13
ご飯をあげて部屋の掃除をして、ついでにブラッシングとかしてみるけれど、意外と時間がかからないことに気が付くのに、数日も要さなかった。
給料は日ごとにもらえて、夕食の際に渡されるのだが、三日目にして、素敵な仕事に出会えてラッキーという気持ちより罪悪感の方が勝ってしまった。住み込みの仕事、ということで部屋代は免除されているも食事代は引かれている給料ではあるが、結構多いのだ。
「……こんなに貰っていいんですか?」
「今日の分です」とノルンさんが数枚の銀貨を渡してくるときに、つい、聞いてしまった。わたしが生まれた国とは違うから、銀貨のデザインは別だけれど、価値自体はそう変わらない。過度な贅沢をしなければ、一週間は過ごせてしまう。いや、部屋代はかからないし、食事代はすでに引かれているから、もっと持つだろう。
しかし、ノルンさんは困ったように言う。
「適正な金額をお支払いしていますよ?」
「でも、わたし、たいしたことしてないですし……」
ご飯をあげて、部屋の掃除。ブラッシングとそのついでに頭を撫でさせて貰うのは完全にご褒美なので仕事としてはノーカン。そう考えると過分にしか思えないのだ。
「貰っとけ貰っとけ。僕たちには無理なんだって、あいつの世話」
食事処の床掃除をしていたヴォジアさんがほうき片手にわたしたちのところへとやってくる。
「あいつの機嫌が悪ければ部屋にも入れない。飯はともかく、部屋の掃除だって僕とノルンの二人がかりで命がけなんだから」
「そうなんですか?」
わたしは部屋の掃除中のことを、つい思い出す。わたしが何をしていても、ラグリス――アルベアちゃんが襲ってくるような気配はない。時折、わたしの行動を見張るように、じっとこちらを見ていることはあるけれど、ただそれだけだ。「そこも掃除したいからちょっとだけどいて」と言うと、素直にどいてくれる。どいてくれるまで、ちょっと時間差があるけれど。
そういう説明をしながら、「だから流石に多すぎませんか」と言うと、ヴォジアさんが驚いたように固まっていた。
「本当に? そんな大人しいなんて……僕だって、一応テイマースキル持ってるのに、加護持ちはやっぱ違うんだな」
逆に関心されてしまった。
それにしても……。
「二人が持て余す、というなら、アルベアちゃん、どうしてここにいるんですか?」
単純な疑問を、思ったまま口にすると、ヴォジアさんが少し、眉をひそめた。
……そう言えば、ヴォジアさんのお兄さんも同じ名前なんだっけ。ちゃん付けはまずかったかな、と思ったのも一瞬。ヴォジアさんからの説明は、そんなのと全然関係なかった。
「――……預かりものなんだよ」
そう言うヴォジアさんの表情は、少しだけ、さみしそうに見えた。
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