第16話 自分の食事
木が沢山ある方角へ少し歩くと、その道は奥へ奥へと続いているのが分かった。
森……と言っていいほど広大なのかは分からない。
あまり深入りすると戻って来れなくなりそうだ。
文明が発達しても、森で命を落とす人は多いって聞いたことがある。
どうしようか……。
「キュルルー!」
木の生えているそばまで来ると、キュルルが上の方を向いてクンクンしていた。
何か匂う? 俺には全然分からないや。
「どうしたの、キュルル。この木の上? ……あー! これ、竜のエサだけど人も食べれる果物だ。確かドリュードだっけ。お、美味しいのかな……」
幸い背の高い木じゃないので、伸尖剣をコートアートマで伸ばし、形をサスマタ状にして上手くもぎ取ってみた。
キュルルが食べたそうにしている。
もぎ取って、近くにそれを感じると、凄く甘い、いい匂いがした。
でも色が怖いよ。
だってピンク色だもの……この果物。
ドラゴンは鼻が利くのかな? でも、キュルルはまだ産まれたばかりだし、これは早いんだよね。
「キュルル。これはもうちょっと大きくなってからじゃないと。ほんの少しだけ食べてみる?」
「キュルルー、キュル、キュルルー」
どうやら食べてみたいようだ。少しだけ実を食べて味を確認する。
……これは柿みたいな味だ。柔らかいし、少しだけなら食べてもよさそう。
少しだけ手にとって、口に持っていき食べさせてみた。
すると直ぐに吐き出した。やっぱりまだ早いのかな。
匂いは凄く好きなんだろうけど。
「ふふっ。キュルルにはまだ早いよね。でもよかった。これで水分も少し補える。栄養もそこそこはあるんじゃないかな。いくつか取って戻ろう」
ひとまずの水分源と自分用の食事を確保出来た。
一度穴倉まで戻って、これからのことをじっくり考えようと決めた。
そもそもここはどこだろう。
自分のいたオードレートからは、かなり離れた場所だとは思うんだけど。
方向感覚を把握する余裕なんて全く無かった。母竜は左右に暴れながら移動していたし。
目的地があって飛んでいたようには思えなかった。
海を高速で渡り切り、砂浜に……海岸って、やっぱり危ないよね。
それに、もう一つ凄く気掛かりなことがある。
ここでじっとしていたら、キュルルは……やっぱり覚悟を決めて、ここから離れよう。
まずは今持っている所持品を確認だ。
「えーっと。メモした紙とそれを入れて置ける筒を首から下げる奴と、ポーラル。それから伸尖剣と洋服。ただの靴と肌着。伸尖剣に着けてた紐。どうしよう。お金も持ってない。売れるとしたら、ポーラルと伸尖剣位なのかなぁ」
「キュルル?」
「ごめんね。心配しないで。キュルルのご飯はしばらく草だから大丈夫。問題は僕の方だよね……この果物だけじゃ、もっても三日位で体調悪くなるだろうな。竜って連れ歩いて平気なのかな。そうだ。このベッドを明日改造して洋服にしてみよう! 伸尖剣の形がどこまで変えられるか試してみよう……コートアートマ!」
ちょきちょきと切れるハサミのように……お願い。
……と、少しハサミのようにはいかなくても、切れそうな刃上の短剣には
出来た。
二枚刃には出来ないのかな。
「ふああ。キュルル、今日はもう寝よう」
「キュルルー」
キュルルを抱き抱えて、二人でゆっくり休むことにした。
――どのくらい寝てたのだろう。起きると日が沈んでいたので、慌てて
火を着けに行く。
今のところ獣などは出ていない。
海辺だと獣はあんまり寄ってこないのかな。
食糧も全然見当たらない。
魚とかはいるかもしれないけど……釣り針とか無いし。
少しキュルルの寝床が小さくなってしまうけど、寝床にしている服の一部を切り裂いて、キュルルに上手く巻ける布状にしてみた。
こういった裁縫っぽいものは、雪国では必須だったから上手く出来る。
動き辛くないように工夫もしてみた。
キュルルは嫌がってるどころか、嬉しそうに楽しそうにしてる。
俺の匂いがついてるからなのかな?
嫌がったら止めようかと思ったけど。
……よし。これなら竜だって直ぐには分からない。
夜が明けたら、旅に出よう。
「あ。待ってて直ぐ詰め直すから!」
服を切ったので、砂がこぼれ出ていた。
再び砂浜を詰めて、寝床にした。
案外こんな寝床でも眠れるものなんだね。
子供の体だからかな。
……考えてみたら、まだ七歳になったばかりだ。
俺、誕生日だったんだよね。
正確な日付は分からないけど、夜が全然来ない日の三日後がそうなんだ。
だからキュルルも同じ日が誕生日だ。
次にその日が来たら、一緒に祝おう。
外に炊いた木がパチパチと奏でる音を聴きながら、再び眠りに着いた。
「キュルルー」
「ぷはっ。キュルル……おはよ」
――翌朝も同じようにキュルルに顔を舐められて起きる。
草もしっかり無くなってる。キュルルの目が少し開いている。
顔、洗ってあげないといけないし、水も飲ませてあげないと。
取って来た果実を少しあげるけど、やっぱり食べはしない。
水分だけ少し補給出来てるかな。急がないと。
「キュルル。この寝床を離れるよ。砂は全部出して……大分汚れちゃったけど持っていかないとね。これに草を巻いて……よし」
寝床にしていた服にキュルルを乗せる。
その中にはキュルルの食事用の草を少し詰めてある。
見た感じでいうなら、キュルルの鼻と目がちょこんと洋服から
出て、尻尾が少し見えているだけだ。
改めて外に出て、周囲を確認する。東西南北全部確認しないと。
地球だったら太陽を基準に方角が分かった。
でも、ここは異世界だ。そんな方法、通用するわけない。
つまり、自分で方角を定める必要があるんだ。
今立っている場所を基準にして、森が見える方角を東。母竜を埋めた
場所が西。
北は岩壁で、俺の身長だと良く見えない。南は砂浜と海だ。
母竜を埋めた場所から北側……つまり北西に回りこんで北上出来るのかな。
見晴らしが悪くて迷いそうな森を選択したらきっとまずいよね。
確認しに行こう。
――キュルルを抱いたまま母竜が激突した壁を改めてみる。
よく調べないと、ここに竜が眠るなんてきっと分からない。
そう信じることにした。
砂浜沿いに綺麗な道が続いている。
海の色も凄く綺麗だ。
これだけ澄んでいる海なら、プランクトンとかがいない証拠なんだっけ。
だから生物が全然いないのか。
こういうのは勉強しておいてよかったなと思う。
色が澄んでいない海だったら危なかったかもしれない。
海にだって凶悪な生物がいるはず。ましてやここは異世界なんだ。
どんな生物がいてもおかしくはないし、どんな病気にかかってもおかしくはない。
もっとこの世界について知らないと……ここが無人島とかだったらどうしよう。
でも、小さい島ってわけじゃ無さそう。
気候もいいし、住んでる人がいるはず……。
ゆっくり歩きながら、途中でキュルルに餌をあげる。
――どのくらい歩いただろう? 雪道を歩いていたからか、足腰は相当鍛えられていたようで、キュルルを持ちながらでも、直ぐには疲れなかった。
それでも長く歩くと、徐々に草臥れてきた。
「ふぅ……景色が変わってきた。草原ぽくなってきたよ、キュルル」
「キュルルー……」
「もう眠い? 僕は歩くけど、キュルルは寝ててもいいよ。安心して。落としたりしないから」
キュルルは疲れたのか、眠ってしまった。
それから、時間にして一時間は歩いただろうか。
ゴーーという音が聞こえ出した。
そして……四足で歩く小型の動物がいた! 全然見たことない生物だけど。
水辺があるのかもしれない。動物を刺激しないようにしつつも、急ぎ足で音がする方へ向かう。
――そこには小さな滝から降り注ぐような池があった。
そして……近くにもっと驚くようなものがあった。
あれは……間違いない!
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