魔法使いのおっさんの若返り ~堕落した勇者の不正を知ってパーティから追放されるも、女神の力で若返って勇者に仕返しする~

二条 遙

第1話 勇者の面接

「それでは行ってまいります、ユミス様」


 運命の女神ユミス様に祈りをささげて出支度は終わりだ。


 今日の面接で、私が勇者様のパーティに加入させてもらえるかどうかが決まる。


 今から五年ほど前、魔王を倒した勇者ディートリヒ様。


 そんなご高名な方が仲間をさがしていると知って、ダメ元でパーティ加入の申請をしてみた。


 百名以上の応募があったようだが、私は最後の面接まで残ることができた。


 ヴェンツェル・フリードハイム、四十二歳。


 今日の面接が受かれば、この貧乏な生活とお別れだ。


 こんな隙間風が吹くあばら家から引っ越して、石造りのもう少し立派な家に住むことができるのだ。


 革のバッグのそばにかけた、かしの杖を見つめる。


 冒険者になったときに安値で購入した杖だ。


 この杖をもって、もう何年が経つのだろうか。


 杖の先はたくさんの傷がついている。石突いしづきは折れてなくなっていた。


「勇者様のパーティに入れてもらえたら、この杖も新しいものに代えよう」


 持ち慣れた杖を手に取り、革のバッグを肩にかけた。


「さあ、行こう」


 建て付けが悪い扉を押し開ける。まぶしい光が差し込んできた。



  * * *



「ヴェンツェルさん、だったっけ」


 酒場の個室に案内されて、勇者ディートリヒ様が私とまるいテーブルをはさんでいる。


 昼間の酒場は準備中だから、お客さんが入店しないこの場所をあえて面接の場所として選んでいるのか。


「前にもたしか会ったことあるよね。そのときはクリスが担当してたような気がするけど」


 ディートリヒ様の年齢はわからないが、私より十歳以上も年下だろう。


 私のような底辺の魔法使いとも気さくに話してくれる。


「はい。以前の面接ではクリストフ様が面接を引き受けてくださいました」


「だよねー。あいつ、質問とかちゃんとやってた? バトルでも盾もって突っ立ってるだけだから、ちゃんと面接してたか不安なんだよねー」


 クリストフ様は勇者パーティでタンク職(壁役)を務めていらっしゃる。


 勇者様はきっと謙遜なされているのだろう。


「クリストフ様はお優しい方ですので、私に鋭い質問を投げかけたりされませんでした」

「あはは、それじゃ困るんだけどねー。まあ、いいや。あいつの話をしたいわけじゃないし」


 こんこんとノックされ、白いエプロンをつけた女がトレイにふたつのコップを乗せていた。


「時間の無駄だから、さっさと本題に入ろう。ヴェンツェルさんは魔法使いなんだっけ」

「はい。水と風の魔法スキルを習得しております」


「水と風? レベルはどのくらい?」


「ええと、どちらも初級ですが、水魔法は初級レベル十でカンスト、風魔法はまだ初級レベル五ですので習得中でございます」


 魔法は火、水、土、風の四大元素にくわえ、光魔法が存在する。


 魔法はスキルの等級として初級と上級があり、どちらもレベル十まで習得することができる。


「まだ初級なのかー。上級魔法があれば、いろんなパーティに参加しやすいのにねー」


「はい。冒険者ギルドでは初級魔法しか学べませんので。上級魔法を師事してくれる方が見つかればいいのですが……」


 上級魔法を習得するために、達人と呼べる人物に師事しなければならない。


「まあ、おぼえてないもんは、しょうがないもんねー。そのうち、なんとかなるよ」


 この面接を受ける前から、ずっと気になっていることではあるけど……勇者様って存外軽いお方だよな……。


「初級魔法だって種類は多いんだし、まあなんとかなるっしょ! 威力はちいさいけど、上級魔法なんかなくたって全然やっていけるって」


 ここは「なら、俺の仲間から教わりなよ」と言ってほしかったが……。


「歳は四十だっけ?」


「いえ、今年で四十二になりました」


「ああ、そうなの? じゃあ、冒険者やって十年くらい経ってる感じ?」


「いえ……お恥ずかしい話ですが、冒険者になってまだ二年目になります」


「冒険者になってまだ二年! 四十超えてるのにっ?」


 勇者様の驚かれている姿に胸がちくりと痛んだ。


「私は田舎でずっと畑をたがやしていたのですが、二年前に母をうしない、畑も干ばつで干上がってしまったのです」


「ふーん。だから冒険者になった感じ?」


「はい。農民では食べていけないので、思い切って冒険者の道を選択しました」


 冒険者は二十代の若者が多い。


 凶悪な魔物と戦ったり、山奥のダンジョンを探索する職業だから、本来ならば私のようなおっさんが務まる職ではないのだ。


「四十代だとパーティ加入申請を出しても面接で落とされるでしょ」


「はい。だいたい、年齢のせいで面接を落とされてきました」


「いろいろと大変だったんだねー。ま、いいや。若いやつより、おっさんの方……熟練者の方がよかったし」


 いいのか? 冒険者にとって年齢は最重要事項だと思うが……。


「攻撃魔法、けっこう使えるんでしょ? うちはタンクとヒーラ(回復役)がいるし、それに、ほら。俺はごりごりの武闘派だからさ! バランスとれたパーティになると思うぜ」


 勇者様が親指で自分を指して、にっと笑った。


「そう言ってもらえるのでしたら、うれしいです」


「じゃ、結果は後で送るから、面接はこれでおしまい!」


 勇者様が、ぱん、と両手をたたかれて、最終面接は意外とあっさりと終わったみたいだ。


「ヴェンさん、メシ食ってくでしょ」


「メ、メシですか……?」


「あれ。ノリ悪いなー。ここのメシうまいんだぜ。絶対、食ってった方がいいって!」


 随分と気さくな方だけど、この人は本当に魔王を倒した方なんだよな……。


「どうせ、毎日やっすいパンしか食ってないんだろ? たまにはいいもん食っといた方がいいって。あ、ここの食事代は割り勘だからねー」


 ……何がなんでも、この面接に受かってやるんだ。

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