第8話 帰宅
晴れやかな天気の中、エーデンさん夫妻に別れを告げて、トーナ、エーテ、母さんと外を歩き出す。
雪の上を歩くため、ラギ・アルデの力を行使する。
『「グリナリティオード』
エーテが少し危なっかしいので、母さんがしっかりと背負ってやることにした。
抵抗があったようだが、背負られると嬉しそうな、悲しそうな表情を浮かべていた。
無理もない。まだ五歳で両親と離れて生きているんだ。
トーナも少しうらやましそうに見ている。
トーナだってずっとずっと、我慢しているに違いない。
「さぁ行きましょう。アルジャンヌが待ちくたびれてるわね。帰ったら直ぐ掃除しないと」
「ねえ母さん。うちの食糧は平気なの?」
「ええ。まだ備蓄はあるわよ。それに子供のあなたが食事の心配する必要はないわ」
「うん。出来る限りお手伝いするから」
「私もする! 何でも言って! アルジャンヌの世話もしたいしたい」
「エーテも、頑張ってする」
「うふふっ。二人とも。そんなに気を張らなくていいのよ。自分の家だと思ってくつろいでね」
母さんがそう言いながら優しく笑うと、二人の笑顔が膨れ上がった。
やっぱり母さんはとても優しい。お母さんの子で本当に良かった。
前世の母さんもとても優しかった。
自分が先立った後のことを考えると、胸が苦しくなる。
だからいつも、考えないように気を付けている。
――しばらく歩くと我が家が見えてきた。
エーデンさんの家に向かうときより随分と早くたどり着けた気がする。
でも、辺りが一面雪だから、道はやっぱり覚え辛い。
家に着くと直ぐにアルジャンヌの様子を見に行く。
といっても相変わらず一階は雪におおわれているので、二階から入る。
アルジャンヌは直ぐ見つかった。
「クアーーーーーー!」
「うわっ。トイレの交換が最優先だ! ごめんよアルジャンヌ! 直ぐ取り換えるから!」
アルジャンヌはフンまみれになり餌箱はひっくり返りで相当いらいらしていたのだろう。
酷い惨状だったが、元気そうで一安心した。
片付けを終え、お昼の食事を済ませる。
二人ともとても美味しそうに食べてくれた。
そして、エーデンさんの家にいた頃よりも随分といい表情をしている。
親戚のおじさんの家っていうのは堅苦しいものなんだろうね。
でも家の方が他人の家だけど……友達の家だから落ち着くのかな。
「よく食べたわね二人とも。お母さんとっても嬉しいわ。ここにいる間は私をお母さんって呼んでいいのよ。食事が済んだらお勉強するんでしょ? 二人とも、頑張ってね」
「うん。おかあ……さん」
「ご馳走様でした。美味しかったです。あの、お母さん……」
「うん! よしよし。ファウ。ちゃーんとお勉強見てあげてね」
「もちろんだよ。一人でやるよりずっとはかどるから」
食事を片付け、洗い物をしようとしたら母さんに止められる。
全員食事のお皿だけ片づけて、母さんに方向転換させられた。
自分で食べたものくらいは片づけたかったんだけど。
二人を連れて勉強するため、紙を取り出す。
うちもそんなに紙は多くないけど、父さんが買っておいてくれたやつがある。
「今日は何のお勉強するの?」
「言語の勉強をしようかな。この年齢から言葉を沢山話せるようになっておくと、どこに行っても苦労しなくなるからね」
「言語って、今話してる言葉じゃないものってこと?」
「そうそう。僕たちは将来どこで暮らすかも分からないでしょ? ここは辺境の土地だから使える場所だって少ないかもしれない。だから今のうちに沢山語学を学んでおこう。簡単な流通語があるみたいなんだ」
「それがあると、どの町でもやっていける?」
「大体はやっていけるだろうね。それじゃまず……」
こうして俺とトーナ、エーテとの勉強が始まった。
俺とエーテはまだ五歳。トーナは七歳。この年齢で言語を覚えられたら、いざってときに商売も出来るかもしれない。
語学こそ最初にやるべき最難関の勉強だと聞いたことがある。
もちろん語学の勉強だけしていたら飽きてしまうので、竜の生態や、ボーラル術、ラギ・アルデの力や伸尖剣についても学んだ。
――――それから。
勉強を開始して丸一か月程が経過しただろうか。
母さんは深刻な顔をしていた。
「母さん、どうしたの?」
「……エーデンさんから連絡が無いの。アルジャンヌの手紙も受け取らずに戻って来てしまうし……」
「旅って一か月以上もするものなの?」
「そんなに遅くなるとは言ってなかったのよ。何かあったのかもしれないわ」
「あれ? 誰か来たみたいだけど、もしかしてエーデンさん?」
母さんと話をしていると、外から歩くような音が聞こえていた。
ここ一か月、来客は一度も無い。誰だろうか?
「今帰ったぞー。カティー! ファウー!」
その声を聞いて、母さんが急ぎ二階の外へ出れる場所へ走り出す。
俺も後を続いた。この声は間違いなく……「父さん! お父さーん!」
「お、二人とも元気そうでよかった。遅くなってすまなかったな。ほら、お土産だぞ」
そういうと、でかい肉の塊をどさりと置く。
その音を聞いて、トーナとエーテもやってくる。
「あれ? いつのまにこんなでかい子供を産んだんだ?」
「あなた、何言ってるの? その……しばらくしてないじゃない、そんなこと……」
「あー……ははは。ファウの友達か?」
「ラル・ゾナスの導きにより、今日お目通りを許されたこと、感謝いたします……トーナです! お邪魔してます! ファウのお父さん?」
「ラル・ゾナスの導きにより、今日お目通りを許されたこと、感謝いたします。エーテで
す。お邪魔してます」
「おお、二人ともしっかりしてるな。ラル・ゾナスの導きにより、今日お目通りを許されたこと、感謝いたします。ファウの父、オズワット・ブランザスだ。いいお嫁さんになりそうじゃないか、ファウ。お前も随分成長したろ、このあたりも……」
うわぁーー! 何てところ触って来るんだこの父親!
「ちょ、やめてよお父さん! 二人の前で恥ずかしい!」
「あなた、ちょっと……」
「ん? 俺まずいことしたか?」
「今したでしょ!」
「あーははは……悪い悪い。それにしては随分と深刻な顔だったが」
母さんに呼ばれて奥の部屋へ行く父さん。
荷物を持ってきてくれるように頼まれたので、運ぼうとするが……重い!
重くて全然持ち上がらない!
一体何キロのものを持ち歩いてたんだろう?
確かに父さんは凄いがっしりしてるけど、大人と子供でこんなに差があるものなのか?
「だめだぁ、びくともしないや……」
「三人なら動かせるかな?」
「やってみよう! せーの! ふん!」
三人がかりで少しずつ押して動かせそうなので、ちょっとずつ動かした。
全員それだけでヘトヘト。
これはもう、今日の特訓はおしまいだな……。
「重かっただろ。動かしてくれてありがとな。それじゃファウ。父さんが伸尖剣について説明してやる。興味あるだろ?」
「ええ!? いいの? 僕ね、もうラギ・アルデの力も使えるんだよ!」
「何? お前まだ四つだろ? 本当か、カティ?」
「あなた。ファウはもう五歳よ。それに本当なの。この子、天才かもしれないわ」
「ふうむ。さすが俺の子ってことか。よし、それなら……雪上渡歩は使えるか? 説明より実践形式でやろう」
「はい! よろしくお願いします。お父さん!」
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