02

 本当に婚約破棄されて家を追い出されました。即堕ち二コマのスピード感、わたしじゃなきゃ見逃しちゃうね。ぴえん。


 まあ、より正確に言えば、向こうから婚約破棄を言い渡してきたのではなく、お母様がこんな不出来な娘は家の者として他家に嫁がせるわけにいかない! と自ら破棄を申し出たらしいが。そのへんの違いはあまり気にしてないのでどうでもいい。

 不幸中の幸いなのは、拾ってきた猫二匹を一緒に連れてくることを許されたことと、旅行鞄に入るくらいのものなら大体のものを持ち出すことができたこと、それから、国境付近にぽいっとされたことだろうか。


 わたしが拾ってきた猫二匹――黒猫のショドーと茶色と白の毛が混じる長毛種のひいさまを連れてこれただけで万々歳である。だって、あのまま家に置いてきたら、殺処分待ったなしなのである。

 ちなみにショドーは真っ黒だから墨汁を連想して書道から取ってショドー、ひいさまは、長毛種なこともあってあまりにも美猫なのでひいさま。本当にお姫様みたいな子なのだ。


 国境付近に捨てられたも結構ラッキーである。この子たちと一緒に生きていくならば、わたしはこの国を捨てないといけない。それならば、国を超えるのが簡単、というのはとってもありがたい話なのである。

 ……まあ、国外追放って、死刑のないこの国では極刑に相当する刑罰なんだけども。


 流石に殺人犯とか、そういう極悪人を国外に放つことはしないものの、魔女を忌み嫌うこの国では、おおよそ、実害のない魔女をこの刑に処す。前世での魔女狩りほど拷問やらなんやらはやっていないものの、結構無理な言いがかりで国の外へ魔女疑惑のある人を追いやるので、その辺は前世の魔女狩りとあまり変わらない。


 ということは、多分、わたしが知らないだけで、わたしを魔女ということにして国の外に放ることになったのだろう。猫に優しくする、という一点だけで、この国では魔女だと疑うに十分な理由なのだ。

 はー、くだらな。


 とりあえずわたしは国境関門を通って、国の外へと出る。

 この世界に生を受けて十九年。国の外へ出たことはない。

 わたしが生まれ育った国から見たら、どこも治安が悪かったり、生活水準が低かったり、貧困だったりご飯がまずかったりと、劣る点が多いと言われて育ってきたけど……まあ、住めば都でしょ! 大丈夫、大丈夫、なんとかなるなる。


 なんて、思っていたのだが――。


「――きゃっ」


 国境関門の施設を出るなり、ドン、と誰かにぶつかられたと思ったら、妙に右手が軽かった。


 ――かる、え、荷物、取られた!?


 わたしはパッと左手を思わず見る。ショドーとひいさまが入っているケージは無事だ。ケージと言うか、バスケットなのだが。二匹入っているそれは、かなり重いが、片手で持たないと二匹連れていけなかったので仕方がない。

 よかった、と胸を撫でおろしたのも一瞬。


「――お金!」


 全財産が入っている旅行鞄を盗まれてしまった。もう、わたしの鞄を持って行ってしまった誰かの姿は見れない。


 ――国を超えた瞬間、無一文になってしまった……?


「どうしよう……」


 わたしはショドーとひいさまが入ったバスケットを両手に持ち直し、途方に暮れてしまった。

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