03
い、いや落ち着け。まだ大丈夫。
さっき貰った、越境許可書はコートのポケットにつっこんだままだから、不法滞在者として捕まることはない。国に強制送還されることはない。セーフ。
隣国についたら換金しようと思っていた貴金属や宝石、着替えの衣類は全部盗まれた鞄の中にあるものの、財布はコートのポケットの中。どうせ換金するし、一食分くらいのお金入れておけばいいでしょ! と、本当にちょっぴりとしかお金を入れてないけど。
財布は擦られても、わたしは気が付かないだろう、と、入れる金額をあえて押さえていたのが裏目に出てしまった。財布を取られるかも、という意識はあったものの、鞄を丸ごと取られるとは思っていなかったのだ。
前世は比較的平和で治安がよく、今世も治安がめちゃくちゃ良くて、他人の物を盗むのが当たり前の治安では鞄だって普通に取られる、という考えにまで至らなかったのだ。
「……今日中に、職を探さないと」
ほんの一瞬、気を抜いただけで鞄を盗まれたのだ。野宿なんてしてみろ、明日の朝日は拝めないぞ。
この際、猫二匹同伴で、住み込みで働かせてくれる職なら何だっていい。……いや、流石に犯罪に加担している職には就きたくないけど……。仕事がキツイとか、賃金が低いとか、その程度なら我慢できる。こちとら、前世の記憶があるもんで。そこらの侯爵令嬢十九歳とはわけが違うのだ。
「ショドー、ひいさま、もうちょっと待っててね」
ショドーは小柄だが、ひいさまは長毛種な上、体が大きいので、このバスケットで二匹収まるには結構辛いに違いない。早く出してあげたいところだが、先ほど鞄を盗まれたばかり。こんな場所で二匹を出して、どこかに行ってしまったり、盗まれたりしたら、わたし、生きていけない。
わたしがバスケットに声をかけると、ぐみゃ、と返事をするようにショドーが鳴いた。ショドーが鳴くのが下手くそで、一般的な猫と違う声をしているので、鳴くと一発で分かる。まあ、そこが最高に可愛いのだか。好き。
それにしても、庶民って、一体どんな仕事をしてるんだろう。異世界だから、全然想像がつかない。
いや、そりゃ前世と同じような仕事もたくさんあるだろうけど、そういうのって、何処に行ったら就職できるものなんだろう。お店やさんなら直接店に店員募集の張り紙とかしてるのかもしれないけど……。
仕事案内場とかないのかな。前世のことを考えると、あんまり信用できないが……でも、背に腹は変えられないし、この世界、この国が前世と同じとは限らない。
とりあえず、職員に道を尋ねる感覚で、仕事案内場がないか聞いてみよう。
わたしは立ち止まるのをやめ、道案内をしてくれそうな国境関門の職員の制服を着ている人を探し始めるのだった。
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