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どきどきしながら目の前のラグリスの反応を待っていると、ラグリスは、わたしの差し出した手をすんすん、と興味深々に嗅いでいる。露骨に危険を感じているわけではないようだけど、完全に気を許しているみたいでもない。
しばらく好きなように嗅がせていると、ラグリスはペロッとわたしの指先を舐め、そして、頭を低くした。どうやら、頭は撫でていいらしい。
「では失礼して――」
わたしはラグリスの頭を撫でる。毛並みの手入れが甘いのか、期待していたよりはちょっと毛がごわごわしているものの、思った以上に手が深く沈んでびっくりした。見た目以上に毛が長いようだ。
これはしっかり手入れしたときが楽しみだな……きっとふわっふわに仕上がるに違いない。
わしわしと顔周りの毛並みを堪能していると、背後から「驚いたな」という声が聞こえてくる。
「こいつが大人しく撫でられてるの、久々に見たぞ」
声に反応してわたしが振り返ると、ヴォジアさんが部屋に入って来ようとするのが見えた。その瞬間、「ぐるるぅ」と唸り声が聞こえる。
その唸り声はヴォジアさんにも届いたようで、「やっぱり駄目か」と彼は部屋に入るのを辞めた。
「そいつの機嫌がいいときと、飯を持ってきたとき以外、ここに入れないんだよな。アンタがあっさり入るものだから、てっきり機嫌がいいと思ったんだが」
そうなのか。あっさりわたしに頭を撫でることを許してくれたものだから、てっきり人懐っこい、とまではいかずとも、人慣れしている子だと思ったんだけど。
「――ま、アンタに威嚇しないなら丁度いい。アンタの仕事は今日からしばらくそいつの世話係だ。飯を運んで部屋を掃除して、できそうなら毛並みの手入れと健康状態のチェック。できるか?」
ヴォジアさんの言葉に、わたしのテンションがどんどん上がっていくのが分かる。ショドーとひいさまを養えるだけの給料がもらえる仕事ならどんなことでもする、と思っていたけれど、まさか、お猫様の世話だなんて最高の職につけるとは思ってもみなかった。
「是非やらせてください! お猫様のために働けるなら本望です!」
わたしがそうヴォジアさんに詰め寄ると、「お、おう」と彼は随分と引いた目でわたしを見ていた。
国に入った瞬間手荷物を奪われたのには運がなさすぎると思ったけれど、全然そんなことはなかった。神はわたしを見捨てなかったのだ。まあ、わたしが猫に好かれる加護を持っている時点で、見放されていないのは明確なんだけど。
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