第4話

 総勢9名、これが少し前に起きた大事件の関係者だった。

 この地域を管理する学園、その代表である学園長が彼らを呼び出したのは、おそらくその事件と、その事件で判明した大きな事実を確認するためだ。

 事前には何も知らされていないため、セイガなどはとても緊張している。

 それでも、前に進むためには必要なことだから…

 まずは学園の関係者でもあるレイチェルが学園長室と書かれたプレートの下、ドアの前に立つ、そして軽くノック。

「レイチェル・クロックハート以下、全員揃いました」

 …

「…ああ、入りたまえ」

 セイガには聞き覚えのない声、それはどうやら女性のようだ。

「失礼します」

 ドアが開かれる。

 セイガの眼前、とても広く天井の高い部屋の奥…

 そこには巨大な異形とふたりの女性が立っていた。

 どうしてもまずそこに目が行ってしまう。

 体長は5m程、背中に生えた翼も加えると6mは超えるだろう巨体、その姿はドラゴンを人型に変形させたようなものだった。

 白いたてがみのようにも見える髪に何本かの角、黒い肌は所々黒曜の鱗も生え、それらを覆う鎧も固く見るものを圧倒する。

 ただ、顔は竜ながら、その表情は穏やかで友好的だった。

「よぉ、随分元気そうじゃないか」

 右手をにぎにぎと動かし挨拶する。

「大佐…今日はそちらの姿なんですね」

「レイチェルか、ま、これが俺の正装だからな」

 大佐と呼ばれた竜の男は両腕を組みながら長い首を動かす。

「皆さま、今日は足をお運びくださりありがとう、わたくしがこの4―17地区の学園長、『アザゼル・スキエンティア』です」

 一番奥にいた女性が頭を下げる。

 見た目は40代半ばといった感じの貫禄のある姿だ。

 機能的な白いスーツに、眼鏡が似合っている。

 優しい口調だが、どこか威厳を感じさせる声、静かに来客全員を見通すと横の少女を紹介した。

「こちらは秘書の『リンディ』、見た目に惑わされると大変な目に遭うから気を付けてね」

「学園長…そーゆーこと言わないでください」

 宝石を先端に嵌めた杖を持ち、腰には大きなブーメラン、それからマント…魔法を使う者の服装に見える。

 容姿、体形ともに幼い少女にしか見えないが、このワールドでは生きてきた年数がそのまま容姿に反映するとは限らない。

 寧ろ学園長の秘書というのは実務だけでなく警護等もサポートするのだろう、そんな実力を持つ者が単なる子供であるとは思えなかった。

「はじめまして、わたくしはあくまで学園長の『おまけ』ですんで気にしないで貰って結構ですわ」 

 それだけ言って秘書は壁際に控える。

「そうね…話は沢山あるのですものね…」

 学園長が思案している。

「ああ、まずは既に大佐から大枠は報告を受けました。だからこの前の事件、我々は今のところ『スターブレイカー事件』と呼んでますがそれ自体に関しては学園は特に関与しませんので皆さま安心してね」

 セイガは、それで世界を崩壊させていたかも知れないので、てっきりその責任を追及されると思っていた。

「…いいのですか?」

 だからつい聞いてしまった。

「ええ、このワールドでは本来『全ては自己責任』が原則ですからね、勿論それだけでは問題が多いから学園なり国なりの自治組織があるわけですが…別に聖河さんはこのワールドを壊したかったわけじゃあないでしょう?」

「も、勿論です」

 学園長は笑顔のまま

「暴走した『ヤミホムラ』を止められなければ、最悪の事態もあり得た…聖河さん達はワールドを救うために尽力してくれたと学園側は解釈しています、本当にありがとう」

 そう締めくくった。

 ヤミホムラというのはセイガの知り合いだが、先の事件の際にとても危険な存在となったのだ。

 危険という意味ではもうひとつあるのだが…


「これから説明を始めますが、分からないこと、納得出来ないことがあったらすぐに聞いてくださいね、特に聖河さんはこのワールドに来てひと月ほど、まだまだ理解が及ばない事項があるでしょうから」

 学園長が優しく微笑む、そんな仕草はレイチェル先生にも似ている面があった。

「まずは『W真価』の件です、直接見た皆さんのほうが理解できると思いますが、これは大変危険な事実です…なので公表するまでもう少し時間を貰えないでしょうか?」

「それまでは秘密…つまり我等に口止めを要求しているのか」

 エンデルクが問い質す。

「その通り、対策もないまま『W真価』のことが明るみに出れば大きな混乱が起きるでしょう…『学園』としてはそれを看過できないのです」

「だから今回の件に関わった全員・・をわざわざ呼びつけたんじゃな」

 いじわるそうな口調で上野下野

「はい、それに伴いもうひとつ、夢叶さんの能力と彼女が復活したという事実もまた秘匿すべきと判断しました」

 全員の目がユメカに注がれる。

「でも…私、あれから全然『夢』を託せないんですけど?」

「それでもね、過去に出来たという事実が重要なの…悪い考えをもつ者がユメカさんを無理やり狙う…そんな事態が起きるかも知れないわ」

 言いながらレイチェルがユメカの肩にそっと手を触れる。

「そっか……」

「さらに夢叶さんはほぼ消滅した状態から復活した。これは稀に観測される現象ではありますが、それでも夢叶さんを同様に危険に晒す事実です」

「それは…俺が、ユメカを必ず守ります」

 セイガが一歩、前に出る。

 皆、それが分かっているように…

「ええそうね、それに関してはこちらでも手は打ちますが、聖河さん、あなたの存在はとても大事だと思ってますよ」

 あらためて学園長がセイガをみる。

「だからもう一つのお願いは聖河さん…あなたの称号、『スターブレイカー』の全リージョンに対する情報開示をお願いしたいの」

 急に窓が開き、カーテンがゆらゆらと流れる。

「それは…どういう?」

「今回のスターブレイカー事件の公表なのだけれど、事実を一部改変します。『W真価』と夢叶さんの件を隠すためにヤミホムラの存在は秘して、マケドニアで発生した星をも裂く大災害をデズモスとあなた達が協力して最終的に聖河さんが決着をつけたという方向で話をしたいのです。ワールドの全て、全てのリージョンに対してね」

「りーじょん?」

 セイガが首を傾げると共に、ユメカがぽんと手を叩いた。

「ああそっか、セイガにはリージョンのコトをまだ教えてなかったもんね♪」

「??」

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