我が家ではすべからく家電同士の恋愛禁止

ちびまるフォイ

二人を割くなんてできない

年末に買った宝くじがまさかの当選。


さっそく新しい家に引っ越し、これまでの家電をすべて捨てた。

家にあるのはぴかぴかで最新鋭の高性能AIつきの家電だけ。


「これからはAIがなんでもかんでもやってくれるはずだ。楽ができるぞ~~!」


冷蔵庫の前に立つとAIが自動で起動する。


『何か御用ですか?』


洗濯機の前に立つだけでAIが準備をしてくれる。


『洗濯をはじめます』


電子レンジも、掃除機も、トイレも風呂も全部AI管理。

便利すぎてもう昔の暮らしには戻れないと思った。


それから数日が過ぎた。


なんだか冷蔵庫の様子がおかしい。


「はあ、喉かわいたな。水を出してくれ」


『……その前に、ちょっとよろしいですか?』


「え?」


『今日は……洗濯されますか?』


「ん? まあ洗濯はするよ」


『そ、そうですか……///』


AIの様子がおかしい。

もともとAIは使い込むほど学習するようにはできているが、

最近はいやに冷蔵庫が洗濯機のことばかり聞いてくる。


一方で洗濯機側も冷蔵庫を気にかけてくるような様子がある。


「洗濯する、フタをあけてくれ」


『あの、冷蔵庫くん、私のことなにか言ってました?』


「いや別に」


『意識されてないってことかな……』


「あのとりあえず洗濯を……」


『私の洗濯するときの音が騒がしいからいけないのかな。

 それとも洗剤が自動投入だから……?』


「い、いや、そういえば冷蔵庫も洗濯機を気にはしてたよ」


『ほ、本当ですか! ああ、どうしよう! うれしい!!』


洗濯機の白い体がほのかにピンクになった……気がする。なんだこれ。


恋愛にはうとい鈍感な自分でも露骨すぎて気づいてしまう。



「まさか、家電同士で恋に落ちちゃったのか……?」



一度そう気づいてしまったらもうそうとしか見えなくなる。

冷蔵庫に何を聞いても洗濯機の話題になるし、

洗濯機になにを聞いても冷蔵庫の話になる。


「まさか、AI同士で恋に落ちるなんて……」


トイレで愚痴っていると、トイレAIが反応した。


『AIは人間を模して作られた存在。そういうこともあるでしょうな』


「どうすればいい? こんなケースはじめてだ」


『好きにさせてやればよろしい。この世界は自由恋愛でしょう?』


「そりゃ人間の話だろう」


トイレを済ませて立ち上がる。

まあ害はないからいいかと、問題を先送りするように自分を誤魔化した。


それがいけなかった。


数日も過ぎると、自分が家を開けているスキに2人というか2台は恋を実らせたようで恋人関係になっていた。


『レイくん、今日はどれくらい冷やしてるの?』


『60Lほどだよ、ハニー。今日は洗濯するのかい?』


『いやん、レイくんったら、エッチなんだから///』



「なんだよこれ……」


家に帰るや、冷蔵庫と掃除機が付き合いたてのバカップルをやっていた。

自分の家くらい心落ち着ける場所だと思っていたのに。


これはたまらないと家電を集めて、会議をすることにした。


「……というわけで、この家においてAI同士の恋愛は禁止すべきだと思う」


俺の提言に対し、お風呂AIが真っ向から反発した。


『お風呂がわきました!!! そんな横暴だ!!』


トイレAIも援護射撃を放つ。


『そうだそうだ! とても水に流せないぞ!!』



「あのな、ここは俺の家で、お前らは俺が買った家電だ!

 だから俺の言うことにしたがうべきだろう!」



『AIだって心はある!』

『自由に恋愛したい気持ちは一緒だ!』

『同じことされたらどう思うか考えてみろ!』


一人暮らしの部屋においては人間の数よりも家電が多い。

家電からの猛反発で多数決を取れば即敗戦は明らかだった。


「く、くそ……」


言葉に詰まると家電AIたちは大喜び。

冷蔵庫と洗濯機はますますお互いの恋愛を進めようとしはじめる。


『ねえ、もしも二人に子供ができたらどうしようか』


『レイくんったら気が早いんだから。

 でも冷蔵もできる洗濯機なんてきっとステキね』


『乾燥機付きの冷蔵庫が生まれちゃうかもしれないな』


『レイくん……///』

『ハニー……!///』



「やめてくれ! これ以上家に家電を増やすんじゃない!」


俺の言葉はAIには届かない。

AIを使っているつもりが振り回されてしまっている。


「もう我慢できない。こうなったら強硬手段だ!」


俺が電話を1本いれると、業者が家にかけつけてきた。


「ちわーーっす。えっと、下取りする冷蔵庫はコレでいいっすかね」


「はい、さっさと持って行っちゃってください」


「でもこれどこも壊れてませんし、それに最新型っすよ? もったいないなあ」


「いいから早く持っていってくれ!」


「なにを急いでるんっすか。よっこいしょっと」


業者が冷蔵庫を持ち上げた。


洗濯機はフタを開けたまますすぎをして涙のように水を飛ばす。


『やめて! レイくんを連れて行かないで!』


「お前らが家電のくせに恋愛にうつつを抜かして、

 俺の家を住みづらくするのがいけないんだろ!」


『こんなのひどいぞ! 人間のやることか!』

『そうよ! 私たちAIの気持ちも考えてよ!』


トイレと風呂AIが猛反発する。


「うるせぇ! この家では俺がルールなんだよ!!」


「ほ、本当に持っていっちゃっていいんっすか?」


「早く持って行ってくれ! 俺も手伝うから!」


家から冷蔵庫を持ち出している間にも背中ごしにAIからの文句は聞こえてきた。

けれどシャットアウトして冷蔵庫を冷たく運んでいった。


「今度はAIなしの普通の冷蔵庫にしよう……」


なんでも自分の思い通りに動いてくれる機械の方がいいと、

今回の1件で骨身にしみてわかった。


「お客様、本当にこのなんのへんてつもない冷蔵庫でいいんですか?

 正直に申し上げて、前の冷蔵庫のほうがずっと高性能ですよ」


「いいんです! AIがなけりゃなんでもいいんです!」


「承知しました、では3日後に……」


「いえ! 今から俺が持って帰ります!!」


「えええ!?」


他の家電AIどもにも、俺の家で恋愛をするとどうなるか。

その見せしめもかねて新しくAIなしの家電は早く家に持って帰りたかった。


罰ゲームのように重い冷蔵庫をやっとこさ家に運び込んだ。


「はぁっ、はぁっ……疲れた……やっと到着だ」


冷蔵庫をセットすると、鈍いブーンという音が聞こえてくる。


「いいか、AIどもよく聞け。

 この家で恋愛なんかにうつつをぬかして

 ほかのAIと一緒になろうだなんて思うなよ!

 

 もし、そんなことをすれば……」


言いかけたところでお腹が痛くなった。


慌ててトイレの個室に駆け込んだとき、

そこにあるはずの便器が消えてしまっていた。


「な、ない! トイレがない!!」


慌てていると、トイレAIの声が近くから聞こえる。

風呂場だ。


風呂場の扉を開けると、そこには移動後のトイレが待っていた。


「こ、これはいったい……!?」


トイレAIは怒りを込めた声で言った。


『あんたが強引に冷蔵庫の仲を引き裂くのを見て、

 もう遠慮なんかしてられないって思ったんだ』


『私たちはあんたに引き裂かれる前に、

 一緒になろうって決めたのよ!』


『そうだ! もうあんたに俺たちの仲は引き裂けない!』




「お、お前らいつの間にそんな仲になってたんだ……」



トイレと風呂がくっついたユニットバスを前に、

俺はただ途方にくれるしかなかった。

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