ドラゴンスレイヤーは斧使い 〜無実の罪で国外追放されても最強の勇者をめざす主人公は、王国を救って騎士に成り上がる〜
二条 遙
第1話 ドラゴンスレイヤー、無実の罪に問われる
俺はグラートだ。ファミリーネームはない。
俺は孤児だったが熟練冒険者にひろわれた。
そして屈強な冒険者として育てられた。
十七歳になった頃、流行り病にかかった義父と死別して、俺は生まれ育った
しばらくひとりで旅をしていたが、よその冒険者から声をかけられて冒険者ギルド「勇者の館」に入団した。
俺はギルドでひたむきにはたらいた。
その功績がみとめられてサブマスに任命された。
その頃、ブラックドラゴン・ヴァールが王国に攻めてきた。
ヴァールは凶悪な魔物たちを従えた魔王だった。ヴァールの侵攻によって各地の城や関所が破壊され、多くの街や村が滅ぼされてしまった。
ヴァールの侵攻をだれかが止めなければならない。だが、王国の騎士団では止めることができない。
俺はギルドの反対を押し切り単身でヴァールに突撃した。
ヴァールは強かった。
城よりも大きい体躯と、炎と毒のブレスを駆使する攻撃は山を焼き、川を死体でせき止めた。
しかし、ひと月におよぶ激闘の末に俺はヴァールを討ち滅ぼした。
人々からやがて、俺はドラゴンスレイヤーと呼ばれるようになった。
* * *
「ふんっ」
なだれのように押しよせる翼竜たちにヴァールアクスを一閃する。
ヴァールの魔力を秘めた斧は強烈な真空波を発生させて、奇声を上げる翼竜たちを彼方まで吹き飛ばした。
「おお!」
「すげえっ」
俺の後ろにいるギルメンと兵士たちが歓声を上げる。
「後方支援なら、まかせてねぇ」
アダルジーザが後ろから攻撃速度アップのバフをかけてくれる。
彼女はギルドに入る前からの知り合いで、回復魔法とバフに特化した魔道師だ。
「アダル、いつもたすかる!」
「えへへ。グラート、がんばってねっ」
雲のように軽くなった身体で斧をさらにふりまわす。
魔物たちの塊は砂の山のようにくずれ去っていく。
「これで終わりだ!」
ギルメンのシルヴィオが双剣を低くかまえて、魔物たちの塊に突進する。
シルヴィオは熟練の冒険者で、
後方支援のアダルジーザに、攻撃特化型のシルヴィオが加われば俺たちは無敵だ。
俺は腕を伸ばしてヴァールアクスを魔物たちの群れに向けた。
「敵はくずれた。一斉に突撃して止めを刺すのだ!」
「はっ」
「ドラスレ様が授けてくれた勝機を逃すなぁ!」
国の兵士たちの喊声が戦場にひびきわたる。
ギルメンと兵士たちは果敢に魔物たちへ斬りかかっていった。
「グラート、お疲れさまぁ。もう、大丈夫なんじゃない?」
アダルジーザが汗ふきタオルを差し出してくれる。
「そうだな。敵は完全に瓦解した」
「グラートがいれば、どんな敵が来ても、へっちゃらだよねぇ」
そんなことはない。俺はまだまだ若輩者だ。
「アダルさんの言う通りです。グラートさんは強い。俺なんか足もとにもおよびません」
ギルメンのシルヴィオは今日も謙虚だ。
「そんなことはない。俺は斧しかふりまわせないから、シルヴィオのように小回りが利かないのだ。これからも俺をサポートしてほしい」
「そんな、サポートだなんて……。グラートさんから毎日学ばせてもらっていますよ」
アダルジーザが俺のとなりでにこにこしている。
「グラートさんは最強だ。ドラゴンスレイヤーがいる限り王国は永遠に不滅です! ドラゴンが再来しても、巨人の群れがあらわれても絶対に敗れませんっ」
「ふふ。そうだねぇ」
遠くの戦場から兵士たちの喊声が聞こえてくる。
「でもぅ、グラートがドラゴンを倒してくれたのに、魔族はまだ攻撃してくるんだねぇ」
「そうだな」
「ドラゴンがいなくなれば、魔族もおとなしくなると思ったんだけど。どうしてなんだろうねぇ」
ヴァールはヴァレダ・アレシア王国の北にあるアルビオネという地を治めていた。
魔王であったヴァールが去り、アルビオネの国内はヴァールの残党があばれているという。
ヴァールの残党の中には、今回のように王国へ侵攻してくる者たちもいた。
「ヴァールの残党など恐れるに足りません。やつらはしょせん、烏合の衆。ヴァレダ・アレシアにグラートさんがいるかぎり、俺たちが敗れることはありえません」
「シルヴィオ、油断は禁物だ。敵の勢いがおさまったとはいえ、敵の数はいまだ計り知れない。おごらず、実直に対処すべきだろう」
「は。グラートさんが、そう言うのならば」
シルヴィオが
「またぁ、大きいドラゴンがあらわれなければ、いいんだけどねぇ」
アダルジーザが遠くの戦場をながめて、そっとため息をついた。
* * *
首都ヴァレンツァにあるギルドハウスは、今日も多くのギルメンたちでにぎわっている。
「ドラスレ様だ!」
「サブマス、おかえりなさいませ!」
一階のロビーに入ると部下のギルメンたちが俺をねぎらってくれた。
「ご苦労。ギルドハウスはとくに変わりないか?」
「はい。街もギルドハウスも問題は起きておりません」
赤いマントに身をつつんだギルメンが返答してくれた。
「わかった。王国の騎士団と連携して街の警備を怠らぬように」
「わかりました!」
ヴァレンツァは今日も平和だ。
「グラート。今日はもうお仕事ないから、お部屋でゆっくり休んでねぇ」
「ああ。アダルもゆっくり休め」
アダルジーザが白いローブのすそをゆらしながら、ギルドハウスの階段を上がっていった。
街も国も平和だ。
魔物のおさまらない攻撃に一抹の不安を感じるが、ブラックドラゴン・ヴァールに襲撃された、あのときのような危殆は感じない。
俺の肩にかけられているヴァールアクスがうずいている。
ヴァールの牙を削り鱗で完璧に補強した最強の斧だ。
極限まできたえあげた武器だというのに、その真価を発揮する場面に遭遇しない……。
「さっきから何を考えている。街が平和であるのは幸せなことなのだ。滅多なことを考えるな」
ギルドハウスの最上階に設けられた一室でヴァールアクスを壁にかける。
窓ガラスから望む街はゆるやかな空気が流れている。
「サブマス。ギルマスがお見えです」
「わかった。通してくれ」
ギルメンが部屋を開ける。
おかっぱ頭のギルドマスター・ウバルドが白い顔をさらしていた。
「ギルマス。何か用か?」
「ふん。今日もずいぶんと帰りが早いんだな」
ウバルドがずかずかと歩いてリビングのソファにどかりと腰を下ろす。
「今回のヴァール残党狩りもさほど手こずらなかったのでな」
「手こずらないとわかっている討伐をあえてこなして人気とりのつもりか? 見かけによらず、ずる賢い男だ」
最近、ギルマスは何かにつけて俺に文句を言うようになった。
俺に嫉妬しているからだとシルヴィオが前に言っていたが……。
「人気とりのつもりではない。王国の要請に応じているだけだ」
「ヴァールの残党など下っぱにまかせておけばよかろう。お前にはサブマスとしてやるべき事務処理があると、前に言っておいたはずだ」
「新規加入したギルメンに与える装備の整理と発注ならすでに終えている。班の配置と教育担当との会話も済んでいる。不安があるなら自分で教育担当に問い合わせてくれ」
最近、ギルマスとの会話がつらい。
俺はなるべく平静を装うようにしているが、目を合わせて会話することができない。
「貴様……っ」
激しく恨むギルマスの視線が俺の胸をつらぬいていた。
「ドラゴンスレイヤーなどと呼ばれてるからって調子に乗るなよ」
「は? 何を言っている」
「貴様が人気とりに走ってるのは、俺からいずれギルドを乗っとるためだろう。そんな見えすいた策略にはめられる俺ではないぞっ」
ギルドを乗っとるだと!?
「あなたはさっきから何を言っているっ。気はたしかか!」
「たしかさ! うちのギルマスにふさわしいのは自分だと、ギルメンたちに吹聴させてるのはお前だろうっ。そのくせ、外ではザコを討伐して国民と騎士団におべっかか? ふざけるのも大概にしろ!」
ギルマスはさっきから何を言っているんだ。
ギルメンたちに、吹聴……?
「ギルマスがさっきから何を言っているのか、俺にはまったくわからない。俺はギルメンたちを扇動なんてしていないし、ギルドを乗っとるつもりもない。
俺はあなたに逆らわず、ギルドに忠義を尽くしてきた。それなのにギルマスは俺を疑うのか。それはあまりに無情ではないか」
最近、俺はギルマスと会話できていないから、妙な疑いをかけられているのかもしれない。
だが、長年付き従ったギルマスは俺を信じてくれるはず……。
「俺が無情だと? くっくっく。笑わせるな」
ギルマスの白い顔がわずかな期待をにぎりつぶした。
「サブマス。シルヴィオさんがお見えです!」
シルヴィオが!?
部屋に入ってきたシルヴィオの顔に、普段の精悍さが感じられなかった。
「グラートさん。すみませんが、部屋をこれから検分します」
「検分……?」
「王国の宝をグラートさんが宝物庫から盗んだと、先ほど連絡が入ったんです」
王国の宝を盗んだだと!?
シルヴィオに続いて兵士たちがどかどかと部屋に上がり込んでくる。
俺の部屋の棚から乱雑に物をどかし、書物を床に投げ捨てていく。
「お前の栄光はここまでだ」
ギルマスが両肘をついて、あざ笑うように俺を見ていた。
さっきから何が起きているんだ。
王国の宝を俺が盗んだのか……?
王国の宝なんて、俺は想像すらしたことがない。
宝物庫の場所だって知らないというのに……。
「あったぞぉ!」
寝室の奥から若い兵の声がなりひびいた。
思わず立ちくらみが起きそうな感覚をこらえて寝室へと移動する。
机とベッド。そして小さなテーブルしか置かれていないはずの寝室には、金銀財宝がなぜか山のようにつまれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます