第10話 数日後
父さんがお医者さんを呼びに行ってから三日も経過していた。
その間に眼は開けられるようになったし、少しなら体も動かせるくらいには回復した。
ラギ・アルデの力を使って回復とかは出来ないのかな? とも思ったけど、今のところそんな都合のいい術は知らない。
そしてようやくお医者さんが家に来てくれた。
その人は薬草や痛み止めなどの薬を用いる、いわゆる薬剤師的な人だった。
俺の体の状態を見て、十分に注意される父さんと母さん。
やっぱり、かなり酷かったようだ。
「まったく。こんな小さな子供にラギ・アルデの力を行使させるなんて、一体何を考えてるんですか。どんなに優秀な子供でも、七つまでは使えない力なんですよ。分かってるんですか?」
「はい。その……あまりにも優秀で。以後気を付けます」
「幸いにもあばらが折れていたのと、筋肉の繊維に傷が入っていた程度で済んだからよかったものを。一つ間違えれば骨が肺を突き刺し、死んでいたかもしれない。いいかいファウ君。子供なら子供らしく、今は体作りに専念するように。竜と人を育む大気の神、ラル・ゾナスよ。この子をお救い下さりありがとうございます」
「先生。少しだけ、僕とお話してくれませんか」
「もちろんだとも。何を話したいんだね?」
「竜というのは、お医者さんから見てどのような存在なのでしょうか?」
俺は知りたかった。前世では獣医に憧れ、獣医師を目指していた。
この先生は獣医師というわけでは無いだろう。
だが医者として、竜についてどう感じているのか。
それを知りたかった。
「ふむ。難しい質問をするね。ご両親が優秀と言うのも分かる。まだ五歳での質問とはとても思えないな……竜とは地形を、大気を、天候を、世界を変える力を持つ。
「
「うん? 理解できるのかね?」
「はい。実際に見たわけじゃないけれど、きっと凄い存在なんですね」
「ああ。特にこの国の竜はな……さて、長話は体に響く。しばらくは薬を飲んでちゃんと寝るように。では」
「有難うございました。先生」
「礼儀正しく、素晴らしい子供だね。もし私を訪ねる機会があったらドルディドという医者を探し、訪ねなさい。覚えていたらだがね」
そう一言だけ告げて、先生は去っていった。
言い方は厳しいがやはりお医者さんだな。
人の命を助けるために、こんな辺境の場所まで来てくれるんだ。
好きでなければやっていられないだろう。
うまく眼を開け続けていられないが、顔はちゃんと覚えた。
この部屋にはトーナもエーテも、父さんも母さんもいる。
「ねえ父さん、母さん、エーテ、トーナ。僕ね……」
「ファウ。お願い。心配だからまだ寝ていて」
「お母さん、ちょっとだけだから。僕ね、凄く幸せなんだ。大勢の家族がいるって、こんな感じ……なんだね」
それを聞いて、父さんが凄い気まずそうな顔になる。それもそうだ。
随分と長く家を空けていた。出稼ぎしなければならないのは仕方のないことだ。
それでも思うところはあるのだろう。
「ファウ……すまない。父さん、戻って来たばかりでお前に怪我させちまった。お前が元気になるまでは家にいるから……」
「お父さん。無理しないで。仕事、大変なんでしょ? 大丈夫だよ。僕、とてもいいこと教わってちょっと失敗しちゃっただけだからさ。謝らないで。むしろ……有難う、父さん。しばらくは体作りに専念するから」
「ファウ……」
「トーナ、エーテ。エーデンさんが戻るまではずっと、そばにいて欲しいな。一緒にもっともっと勉強しよう」
「うん……うん!」
「でも、あんまり家にいたら迷惑かけちゃうから……」
「二人とも何言ってるの。ずっとここにいてもいいのよ……心配しないで。うちのお父さんこれでも結構稼いでくるのよ?」
「はははは、任せておけ。子供が十人いたとて、養っていく自信くらいあるぞ!」
「あははは……父さん、やっぱり恰好いいや……僕、ちょっと疲れたから寝るね……」
「ああ、お休みファウ。ゆっくり休め」
安心したのか、それとも薬のせいなのか。
凄い眠気が突然訪れた。
父さんは優しく布団をかけ直してくれた。
――――それから三日後。
起き上がって体も動かせるようになった。
子供の体だから治りが早いのかな。
でも骨折した後だから、そんなには動かせない。
そのためしばらくはボーラル術……つまり笛吹きの練習に勤しんでいた。
元気が出るような……そう。家族ものの有名なアニソンにしよう。
孫を溺愛するお爺ちゃんがいたり、皮肉をいうお父さんがいるやつの曲だ。
そういえば、このボーラル術も、ラギ・アルデの力を行使出来るらしい。
動物の怒りを
「わー、上手い上手い! 何かの音楽?」
「うん。アニソンだけど」
「アニ……ソン?」
「ああ、気にしないでトーナ。そういえばエーテは?」
「火を起こしに行ってるよ。ファウの代わりに私が頑張るんだーってはりきってるの。私もね、ファウの代わりに掃除をしたりしてるのよ! 偉い? 将来いいお嫁さんになりそうでしょ?」
「うん。二人とも感謝してるよ。僕、まだあまり動けないからさ」
「もうー、二人にって言わないでよ……そうだ、後で代わりの本、持ってきてあげるね!」
「有難う。でも、まだ手が上手く動かせなくて。本を持ったまま読むと疲れちゃうんだ。ポーラルもちょっとしか出来ないし」
「大丈夫! 私とエーテで分からないところを、力を合わせて読むから!」
二人とも、仲がいいようで悪いようでどっちだか分からないところがある。
けれど、親戚同士なんだよね。
出来ればもっと仲良く暮らして欲しいな。
――――こうしてしばらく、治療に専念しながら出稼ぎに行く父さんを見送り四人で生活していた。
ずっとこの暮らしが続けばいいと。
そう思っていたんだ。
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