第6話

 そこには、見目麗しい女性がいた。

 金色の長い髪に銀色の澄んだ瞳、どこまでも白く透き通った肌に白一色の装束…

 何処か浮世離れした雰囲気を持つ

「は~い、お待たせしました~」

 綺麗な、でも少し気の抜けた声

「私の名前は『時紡ときつむ聖名みな』……気軽に『ミナっち』って呼んでね~♪」

 一同声が出なかった。

「はは……ええと…『ミナさん』じゃあダメですか?」

 ようやくユメカが聞き返す、内容はともかく明らかに只者では無いオーラを感じたので、気軽に呼ぶのは躊躇われたのだ。

「え~?だってここには『キナさん』もいるでしょ~?やっぱりそれじゃ分かりにくいと思うの」

「えと、なんでうちのことを?」

 キナさんが驚くのも無理はない、名乗った覚えはないのだから。

「うふふふふ~」

 ミナっちは笑顔のままだ。


 話は少し戻る。

 ここは学園内のとある一室、そこには猫背で緑色の肌の小男と、耳が少し長くとがっているのが特徴の美少女がいた。

「え~~~い、いつまで待たせんねん、だあほがー!!」

 小男の名前は『ベレス』

「もうヤダ、なんで?どうしてオコがこんな小鬼と一緒に居ないといけないの?(ガッカリ)」

 美少女の名前は『大沢多子おおさわおおこ

 ふたりの共通点は先のスターブレイカー事件の際に一緒に現場に向かったこと。

 但しふたりが辿り着いた時には全て終わっていたのだが…

「小鬼じゃないわい、可愛い妖精さんだぞ」

「絶対嘘だ~、汚い目でこっちを見ないでよ(軽蔑)」

 ふたりはそのまま言い合いを続ける。

「大体金になると思ってたのに金どころかこんな目に遭うなんて」

「それを言うならこっちのセリフよ、オコはセイガくんと大決戦を乗り越えてラブラブになるはずだったのにぃ(信じらんない)」

 一向に止まる気配がない。

「うふふふふ~」

 その時だった。

「は~い、お待たせしました~」

 ミナっちがいつの間にか部屋の隅から声を掛けたのは…

「うわぁ!いつの間に?」

「あなたはダレ?(ナニこの美人)」

 ミナっちは小首をかしげると

「ん~~、『ミナっち』です♪」

 本名は明かさぬまま本題である話をする。

「お二方には~ちょっとした封印を掛けさせていただきますね~普通に生活するうえでは問題は無いと思うので~……許してね☆」

 それは学園側の決定事項だったので、早速だが仕方なくミナっちは執行することにしたのだった。

「ちょ、ちょっと待って?(焦り)」

「何ですか~『モブ沢さん』?」

「って何でその名を知ってるのよ(デジャブ?)」

「うふふふ~」

 ただならぬ雰囲気にモブ沢さんが慌てる。

「…え?もしかしてオコってコレが『次』だったの?(出番)」

 少し前に胡散臭い男に言われたことを思い出す。

「ああ~そうかもですね~」

 ミナっちは事情をまるで知っているようだった。

 ベレスは一人蚊帳の外…

「そんなっ、だってまだセイガくんとも会ってすらいないのに!?(まさか)」

「ごめんなさいね~」

「次こそは大事にしなきゃって…ずっと思ってたのに?(嘘よ)」

「それではいきますね~」

 ミナっちの手が光を帯びる…

「待てい!」

「いやぁぁぁぁ!(泣)」 

  


「そんな感じで、おふたりには封印を掛けさせていただきました~」

 ミナっちの説明は、まるでその情景が見えるくらい理解できるものだった。

 おそらく『世界構成力』がとんでもなく高いのだ。

 『世界構成力』は自分の世界の力及び情報を違う世界の相手に伝える能力ともいえ、『世界構成力』が高い人ほどそれは顕著である。

 声がそのまま「力」を持つほどに…


『ここにいる全員に、今から聖名が封印を施す』

 大佐の声、自らの『世界構成力』を乗せたそれはまさしく有無を言わせぬ強制力が込められていた。

「ミナっちって呼んでください~」

『だが俺は昔からこう呼んでいただろうが』

『…呼んでくれないと、大佐の真名まなもバラしちゃいますよ~?』

 ミナっちは本気だ。

「わかったよ、ミナっち」

 声を潜め大佐が首をすくめる、真名とは何か分からなかったが、どうやら大切なものなのだろう…それを知っているということから、このふたりの付き合いはかなり深いようだった。

『話を戻す、今回のふたつのお願い・・・、それを破ろうとした時、封印は発動する』

「ふたつのお願いというのはひとつ、『『W真価』と夢叶さんの復活については秘密とする』…もうひとつは『ヤミホムラの存在の秘密、スターブレイカー事件は聖河さんの功績だけ公開する』…以上です」

 学園長が確認を取る。

「発動って…どうなるんですか?」

 ユメカが恐る恐る聞いてみる。

「その『時間を封印』します~、封印されているのでいかなる手段でも外部から感知することはできません♪」

 ミナっちは相変わらずの笑顔だったが

「うふふふふ~」

 底知れぬものを感じさせた。

『彼女はその名の通り時間を操ることが出来るんだ、なお、この場にいる者同士での会話なら封印は発動しないから普段の生活ではあまり困ることは無いだろう…それにもし封印されても俺達は多分封印されたことすら気付かないだろうしな』

 恐ろしい話だが、大佐の言葉が事実であるのは明白だった。

 部屋の中央にミナっち、それを囲むように全員が円陣を組む。

「それでは~準備はいいですか~?」

 セイガの喉が鳴る…見渡すとその表情はそれぞれ違ったけれど…覚悟が見えた。

 中央のミナっちが何かを口にしているが、聞き取れない。

 それと同時に彼女の手のひらが白い光を放ち始める。

 まるで静寂で時が止まったような部屋の中…

 …

 全てが眩い光に包まれ‥

「はい~、終わりましたよ~♪」

 あっけなく封印は施された。

「ふむ…確かに何が起きたかも分からんな…だが『全員』に封印といったがこれから『W真価』に関する調整などの話し合いをする時にも封印が発動するんじゃないのか?」

 エンデルクの指摘はもっともだった。

「そーですね~♪」

『問題は無い、封印を無効化するにはミナっちより大きい『世界構成力』を使えばいいだけだ…少なくともここには俺ともうひとり、それが可能な奴がいる』

 大佐が目配せした。

「だったら元々大佐と学園長は封印に参加しなくてもいいのでは?」

 レイチェルが疑問を口にする。

「いや、会合の時ならともかく普段なら気を抜いて誰かに聞かれるような場面で話をしてしまう可能性も0ではないからな、保険として丁度いいんだよ」

「なるほど…気を付けていてもミスは起きるかもしれない」

セイガはそれを聞いて、改めて気を引き締める。

「だから私がきたんですよ~出来るだけ皆さんに負担にならない形で生活してもらえるように~」

 それが学園側の配慮だったのだ。

「まあ、これでここでの話は終わりじゃのう…どっと疲れたわい」

 店主が肩を鳴らす、ユメカも安堵のためか大きく息をはいている。

「最後に何か質問はありますか?」

 壁際にいた秘書だ。

 その時はじめて、アルザスが口を開いた。

「封印の効力は、枝世界に移動している間にも適用されるのか?」

「はい~私はそれぞれ個人に力を使ったので、その方が何処にいようとその周囲の時間に作用することができますよ~」

 アルザスは

「そうか、それならいい」

 嗤ったように見えた、おそらく枝世界に渡ることも多い彼なりの事情からだろう。

「あのっ」

「聖河さん、まだ何か?」

 セイガが学園長の方を向く、もうひとつ気になることがあったからだ。

「はい…今後の…私達の対応について…相談があります」

「…そうでしたね、それに付いてはわたくし達学園ではなく…」

「俺達…『デズモス』が受け付けるぜ」

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