそんなに甘いものじゃあないよ」
セイガは前もって大レースのことを調べていた…から知っていた。
この大レースが単に速いものを決める大会ではないことを…
『前半終了後、30分のインターバルがあります。各参加者の皆様はここで後半の作戦や行動を考えつつ充分に休息して頂き…』
ジャンキー細田が机を叩いた。
『いよいよ後半戦の開始です! 3位までの紋章を持つ参加者は、2時間という制限時間以内にアルランカ正門のゴール地点まで帰って来て貰います…後半戦ではフォートレスモノリスは妨害は致しません、ただし他の全参加者は彼等から紋章を奪うことが可能になります、つまり』
「つまり?」
『ゴールの正門を紋章を持つ者が通過するまで壮絶な奪い合いが待っているのです!』
『おおお~~!!』
ここで一番の歓声が上がる。
『ルール上、紋章を持つ上位同士での戦闘は禁止されていますが、全参加者に紋章が渡る可能性があるのです、ただし後半戦では前半で可能だった参加者の位置や状況を調べる機能は制限が入り、紋章の位置情報も調べられませんので、探すのは一苦労するかも知れません』
ジャンキー細田が左手を再び振り上げる。
『紋章を持ったものは…どうやってゴールするか…それ以外の参加者はどうやって紋章を奪うか…あるいはゴールさせないか、制限時間内にゴールできなかった紋章は効果を失い、得られるはずだった賞金と貢献値は紋章を持たない全参加者での山分けになりますから…その参加者同士の戦いで全てが決まるのです!』
『おお!』
『勿論、1~3位のゴール者は莫大な富と名誉が与えられます!さあ…今年の大レースはどんな結末を私達に見せてくれるのでしょうか!それは、あなた達参加者次第なのです!!』
『わ~~~~!』
講堂全体がジャンキー細田の説明に高揚している。
セイガも、改めて自分の実力を試してみたい、そんな想いが湧いていた。
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