クラス転移でハズレ職を押し付けられた『ガチャテイマー』、実は異世界最強 〜★1魔物しか召喚できない無能だと思われていたが、俺だけ同じ魔物を合成して超進化できる〜
蒼月浩二
第一章(約11万字)
プロローグ:異世界転移
「おめでとうございます。皆さんは神である私により勇者に選ばれました!」
宇宙空間のような背景の何もない場所。
『神』を名乗る若い身なりの男は、俺たちに向けてそのように告げた。
俺の名前は
黒髪黒目のどこにでもいるちょっと陰キャな高校生だ。
朝のホームルーム中、急に意識がなくなり、気付けば蒼海高校一年C組の生徒・担任の三十一名全員がここに転移してしまった。そして、今に至る。
「は? さっきから何わけわかんねえこと言ってんだテメー。意味がわかるように説明しろ!」
――という言葉の主はもちろん俺ではない。
同じクラスの問題児、
普段は教室で騒いだり、放課後に不良行為をしていたりと、俺のような真面目が取り柄の陰キャとは別世界の住人である彼だが、今この瞬間ばかりは同じ感情のようだ。
「ですから、先ほど申し上げた通りです。皆さんは別の銀河にある水の
神はやれやれと嘆息し、言葉を続ける。
「《アクア》が存在する銀河では、あなたたちの銀河とは別の物理法則があるのです。剣技や魔法を用いて魔物と戦うことになるでしょう。そして、適性が認められた皆さんには、これから短くない間に目覚める魔王による災厄から世界を守る使命が与えられたのです」
言葉の意味は理解できるが、あまりにも現実感がなさすぎて理解が追いつかないというのが皆の感想だろう。
もしすべてが事実だとすれば、まるでゲームの世界である。
「つまり、あなたは異世界で魔物と戦わせるために俺たちを召喚したということですか?」
「ザッツライト。君は聡明だね、理解が早い。優秀だ」
「フッ」
眼鏡の学級委員長、
成績優秀でスポーツ万能、コミュ力にも長けている完璧超人である。
「じゃあ、話は早いですね。僕たちはこれまで通り、普通に高校生活を送りたい。《アクア》とやらに興味はありませんし、世界を救う気もありません。僕たちを呼び寄せたように、元の世界に帰してください」
片桐が俺たちの言いたいことを全て言ってくれた。
そうだ! とヤジが飛ぶ。
しかし――
「それはできないですね」
「な、なぜですか⁉」
「はるか遠くの銀河から皆さんを呼び寄せたことで莫大なエネルギーを消費しました。皆さんを元の世界にお戻しする術がないのです」
「そんな……!」
「ご安心を。これから目覚める魔王による災厄から世界を救うことができれば、成長の過程で元の世界に帰る程度のことは容易くできるようになることでしょう」
どう安心すればいいのかわからないが、唯一わかったことは今のところ元の世界に戻る術が無いということくらいか。
「ざっけんな! 《アクア》だか銀河だか知らねえけど、そんなになんとかしたいんならテメエがやればいいだろうが!」
怒りに耐えかねた遠藤が神に掴みかかる。
しかし、神は動じた様子もなく淡々と質問に答えた。
「神は、世界の観測者に過ぎないのです。私が世界に直接干渉することは許されません。それと、《アクア》を救うことはあなたたちにも利益があることなのです」
「なに⁉」
「宇宙は繋がっているのです。《
「……だ、だとしても! なんでよりによって俺たちが!」
「ということで、よろしくお願いしますね☆」
神は遠藤の手をほどくと、俺たちに向かってニッコリと微笑んだ。
「待て。まだ話は終わっていない」
これまでずっと神と生徒の会話を静かに聞いていた担任の
稲本先生の年齢は三十五歳。体育の教官ということもあり、同世代の三十五歳と比べて筋骨隆々の引き締まった肉体をしていることから、かなりの威圧感がある。
「私は生徒たちを預かる身として、危険をみすみす放っておくことはできない! それに、そもそも我々には君が期待するような魔物とやらと戦う力はない!」
「ああ、それはご安心を」
神はにっこりと微笑み、右手を天に掲げた。
すると――
「な、なんだこれは!」
空から、赤・青・黄……様々な色のシャボン玉が三十一個落ちてきたのだった。
よく見ると、その泡の一つ一つには、《剣士》、《魔法師》、《盗賊》など文字が刻まれている。
「皆さんのために三十一個の《職業》を用意しました。《アクア》では、すべての人間は生まれながらにして一つ以上の職業を持っています。《地球》の皆さんは、ここから生涯の職業を一つ選ぶと良いでしょう。なお、私は皆さんの適正を知りませんから、相談して決めてくださいね。それでは!」
そう言い残すと、神は姿が薄くなっていく。
「お、おい! ちゃんと説明を……」
稲本先生が神を捕まえようとするが、触ることはできず、そのまま消えてしまった。
「……こうなった以上は仕方がない。職業を選ぼう」
「言いなりになるのは癪に障るが、致し方ないな。みんな、泡を一か所に集めてくれ」
まずは状況確認ということで、どういった職業があるのかを委員長の片桐と稲本先生で手分けして確認していく。
『剣士★1』、『魔術師★1』、『盗賊★1』、『強剣士★2』、『銅回復術師★3』『銀魔術師★4』、『金魔術師★5』、『金弓師★5』、『金舞踏家★5』、『金剣士★5』、『金回復術師★5』、『ガチャテイマー★なし』……etc。
泡の違いを探っていると、少し特徴が見えてきた。
泡には、職業名に加えて星が刻まれていた。
星の数は職業名事に違い、強そうな職業名になるほど星の数が多く、逆に弱そうな職業名になるほど星の数が少なくなっている。
それぞれの割合は、★1が七個、★2が六個、★3が六個、★4が六個、★5が五個、そして★なしが一個。
稲本先生が全員への情報共有を始めた。
「みんな、聞いてくれ。職業名の裏には星がつけられている。これは、おそらく職業の強さを示していると思う」
生徒の間でどよめきが起こった。
「強い職業の方が生き残りやすいってことだよな⁉」
「当たりは誰になるんだよ⁉」
「誰かが貧乏くじ引かなくちゃいけないってこと⁉」
パンパン!
稲本先生は手を叩き、一旦場を落ち着かせる。
「皆、狼狽えるな。職業にはそれぞれ優劣が決められているようだが、クラス一丸となって協力していくんだ。誰が当たりだとかは全く関係ない! 逆に、強い職業を選んだ者は皆のために身を挺して戦わなければいけない責任があるとも言える!」
稲本先生の言葉で大半の生徒は落ち着きを取り戻したようだ。
「た、確かに先生の言う通りだ……」
「そうだ! 誰がどの職業になるかなんて関係ない!」
「私、よく考えたら戦うなんて無理……★5は他の人に任せたいかも?」
とはいえ、単に状況を言い換えただけ。誰かが当たりくじを引いて、誰かが代わりにハズレくじを引くという構図は変わらない。
「そこでだ。力が強い順に★が多い職業を選ぶということにしようと思う。戦いのセンスがある者に強い職業を割り振った方が無駄がないというのが理由だ。異議のある者は?」
「はーい」
手を挙げたのは、クラスの一軍女子で、遠藤の彼女の
高校生には相応しくない巻き髪をわさっと揺らし、稲本先生の提案に異議を唱えた。
「力の強さって、男子が有利じゃないですかぁ? 魔術師とか回復術師なら女子もできると思うんですけど」
「ま、まあ。気持ちはわかるが……」
生徒の大半が何言ってんだコイツという空気になっていたのだが――
「先生、このクラスで喧嘩一番強いの俺なんで、俺が★5だと思うんすけど、亜理紗……じゃなくて女子も一緒の方が守りがいあって戦える気がするっす」
彼氏の遠藤による援護射撃。
それはお前の私情が混ざっているだろう……というツッコミはさておき、これによって流れが一変する。
「うーむ、遠藤がそこまで言うなら……」
ということで、『金剣士』、『金武闘家』、『金弓師』の三つを男子の中から選ぶこととなり、『金魔術師』と『金回復術師』の二つは女子の中から選ぶこととなった。
「じゃあ、アタシが金魔術師で、彩希が金回復術師ね! 決まり!」
「え~? できるかなぁ?」
「できるって! ギャハハハ!」
高原による半ば強引な決定で女子のもう一人の枠は同じ一軍女子で高原の親友の
問題は、男子の方なのだが――
「先生は君たち生徒より強いし、剣道ができる。金剣士は先生が引き受けよう。そして、残る二つは喧嘩が強い遠藤と、体育の成績が良い片桐に任せようと思う」
生徒の中でも半ばこの二人になるだろうと予想していたので、驚きはない。
「そして、残りは遠藤と高原が中心になって★1から★4の振り分けを考えてくれればいいんだが――旭川、ちょっと先生のところに来てくれるか」
「え?」
急に俺の名前が呼ばれたので、驚いてビクっとしてしまう。
「先生、色々と考えたんだけどな。旭川はその……いつも昼休みに本を読んでいたよな?」
「ええ……まあ、はい」
「体育は苦手で、チームワークとかも苦手だったよな?」
「どちらかと言えばそうですね。……得意な方ではないです」
「だよな!」
稲本先生が安心したように俺の肩をポンと叩いた。
「先生な、旭川君には『ガチャテイマー★なし』が向いてると思うんだ」
「えっ⁉ いや……それ、どういう意味ですか?」
「いやほら、旭川君はみんなと一緒に戦うというより戦術とか考えたりさ……なんかそっちの方が向いてると思うんだ。それに、テイマーって自分で戦わなさそうだろ?」
つまり、稲本先生はこの中で一番のハズレだと思われる『ガチャテイマー★なし』を俺に引き受けてほしい――否、押し付けたいということか。
「いや、俺は……」
パンパン!
稲本先生は、手を叩いて全員の注目を集める。
「みんな、聞いてくれ。旭川がガチャテイマーを引き受けてくれるそうだ。拍手」
パチパチパチパチパチパチパチパチ……。
三十人分の拍手が何もない空間の中に響き渡る。
それから、心にも想ってなさそうな俺を称賛する声の数々。
「旭川、男気あるな!」
「お前って本当いいヤツだな!」
「ありがとね!」
……なんだよ、これ。
俺、引き受けるなんて一言も言ってないのに。
こんな状況で、無理ですなんて言えるわけないじゃないか。
思い返せば、いつもこうだ。放課後の掃除、面倒な係、片付け。体良く押し付けられてきた。ノーと言わなかった俺が悪いことはわかってる。
今回に関しては、確かにハズレを引くのは俺が適任だったのかもしれない。
だけど……そうだとしても、せめて俺の意思で決めさせてほしかった。
その後、残りの職業振り分けが続々と決まっていき、全員の職業が決まったところで俺たちは《アクア》に転移した。
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